鉄アルミの輸出を守る為に国内排出量取引制度は本末顛倒

rkankaro/iStock
日本政府はEUの国境炭素税(CBAM)に対抗するためとして、国内排出量取引制度の法制化を進めている。
CBAMの矢面に立つのは日本ではなく、CBAMは世界を敵に回すために腰砕けになるであろうこと、CBAMを理由にして経済を破滅させる国内排出量取引制度の法制化を進めることは愚の骨頂であることを3回にわたり述べてきた。
EU国境炭素税はBRICSが潰す:国会は排出量取引法案を否決せよ
GX改正法案を否決せよ:政府が隠す排出量取引制度の本当のコスト
今回は、CBAMの対象になる鉄鋼(HS72)とアルミ(HS76)について、日本からの輸出先のシェアを見てみよう。元データは通関統計による。
日本から各国へのHS72(鉄鋼)輸出額(2023年)は、図のようになっている。EU27合計で24.43億ドルで、世界全体の7%に過ぎない。また日本から各国へのHS76(アルミニウム)輸出額(2023年)はEU27合計で2.36億ドル、世界全体の9%に過ぎない。
CBAMの他の対象製品はセメント、肥料、水素、希ガス、電力だが、これの日本からEUへの輸出額は鉄・アルミに比べると微々たるものである。
鉄・アルミについて、EUへの輸出にCBAMを課せられるとすれば、輸出事業者(自動車部品などを扱っていると推察される)にとっては勿論痛手だが、世界全体に占めるシェアは小さいから、業界全体として見ればそれほど大きなものにはならない。
この輸出に対するCBAMを無くすという理由で、日本経済全体に排出総量規制である排出量取引制度を導入するならば、日本経済、特に製造業は壊滅へ向かうだろう。全くの本末顛倒である。
■

関連記事
-
原発再稼働をめぐり政府内で官邸・経済産業省と原子力規制委員会が綱引きを続けている。その間も、原発停止による燃料費の増加支出によって膨大な国富が海外に流出し、北海道は刻々と電力逼迫に追い込まれている。民主党政権は、電力会社をスケープゴートにすることで、発送電分離を通じた「電力全面自由化」に血道を上げるが、これは需要家利益にそぐわない。いまなすべきエネルギー政策の王道――それは「原子力事業の国家管理化」である。
-
メディアが捏造する分断 11月中旬に北海道の寿都町を訪ねる機会を得た。滞在中、片岡春雄町長や町の人たちに会い、また、街の最近の様子を見て雰囲気を感じることもできた。私が現地に着いた日の夜、折しもNHKは北海道スペシャル「
-
12月3日放送の言論アリーナ「米国ジャーナリストの見る福島、原発事故対策」に、出演した米国のジャーナリスト、ポール・ブルースタイン氏が、番組中で使った資料を紹介する。(全3回)
-
前回に続いて、環境影響(impact)を取り扱っている第2部会報告を読む。 今回は人間の健康への気候変動の影響。 ナマの観測の統計として図示されていたのはこの図Box 7.2.1だけで、(気候に関連する)全要因、デング熱
-
日本国内の報道やニュースクリップ等々を見ると、多くの人は気候変動対策・脱炭素は今や世界の常識と化しているような気になってしまうだろう。実際には、気候変動対策に前のめりなのは国連機関・英米とそれに追随するG7各国くらいで、
-
筆者は1960年代後半に大学院(機械工学専攻)を卒業し、重工業メーカーで約30年間にわたり原子力発電所の設計、開発、保守に携わってきた。2004年に第一線を退いてから原子力技術者OBの団体であるエネルギー問題に発言する会(通称:エネルギー会)に入会し、次世代層への技術伝承・人材育成、政策提言、マスコミ報道へ意見、雑誌などへ投稿、シンポジウムの開催など行なってきた。
-
2023年からなぜ急に地球の平均気温が上がったのか(図1)については、フンガトンガ火山噴火の影響など諸説ある。 Hunga Tonga volcano: impact on record warming だがこれに加えて
-
アメリカ議会では、民主党のオカシオ=コルテス下院議員などが発表した「グリーン・ニューディール」(GND)決議案が大きな論議を呼んでいる。2020年の大統領選挙の候補者に名乗りを上げた複数の議員が署名している。これはまだド
動画
アクセスランキング
- 24時間
- 週間
- 月間