LNGの方が石炭よりもCO2が多いというのは本当か

2025年07月09日 06:40
アバター画像
キヤノングローバル戦略研究所研究主幹

Lari Bat/iStock

低CO2だとされるLNGの方が石炭よりもCO2排出量が多い、と言う論文がコーネル大学のハワースらのチームから報告されて話題になっている(図1)。ここではCO2排出量は燃料の採掘から利用までの「ライフサイクル」で計算されており、またメタンなどのCO2以外の温室効果ガスはCO2に換算して合計している。

さて、これまでは、LNGの方が石炭よりもCO2が少ないというのが常識だった。日本でよく使われている電力中央研究所の計算でもそのようになっている(図2)。

なぜこのような違いが出るのだろうか? チャッピー(ChatGTP)に聞いてみたら、とてもそれっぽい答えが返ってきた。チャット全文は長いのでリンクにして、以下にまとめだけ抜粋してから補足しよう:

まとめ —— なぜ「逆転」したのか

  1. メタンをどう扱うか
    • 20年 GWP と高漏洩率を仮定 ⇒ LNG 排出が跳ね上がる。
    • 100年 GWP+低漏洩 ⇒ ほぼ CO₂差(燃焼効率差)だけが残る。
  2. 比較の土俵(MJ か kWh か)
    • 熱量ベースだと発電効率の優位(GTCC > 石炭)は見えない。
    • 日本の実際の電力系統では kWh 基準が妥当。
  3. 想定するサプライチェーン
    • シェール→欧州と、豪州→日本では漏洩・輸送エネルギーが別物。
  4. 技術・データの年代差
    • 2000年代後半の前提 vs 2020年代の実測で差が拡大。

まず、GWPというのは、メタンの温室効果を換算する係数である。正確な定義は以下の通り:

地球温暖化係数(GWP:Global Warming Potential)とは、二酸化炭素を基準として、他の温室効果ガスがどれだけ温暖化に貢献するかを表す指標です。具体的には、ある温室効果ガス1kgが放出された後の一定期間(通常は100年)に、二酸化炭素と比較してどれだけ地球を温暖化させるかを数値で表したものです。

メタンは大気中で化学反応によって自然に分解されるので、100年も経つとかなり減少する。このため「20年GWP(=82.5)」と「100年GWP(=28)」では値が3倍も異なる。

またコーネル大学はメタンが多く漏洩するとしていて、電中研の20倍もの値になっている。このため、コーネル大学の計算ではLC-CO2のうち38%をメタンが占めているが、電中研ではこれは遥かに小さい。

それから、コーネル大学は燃料の発熱量(メガジュール)あがりのCO2を比較しているのに対して、電中研は発電量(kWh)あたりのCO2を比較している。発電効率はLNG火力の方が石炭火力よりかなり高いが、コーネル大学はこれを反映できていない。

ということで、コーネル大学の結果に対して、メタンを「100年GWP」で評価して、電中研の用いている火力発電技術を想定すれば、やはりLNGの方が石炭よりも低排出になりそうだ。

これもチャッピーに計算させたら、その通りであった(図3)。

図3 コーネル大学の結果に対してメタンを「100年GWP」で評価して、電中研の用いている火力発電技術を想定した場合

チャッピー曰く:

つまり、時間軸(GWP100)と発電効率の差し替えだけで、コーネル大学ハワースの「LNGは石炭より悪い」という結論は、日本の電中研前提では「まだ悪くない、むしろ有利」に変わります。
ただし依然としてハワースの高いメタン漏洩率を引き継いでおり、漏洩削減が進めばさらに差が開く可能性があります。

参考:電中研オリジナル値

  • LNG GTCC(1 500 °C) 430 g CO₂/kWh
  • 石炭USC(600 °C)   881 g CO₂/kWh
    ハワース→調整後(699 g/kWh)は依然 約1.6倍高い ため、メタン対策・輸送距離・データ年次差が大きいことが分かります。

ごもっとも。

チャッピーはウソや間違いがまだよくあるのだけど、私が見た限り、今回はほとんど間違えていないようだ(もし、間違いあったら教えてください)。

データが語る気候変動問題のホントとウソ

This page as PDF
アバター画像
キヤノングローバル戦略研究所研究主幹

関連記事

  • 2021年8月に出たIPCCの報告の要約に下図がある。過去の地球の平均気温と大気中のCO2濃度を比較したものだ。これを見ると、CO2濃度の高い時期(Early Eocene)に、気温が大変に高くなっているように見える。
  • 日本は世界でもっとも地震の多い国です。東海地震のリスクが警告されている静岡を会場に、アゴラ研究所はシンポジウムを開催します。災害と向き合う際のリスクを、エネルギー問題や環境問題を含めて全体的に評価し、バランスの取れた地域社会の在り方を考えます。続きを読む
  • 政府のエネルギー基本計画について、アゴラ研究所の池田信夫所長がコメントを示しています。内容が、世論からの批判を怖れ、あいまいであることを批判しています。
  • 気候・エネルギー問題はG7広島サミット共同声明の5分の1のスペースを占めており、サミットの重点課題の一つであったことが明らかである。ウクライナ戦争によってエネルギー安全保障が各国のトッププライオリティとなり、温暖化問題へ
  • 元静岡大学工学部化学バイオ工学科 松田 智 6月30日に掲載された宮本優氏の「失われつつある科学への信頼を取り戻すには・・」の主張に、筆者は幾つかの点では共感する。ただし全てにではない(例えばコロナの「2類→5類」論には
  • ロイター通信
    上記IEAのリポートの要約。エネルギー政策では小額の投資で、状況は変えられるとリポートは訴えている。
  • 本年1月17日、ドイツ西部での炭鉱拡張工事に対する環境活動家の抗議行動にスウェーデンの環境活動家グレタ・トゥーンベリが参加し、警察に一時身柄を拘束されたということがニュースになった。 ロシアからの天然ガスに大きく依存して
  • 2015年2月3日に、福島県伊達市霊山町のりょうぜん里山がっこうにて、第2回地域シンポジウム「」を開催したのでこの詳細を報告する。その前に第2回地域シンポジウムに対して頂いた率直な意見の例である。『食べる楽しみや、郷土の食文化を失ってしまった地元民の悲しみや憤りは察してあまりある。しかし、その気持ちにつけこんで、わざわざシンポジウムで、子供に汚染食品を食べるように仕向ける意図は何なのか?』

アクセスランキング

  • 24時間
  • 週間
  • 月間

過去の記事

ページの先頭に戻る↑