大手炭素クレジット会社社長が詐欺を認める

SergeyChayko/iStock
以下の記事もまったく日本語で報道されません。
Fintech firm Aspiration Partners’ co-founder pleads guilty to defrauding investors
米国司法省は木曜日、かつてAspiration Partners Incとして知られ、俳優のロバート・ダウニー・Jr.やレオナルド・ディカプリオが支援していたフィンテック企業の共同創設者が、2億4800万ドル規模の詐欺事件で投資家や貸し手に対して有罪を認めたと発表した。司法省は声明で、Aspiration Partnersの取締役も務めていたジョセフ・サンバーグ氏は、2件の詐欺罪で有罪を認めることに合意し、1件につき最高20年の懲役刑に処せられる可能性があると述べた。
今年4月にアゴラで紹介した詐欺事件の続報です。当時、本件が炭素クレジットに関する詐欺との確証がなかったため、筆者は「(通常の?変な言い方ですが)巨額詐欺であって、炭素クレジットの売買に関連した詐欺ということではなさそうです。」と抑制的に述べていました。
今週初め、現存する最大のカーボンオフセット/クレジット取引の新興企業のひとつであるAspiration Partners、Inc.が破産を申請したというニュースが流れた。米国司法省が共同創業者のジョセフ・サンバーグ氏を、少なくとも1億4500万ドルの投資家資金を騙し取ったとして起訴した直後、同社は破綻した。
司法省のサイトを見ると逮捕容疑は(通常の?変な言い方ですが)巨額詐欺であって、炭素クレジットの売買に関連した詐欺ということではなさそうです。しかし、炭素クレジット大手企業の社長が逮捕されたことに変わりありません。
念のため、氏の名誉のために司法省の記述を引用しておきます。
「刑事告訴には容疑が含まれます。被告人は、法廷で合理的な疑いを超えて有罪が立証されるまでは無罪と推定されます。」
今回、サンバーグ氏が認めた詐欺罪はやはり炭素クレジットがらみだったようです。やれやれ。。
California ‘Anti-Poverty Activist’ And Dem Mega-Donor Pleads Guilty To Massive Carbon-Credit Scam
サンバーグ氏と他の著名な民主党員は、炭素クレジットプラットフォームとオンラインバンキングアプリ「Aspiration Partners Inc.」を立ち上げ、植樹を行い、汚染産業には投資しないことを約束した。(中略)
しかし、それはウォール街のどの詐欺スキームにも劣らない腐敗したスキームであり、サンバーグは自身の植樹サービスのために偽の顧客をでっち上げ、投資家を欺いて20億ドルの評価額を偽装したと、司法省は述べた。司法省によると、サンバーグは2件の詐欺を認めたため、最大40年の懲役刑に処される。
「このいわゆる『貧困対策』活動家は、貸し手や投資家から数億ドルを詐取しようとしたことで、単なる自己利益追求の詐欺師に過ぎないことを認めた」と、カリフォルニア中央地区の米国連邦検事代理であるビル・エッサイリ氏は述べた。
アスピレーションは、企業が「炭素クレジット」を購入するために設立され、アスピレーションが第三者にアフリカで木を植える費用を支払い、その排出量を相殺する約束をしていた。しかし、米国郵便検査局はサンバーグが「会社の価値を上昇させ、自分の懐を潤すために嘘を基にビジネスを構築した」と指摘した。
調査結果は、より広範な「炭素クレジット」の世界について疑問を投げかけており、それが実質的に、現実の世界への影響よりも党派的なマーケティングに依存した「幻想的な恩恵」と引き換えに、大企業が別の大企業に資金を支払う仕組みに過ぎないのではないかという疑問を問うものだ。
サンバーグはまた、証券取引委員会(SEC)の民事訴訟で、自身の業績を偽装するために架空の顧客を捏造したとの指摘を受けている。
「アスピレーションの事業が急速に成長しているように見せかけるため、サンバーグは友人、知人、中小企業、宗教団体を募集し、それらを『植樹サービス』に対して多額の支払いに完全にコミットしている『本物の顧客』として提示した」と、SECの起訴状は説明している。実際には、彼らは支払うつもりはなかった。サンバーグ自身は、顧客からの支払いだと偽装して最初の支払いに資金提供し、顧客を本物のように見せかけた。
「サンバーグの詐欺行為により、アスピレーションの環境持続可能性サービス事業が繁盛していると誤信した投資家たちから3億ドル以上を調達した」と同報告書は指摘している。
他方、昨年10月には世界最大のボランタリー炭素クレジット認証機関であるVerraの元取締役であるケン・ニューカム氏が告訴されました。
