水素案件が世界中で頓挫している

2025年07月14日 06:50
アバター画像
キヤノングローバル戦略研究所研究主幹

style-photography/iStock

水素が「筋の悪い」エネルギーであり、経済性が成立する見込みはないことは、この連載でも松田智氏が何度も説得的に述べていた。

水素は失敗すると分かっているのに…

水素先進国が直面する種々の現実的困難と対応 vs. 日本の脳天気

今回はChatGPT(チャッピー)を活用して追加情報を集めてみたので紹介しよう。詳しくはリンクをご覧いただくとして、要点のみ、以下で述べる。

  • まず、世界中で、大型の水素プロジェクトが頓挫している。欧州で8件、米国で3件、アジア太平洋で7件、ラテンアメリカで1件が確認された。理由は様々挙げられているが、根本的には、政府の支援込みでも採算が合わない、ということ。
  • 順調に運転開始した大型プロジェクトもある。ただし、物理的に(再エネ証書利用や再エネ電気料金メニューなどではなく)ネットゼロを既に達成している案件は殆ど存在しない。実態に運転開始したのはスペインで1件あることが確認されているのみである。ただしこの電解設備は2万キロワットに過ぎないので大型案件というべきかは、ハテナであるが。。なお中国には今年中に運転開始するより大型の案件がある。
区分 プロジェクト(国) 規模・稼働 電源・CO処理の実態 物理ネットゼロ達成度*
グリーン(水素・アンモニア) Envision Chifeng Net‑Zero Park(中国・内モンゴル) 500 MW電解(最終2.5 GW)2025‑07商業運転 2 GW級オフグリッド風力+300 MWh蓄電で島状運用。系統非連系。  達成(Hydrogen Insight, hydrogentechworld.com)
Iberdrola Puertollano(スペイン) 20 MW電解+100 MW専用PV2022‑05稼働 同敷地の専用太陽光+20 MWh蓄電のみを給電。系統バックアップなし。  達成(Iberdrola, eFUEL-TODAY)

さて水素が「筋が悪い」理由は松田氏が縷々述べてきた通りだけれども、1件だけ、高校生レベルで理解できることを補足しよう。こちらも詳細はリンクにして、以下は要約だけ述べる。

水素はH2、メタンはCH4であるが、おなじ1分子(同じ体積)が燃えたときの熱量は3倍も違う:

その一方で、水素も、天然ガスの主原料であるメタンも、気体の状態方程式PV=nRTを思い出せば、同じ分子数であれば同じだけの体積になる。

ということは、同じだけの熱量を得るためには、水素はメタンの3倍の体積が必要になる。

そうすると、単純に言っても、巷で見かけるガスタンクは、メタンから水素に切り替えると3倍の量が必要になる。実際には、それよりは、圧力の高いタンクを作ることになるが、これはもちろんコストがかかる。なお水素は分子が小さいので、金属を脆弱にしたり、漏れたりしやすいので、タンクには特殊な加工も必要になる。

データが語る気候変動問題のホントとウソ

This page as PDF
アバター画像
キヤノングローバル戦略研究所研究主幹

関連記事

  • パリ協定を受けて、炭素税をめぐる議論が活発になってきた。3月に日本政府に招かれたスティグリッツは「消費税より炭素税が望ましい」と提言した。他方、ベイカー元国務長官などの創立した共和党系のシンクタンクも、アメリカ政府が炭素
  • 米国ブレークスルー研究所の報告書「太陽帝国の罪(Sins of a solar empire)」に衝撃的な数字が出ている。カリフォルニアで設置される太陽光パネルは、石炭火力が発電の主力の中国で製造しているので、10年使わ
  • 地球温暖化による海面上昇ということが言われている。 だが伊豆半島についての産業総合研究所らの調査では、地盤が隆起してきたので、相対的に言って海面は下降してきたことが示された。 プレスリリースに詳しい説明がある。 大正関東
  • 経済産業省は1月15日、東京電力の新しい総合特別事業計画(再建計画)を認定した。その概要は下の資料〔=新・総合特別事業計画 における取り組み〕の通りである。
  • 地球が温暖化しているといっても、ごく僅かにすぎない。気温の自然変動は大きい。 以下、MITの気候学の第一人者リチャード・リンゼンと元NASAで気温計測の嚆矢であるアラバマ大学ジョン・クリスティによる解説を紹介する。 我々
  • 米国では温暖化対策に熱心なバイデン政権が誕生し、早速4月22日に気候サミットを主催することになった。これに前後してバイデン政権は野心的なCO2削減目標を発表すると憶測されている。オバマ政権がパリ協定合意時に提出した数値目
  • 世の中には「電力自由化」がいいことだと思っている人がいるようだ。企業の規制をなくす自由化は、一般論としては望ましいが、民主党政権のもとで経産省がやった電力自由化は最悪の部類に入る。自由化の最大の目的は電気代を下げることだ
  • 経済産業省は、電力の全面自由化と発送電分離を行なう方針を示した。これ自体は今に始まったことではなく、1990年代に通産省が電力自由化を始めたときの最終目標だった。2003年の第3次制度改革では卸電力取引市場が創設されるとともに、50kW以上の高圧需要家について小売り自由化が行なわれ、その次のステップとして全面自由化が想定されていた。しかし2008年の第4次制度改革では低圧(小口)の自由化は見送られ、発送電分離にも電気事業連合会が強く抵抗し、立ち消えになってしまった。

アクセスランキング

  • 24時間
  • 週間
  • 月間

過去の記事

ページの先頭に戻る↑