台風は激甚化していないという最新データお見せします

bymuratdeniz/iStock
気象庁は風速33メートル以上になると台風を「強い」以上に分類する※1)。
この「強い」以上の台風の数は、過去、増加していない。このことを、筆者は気候変動監視レポート2018にあった下図を用いて説明してきた。
ところでこの図、翌年の2019年版からは気候変動監視レポートから消えてしまったので、アップデートしたくても、できなかった。
そこで最近リリースされたAI(ChatGPT o3)を使って、気象庁の観測データを整理して作図したら、下図が得られた(データはこちら)。
これを見ると、台風の激甚化など全く起きていないことは明白だ。もし激甚化しているというなら、この図は右肩上がりでなければならない。
なお気候変動監視レポート2018の説明では、
「強い」以上の台風の発生数や発生割合の変動については、台風の中心付近の最大風速データが揃っている1977年以降について示す。「強い」以上の勢力となった台風の発生数は、1977~2018年の統計期間では変化傾向は見られない
となっている。
ところがこの1977年以前を見ると、じつは「強い」以上の台風の数はかなり多かった。
のみならず、この1977年以前の発生数は、これでもかなりの過小評価(5%から20%程度)になっているということが複数の論文で指摘されてきた※2)。
当時は、観測体制が今よりも整備されていなかったので、「強い」以上に発達していた台風を見落としていた、といった理由である。
ということは、台風は激甚化していないどころか、1960年代に比べればかなり弱くなっていることは確実なようだ。
まして、「地球温暖化のせいで激甚化した」などということは論理的にありえない。
なぜこのような大事な図を、気象庁は2018年を最後に気候変動監視レポートから消してしまったのか?
台風は激甚化などしていない、という「不都合な事実」を隠蔽しているのではないか? と勘繰られても仕方あるまい。もしそうでないと言うなら、ぜひ、来年から復活させるべきだ。
■
※1)熱帯または亜熱帯地方で発生する低気圧を熱帯低気圧といい、そのうち北西太平洋または南シナ海に存在し、低気圧内の最大風速(10分間の平均風速)がおよそ17m/s以上のものを日本では「台風」と呼んでいる。また、台風の中心付近の最大風速により、勢力を「強い」(33m/s以上44m/s未満)、「非常に強い」(44m/s以上54m/s未満)、「猛烈な」(54m/s以上)と区分している。
※2)たとえば以下の文献による
・APressure-Based Analysis of the Historical Western North Pacific Tropical Cyclone Intensity Record
・Reliability Analysis of Climate Change of Tropical Cyclone Activity over the Western North Pacific
・Trend discrepancies among three best track data sets of western North Pacific tropical cyclones
■

関連記事
-
第6次エネルギー基本計画の策定が大詰めに差し掛かっている。 策定にあたっての一つの重要な争点は電源ごとの発電単価にある。2011年以降3回目のコスト検証委員会が、7月12日その中間報告を公表した。 同日の朝日新聞は、「発
-
日本政府は第7次エネルギー基本計画の改定作業に着手した。 2050年のCO2ゼロを目指し、2040年のCO2目標や電源構成などを議論するという。 いま日本政府は再エネ最優先を掲げているが、このまま2040年に向けて太陽光
-
一枚岩ではない世界システム 2022年2月24日からのロシアによるウクライナへの侵略を糾弾する国連の諸会議で示されたように、世界システムは一枚岩ではない。国家として依拠するイデオロギーや貿易の実情それに経済支援の現状を考
-
福島第一原発を見学すると、印象的なのはサイトを埋め尽くす1000基近い貯水タンクだ。貯水量は約100万トンで、毎日7000人の作業員がサイト内の水を貯水タンクに集める作業をしている。その水の中のトリチウム(三重水素)が浄
-
政府の審議会で発電コスト試算が示された。しかしとても分かりずらく、報道もトンチンカンだ。 以下、政府資料を読みといて再構成した結論を簡潔にお示ししよう。 2040年に電力を提供するための発電コストをまとめたのが図1だ。
-
IPCCの報告がこの8月に出た。これは第1部会報告と呼ばれるもので、地球温暖化の科学的知見についてまとめたものだ。何度かに分けて、気になった論点をまとめてゆこう。 IPCC報告では地球温暖化はCO2等の温室効果(とエアロ
-
元静岡大学工学部化学バイオ工学科 松田 智 ドイツの屋台骨でありEUの中心人物でもあったメルケル首相が引退することになり、今ドイツではその後任選びを行っている。選挙の結果、どの党も過半数を取れず、連立交渉が長引いてクリス
-
頭の悪い地方紙は、いまだに「原発新増設」がエネ基の争点だと思っているようだが、そんな時代はとっくに終わった。 311の原発事故がまるでなかったかのようである。 【原発推進派を集めて「エネルギー基本計画」議論スタート 「関
動画
アクセスランキング
- 24時間
- 週間
- 月間