太陽光発電で化石燃料輸入が減ると日本は得をするって本当か?

William_Potter/iStock
経済産業省は再エネ拡大を「燃料費の大幅削減策」として繰り返し訴えている。例えば2024年1月公表の資料では〈多大な燃料費削減効果を有する〉と強調した※1)。
2022年以来、未曽有の化石燃料価格高騰が起きたから、この局面では確かに化石燃料輸入は痛手だった。だがそれも沈静化して正常化したいま、改めて検討すると、「太陽光発電で化石燃料輸入が減る」ことにどれだけご利益があるのか、見てみよう。
日本政府は太陽光発電の大量導入を目指しているが、それを実施すると、系統との統合費用が極めて高くなる。これを含めると、発電コスト検証ワーキンググループが示した2040年想定(Cケース)によれば、太陽光発電のコストは36.9円/kWhにもなってしまう※2)。
これに対して、2025年春の輸入価格で計算した平均火力可変費は、LNG12.7ドル/MMBtu、石炭154ドル/t、原油80ドル/bblという値を用いると、6.8円/kWhに収まる※3)。
さて例として、1GW(100万kW)の太陽光を建てることを考える。設備利用率を18.3%※4)とすれば年間発電量は16億kWhとなる。
すると、この設備が削減できる燃料輸入額は6.8円×16億kWh=110億円/年である。一方、発電コストは同じ電力量に36.9円を掛けて590億円/年で、差し引き年間480億円の赤字になる。つまり太陽光発電を導入するほど、日本経済には大きな損失がもたらされる、ということだ。
輸入金額はどうだろうか。太陽光発電の設備費10.8万円/kW※5)は、モジュール(セル、フレームを含む)、パワコン、架台・工事付属品を含んでいるが、このうち輸入されるのはモジュールの殆どとパワコンの半分であり、金額ベースでは合計は70%程度になる(計算は注を参照)。すると輸入金額は720億円となって、110億円の燃料節減で割れば6.5年でいちおう釣り合うことになる。
しかし実際には、系統統合に必要なバッテリーや送電線の建設においても輸入品を使うことになるであろうから、輸入金額が減ると言う計算も実現するかどうかは極めて怪しい。
■
※1)エネルギーを巡る状況とエネルギー・原子力政策について(2024年1月 資源エネルギー庁)
※2)発電コスト検証ワーキンググループ 報告書(2024年2月)
※3)JOGMEC LNG Monthly Report(2025/3)、IEEJ Coal Outlook 2025、財務省 JCC 統計
※4)同WG モデルプラント諸元(設備利用率18.3%など)
※5)同WG 資料:設備費10.8万円/kW
■
注:モジュールとパワコンの輸割合の算定根拠
- 資源エネルギー庁「太陽光発電について」(2024-08-14 定期報告)掲載のシステム費内訳では、10kW以上地上設置の平均システム費22.6万円/kWのうちパネル8.6万円(38%)、パワコン2.7万円(12%) と示されている。
- パネル(モジュール)の輸入依存度は 90%超(WSJ “The Solar Breakthrough…”, 2024-09-03)。
- パワコンの輸入依存度は JEMA 出荷量調査(2024 上期)で 約40%。
- よって輸入コスト比率は
8.6×0.90+2.7×0.40=8.82万円/kW ⇒ (8.82) ÷ (8.6+2.7)=0.67~70%。 - 1GW(100万kW)の設備当たりの輸入額は7.6万円/kW × 100万kW=760億円。
※ 架台(3.1万円/kW)や工事・付帯部材(8.2万円/kW)は国内製造が主流のため、輸入額の計算から除外。
■
関連記事
-
原子力規制委員会は24日、原発の「特定重大事故等対処施設」(特重)について、工事計画の認可から5年以内に設置を義務づける経過措置を延長しないことを決めた。これは航空機によるテロ対策などのため予備の制御室などを設置する工事
-
人形峠(鳥取県)の国内ウラン鉱山の跡地。日本はウランの産出もほとんどない 1・ウラン資源の特徴 ウラン鉱床は鉄鉱石やアルミ鉱石などの鉱床とは異なり、その規模がはるかに小さい。ウラン含有量が20万トンもあれば
-
山火事が地球温暖化のせいではないことは、筆者は以前にも「地球温暖化ファクトシート」に書いたが、今回は、分かり易いデータを入手したので、手短かに紹介しよう。(詳しくは英語の原典を参照されたい) まずカリフォルニアの山火事が
-
「エネルギー資源小国の日本では、国策で開発したナトリウム冷却高速炉の技術を次代に継承して実用化させなければならない。それには高速増殖原型炉『もんじゅ』を運転して、技術力を維持しなければならない。軽水炉の運転で生ずるプルトニウムと劣化ウランを減らすためにも、ナトリウム冷却高速炉の実用化が必要だ」
-
会見する原子力規制委員会の田中俊一委員長 原子力規制委員会は6月29日、2013年7月に作成した新規制基準をめぐって、解説を行う「実用発電用原子炉に係る新規制基準の考え方に関する資料」を公表した。法律、規則
-
>>>(上)はこちら 3. 原発推進の理由 前回述べたように、アジアを中心に原発は再び主流になりつつある。その理由の第一は、2011年3月の原発事故の影響を受けて全国の原発が停止したため、膨大な費用が余
-
米国の第47代大統領就任式は、予想される厳しい寒さのため40年ぶりに屋内で行われる模様。その40年前とはあの第40代ロナルド・レーガン大統領の就任式だった。 中曽根康弘首相(当時)は1983年1月に初訪米し、レーガン大統
-
いまや科学者たちは、自分たちの研究が社会運動家のお気に召すよう、圧力を受けている。 Rasmussen氏が調査した(論文、紹介記事)。 方法はシンプルだ。1990年から2020年の間に全米科学財団(NSF)の研究賞を受賞
動画
アクセスランキング
- 24時間
- 週間
- 月間

















