LNGの方が石炭よりもCO2が多いというのは本当か

Lari Bat/iStock
低CO2だとされるLNGの方が石炭よりもCO2排出量が多い、と言う論文がコーネル大学のハワースらのチームから報告されて話題になっている(図1)。ここではCO2排出量は燃料の採掘から利用までの「ライフサイクル」で計算されており、またメタンなどのCO2以外の温室効果ガスはCO2に換算して合計している。

図1 コーネル大学報告書より
さて、これまでは、LNGの方が石炭よりもCO2が少ないというのが常識だった。日本でよく使われている電力中央研究所の計算でもそのようになっている(図2)。

図2 電力中央研究所報告より
なぜこのような違いが出るのだろうか? チャッピー(ChatGTP)に聞いてみたら、とてもそれっぽい答えが返ってきた。チャット全文は長いのでリンクにして、以下にまとめだけ抜粋してから補足しよう:
まとめ —— なぜ「逆転」したのか
- メタンをどう扱うか
- 20年 GWP と高漏洩率を仮定 ⇒ LNG 排出が跳ね上がる。
- 100年 GWP+低漏洩 ⇒ ほぼ CO₂差(燃焼効率差)だけが残る。
- 比較の土俵(MJ か kWh か)
- 熱量ベースだと発電効率の優位(GTCC > 石炭)は見えない。
- 日本の実際の電力系統では kWh 基準が妥当。
- 想定するサプライチェーン
- シェール→欧州と、豪州→日本では漏洩・輸送エネルギーが別物。
- 技術・データの年代差
- 2000年代後半の前提 vs 2020年代の実測で差が拡大。
まず、GWPというのは、メタンの温室効果を換算する係数である。正確な定義は以下の通り:
地球温暖化係数(GWP:Global Warming Potential)とは、二酸化炭素を基準として、他の温室効果ガスがどれだけ温暖化に貢献するかを表す指標です。具体的には、ある温室効果ガス1kgが放出された後の一定期間(通常は100年)に、二酸化炭素と比較してどれだけ地球を温暖化させるかを数値で表したものです。
メタンは大気中で化学反応によって自然に分解されるので、100年も経つとかなり減少する。このため「20年GWP(=82.5)」と「100年GWP(=28)」では値が3倍も異なる。
またコーネル大学はメタンが多く漏洩するとしていて、電中研の20倍もの値になっている。このため、コーネル大学の計算ではLC-CO2のうち38%をメタンが占めているが、電中研ではこれは遥かに小さい。
それから、コーネル大学は燃料の発熱量(メガジュール)あがりのCO2を比較しているのに対して、電中研は発電量(kWh)あたりのCO2を比較している。発電効率はLNG火力の方が石炭火力よりかなり高いが、コーネル大学はこれを反映できていない。
ということで、コーネル大学の結果に対して、メタンを「100年GWP」で評価して、電中研の用いている火力発電技術を想定すれば、やはりLNGの方が石炭よりも低排出になりそうだ。
これもチャッピーに計算させたら、その通りであった(図3)。

図3 コーネル大学の結果に対してメタンを「100年GWP」で評価して、電中研の用いている火力発電技術を想定した場合
チャッピー曰く:
つまり、時間軸(GWP100)と発電効率の差し替えだけで、コーネル大学ハワースの「LNGは石炭より悪い」という結論は、日本の電中研前提では「まだ悪くない、むしろ有利」に変わります。
ただし依然としてハワースの高いメタン漏洩率を引き継いでおり、漏洩削減が進めばさらに差が開く可能性があります。参考:電中研オリジナル値
- LNG GTCC(1 500 °C) 430 g CO₂/kWh
- 石炭USC(600 °C) 881 g CO₂/kWh
ハワース→調整後(699 g/kWh)は依然 約1.6倍高い ため、メタン対策・輸送距離・データ年次差が大きいことが分かります。
ごもっとも。
チャッピーはウソや間違いがまだよくあるのだけど、私が見た限り、今回はほとんど間違えていないようだ(もし、間違いあったら教えてください)。
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