台風はむしろ弱くなったことを政府は隠している

2025年08月19日 07:00
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キヤノングローバル戦略研究所研究主幹

FrankRamspott/iStock

以前、台風は激甚化などしていないことを書いたが、今回は、さらに分かりやすいグラフを書いたのでお見せしよう。

気象庁は、2018年までは毎年公開する「気候変動監視レポート」に、台風が激甚化していないことを示す下図を載せていた。図中、「強い」以上とは、中心付近の最大風速33メートル以上のことで、その数が増えていないということは「激甚化していない」ということである。

しかし、2018年を最後にこの図は同レポートから消された。理由は書いていないが、激甚化していないことが明瞭だと、不都合な人々がいるからだ、ということは仄聞している。

ところで、この図が1977年以降なのは、観測データの取り方が変わったためである、と同レポートでは説明されている。

「強い」以上の台風の発生数や発生割合の変動については、台風の中心付近の最大風速データが揃っている1977年以降について示す。

ところが、その1976年以前を含めると、台風はむしろ弱くなっていることがはっきりする(1976年以前についても、数値データは気象庁HPに置いてあるのでそれを使った)。

そして実は、1976年以前のデータは、これでも過小評価になっている。昔のデータなので「取りこぼし」があり、実際にはこれよりも5%から12%程度(中心値は10%程度)も「強い」以上の台風は多かったと推計される。

これを含めて図示すると、以下になる。

図 「強い」以上の台風の数
黒線は、気象庁HPのデータによる最大風速33メートル以上の台風の発生数
オレンジの線は、1976年以前の台風の数について、プラス10%の補正を施したもの

この図から、1950年代、1960年代の強い台風の発生数は、1970年代から現代に比べて多かったことが分かる。

台風は激甚化などしていない。むしろ弱くなった。気象庁も環境庁も、このようなデータこそ、隠さずにきちんと分かりやすく公開すべきだ。

もちろん、防災の観点からは、油断はできない。なにしろ、なぜ弱くなったのか、誰も分からないのだから。また何時、1950年代のように、洞爺丸台風(1954年)、狩野川台風(1958年)、伊勢湾台風(1959年)のような恐ろしい台風が毎年のようにやってくるかもしれない。

なお、上述した「プラス10%」の補正が妥当なことについてはChatGPTに調べてもらったので下記に張り付けておこう。

以下の理由から、1951–76年の「強い(33 m/s以上)」以上の発生数補正は +5〜12%(中心+10%)、状況によっても最大でも+15%程度が実務的に妥当と考えられます。第一に、1974–87年の西太平洋では Atkinson–Holliday(1977)の風圧関係に強く依存したため、台風強度域で系統的な過小評価が生じたことが再解析で示されています。Knaff らは「1974–1987における台風強度以上で最大風速の系統的過小評価が生じた」(原文 “systematic underestimation of the MWS… during 1974–1987”)と明言しています。(AMS Meetings)

第二に、時代・機関ごとの指標の不統一が閾値近傍の判定に影響します。Ying らは「JMA は1977年以前は中心気圧のみJTWC は2000年以前は最大風のみ」と整理しており、同一基準での再分類が不可欠です(原文 “The JMA data contain only the central pressures prior to 1977, while the JTWC data have only the sustained maximum wind before 2000.”)。(J-STAGE) また、Song らは「JTWC はカテゴリー2–3を4–5に分類しがち」と指摘し、分類法の違いが頻度や長期トレンドの差を生むことを示しました。(ResearchGate)

第三に、観測網の粗密差による早期年代の取りこぼしも小さくありません。IBTrACS 技術文書は「初期年代では全ての嵐が捕捉されているわけではない」と明記し、件数統計の不確かさを警告しています(原文 “though not all storms are captured in earlier years”)。

一方で、気圧ベースの再構築は風速の系統誤差を抑える有力手段です。Knapp らは気圧と航空機観測の整合を確認し、風速より気圧の同質性が高いことを示しました。(American Meteorological Society Journals) また、Bai らは1957–87年の航空機データと再解析を用いてWPRを再検討し、年代間の計測・手法差が強度評価に与える偏りを具体化しています。(NOAA Institutional Repository)

以上を総合すると、1974–87年のWPR起因の下ぶれ、1977年以前の指標・検出の不均質を一括補正する際、閾値越えの“強い”件数は一桁台〜十数%程度の上方修正で説明でき、20%超は文献整合性を欠きやすい—というのが妥当な落としどころです。

データが語る気候変動問題のホントとウソ

 

 

 

 

 

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