いわば世界の炭素クレジット市場の創始者、カーボン・オフセットビジネスの創業社長のような人物ですが、炭素クレジットをめぐる詐欺の疑いで昨年10月に米国司法省(DOJ)と連邦捜査局(FBI)から刑事告訴され、米国証券取引委員会(SEC)と米国商品先物取引委員会(CFTC)から民事告訴をされました。
陰謀のメンバーは、データを操作して、実際よりもはるかに炭素排出量の削減に成功しているかのように見せかけた。例えば、2021年8月頃に、CQCはマラウイの2つのプロジェクトとザンビアの2つのプロジェクトの調査データを受け取った。調査データは、CQCが予想していた排出削減の約半分だった。
こちらはCO2削減量データを操作したことによる詐欺であり、同類の炭素クレジット詐欺が世界中で起こっています。日本語で報道されないため、残念ながら日本企業にはまったく知られていません。
炭素クレジットは高品質と言われるものであってもCO2削減量やクレジット発行量の検証が難しく、詐欺が横行しているのです。
■
現実にはありえませんが、百歩譲って将来完璧な炭素会計が確立されてCO2データを操作する詐欺が根絶されたとしても、炭素クレジット市場は追加性、二重計上、悪貨が良貨を駆逐する経済原則などどうやっても解決不可能な課題が永遠に残ります。利用する企業側にとってもCO2削減を装うグリーンウォッシュ、他人の成果を金で買う非倫理性など問題だらけです。
なお、先日排出量取引で利用できる炭素クレジットの上限を10%にするという案が出ていました。
CO2削減「形だけ」防止へ カーボン・クレジット使用上限10%に 経産省、排出量取引で
経済産業省は2日、2026年度に始まる排出量取引制度で、二酸化炭素(CO2)を削減したとみなされる「カーボン・クレジット」の使用上限を排出量の10%に制限する案を公表した。資金のある企業が形だけCO2を削減することがないように、実際の排出量を減らす取り組みを促す。
(中略)
依存度が高まると脱炭素化の意欲を後退させる懸念がある。
たとえ詐欺ではなくても、炭素クレジット=形だけ、脱炭素が後退する、と国の有識者会議で議論されているのです。さらに、J-クレジット購入者は「もっと(実態以上に)排出削減した“ことにしたい”者」というひどい呼ばれ方をされています。
日本メディアの皆さん、海外の炭素クレジット詐欺事件を国内でも報道してください。ちゃんと報道されれば、日本企業が炭素クレジットを見る目も変わるはずです。
■

関連記事
-
石野前連合とは、石破ー野田ー前原連合のことである。 ここのところ自由民主党だけでなく、立憲民主党も日本維新の会もなんだか〝溶けはじめて〟いるようである。 いずれの場合も党としての体をなしていない。自民党は裏金問題から解脱
-
国際エネルギー機関(IEA)が「2050年にネットゼロ」シナリオを発表した。英国政府の要請で作成されたものだ。急速な技術進歩によって、世界全体で2050年までにCO2の実質ゼロ、日本の流行りの言葉で言えば「脱炭素」を達成
-
イタリアがSMRで原子力回帰 それはアカンでしょ! イタリアがメローニ首相の主導のもとに原子力に回帰する方向だという。今年5月に、下院で原発活用の動議が可決された。 世界で最初の原子炉を作ったのはイタリア出身のノーベル物
-
GEPRフェロー 諸葛宗男 今、本州最北端の青森県六ケ所村に分離プルトニウム[注1] が3.6トン貯蔵されている。日本全体の約3分の1だ。再処理工場が稼働すれば分離プルトニウムが毎年約8トン生産される。それらは一体どのよ
-
2月26日付のウォールストリートジャーナル紙の社説は再エネ導入策による米国の電力網不安定化のリスクを指摘している。これは2月に発表された米国PJMの報告書を踏まえたものであり、我が国にも様々な示唆をあたえるものである。
-
自民党政権に交代して、ようやくエネルギー政策を経済・生活の観点から検討しようという動きが出てきた。
-
【要旨】(編集部作成) 放射線の基準は、市民の不安を避けるためにかなり厳格なものとなってきた。国際放射線防護委員会(ICRP)は、どんな被曝でも「合理的に達成可能な限り低い(ALARA:As Low As Reasonably Achievable)」レベルであることを守らなければならないという規制を勧告している。この基準を採用する科学的な根拠はない。福島での調査では住民の精神的ストレスが高まっていた。ALARAに基づく放射線の防護基準は見直されるべきである。
-
ついに出始めました。ニュージーランド航空が2030年のCO2削減目標を撤回したそうです。 ニュージーランド航空、航空機納入の遅れを理由に2030年の炭素排出削減目標を撤回 大手航空会社として初めて気候変動対策を撤回したが
動画
アクセスランキング
- 24時間
- 週間
- 月間