温暖化対策でエアコンの値段は既に1万円以上高くなっている

2025年12月17日 06:40
アバター画像
キヤノングローバル戦略研究所研究主幹

Supot Sriboonpuan/iStock

今回はマニア向け。

以前「エアコン2027年問題」について書いたが、「既に温暖化対策としての冷媒規制でエアコンの値段がアップしているはずではないか?」との指摘を受けたので、計算してみることにした。

エアコン「2027年問題」は一人暮らし若者への実質大増税なのか

地球温暖化対策の中でも、一般にはあまり意識されていないが、ほぼすべての国民が日常的に負担している政策がある。それがエアコンなどに用いられる冷媒の規制である。

冷媒はかつてオゾン層保護の観点からCFC・HCFCが廃止され、HFCへと移行した。ところがHFCは温暖化係数(GWP)が非常に高いため、現在はさらに低GWP冷媒(R32など)への転換が進められている。これはモントリオール議定書キガリ改正に基づく、国際的な温暖化対策の一環である。

本稿では、この冷媒規制が、実際にはどれほどのコストを国民に負担させ、どれほどのCO₂削減効果を持つのか、定量的な検討を行う。

具体的には、若者単身世帯のワンルーム用エアコンという、最も身近で小規模なケースを例に、冷媒規制の費用対効果を計算する。

1. 評価の枠組み

以下では、冷媒規制がなければ発生しなかったコスト=純増コストについて検討対象とする。

2. 想定するエアコンと冷媒条件

【対象機器】

  • 家庭用エアコン(2.2kW級)
  • ワンルーム(若者単身世帯)想定
  • 年間使用時間:約800〜1,000時間

【冷媒条件】

  • 旧冷媒:R410A(GWP=2,088)
  • 新冷媒:R32(GWP=675)

【冷媒充填量】

  • 約0.6 kg(小型機の実勢値)

3. CO₂削減量の計算

冷媒規制によるCO₂削減(正確にいえばCO₂等価量削減)は、電力消費ではなく冷媒漏洩・廃棄時排出の回避である。

【前提】

  • 機器寿命:10年
  • 生涯で大気放出される割合(漏洩+回収ロス):25%

【計算】

項目 数値
冷媒量 0.6 kg
GWP差(R410A−R32) 1,413
生涯排出率 25%
削減量 0.6 × 1,413 × 0.25 ≒ 212 kg-CO₂

つまり1台あたり約0.21トンのCO₂削減に相当する。

4. 冷媒規制による「純増コスト」の積算

次に、冷媒規制がなければ発生しなかった純増コストを整理する。

【純増コストの考え方】

  • 冷媒を変えたことにより必然的に必要になったもののみ
  • 冷媒を変更しなくても必要だった費用については除外

【純増コスト内訳(1台あたり)】

区分 内容 純増コスト(円)
冷媒単価差 R410A → R32 ~1,000
安全対策 可燃性冷媒対応(設計・部材) 5,000~12,000
研究開発・再設計 冷媒変更に伴う再設計 1,000~3,000
規制・認証(増分のみ) 追加試験・再認証 ~500
施工・廃棄等(純増分) 講習・管理厳格化等 1,000~1,500
合計 8,500~18,000

以上から、ワンルーム用エアコンでも、1台あたり約1万円かそれ以上の純増コストが発生していると考えるのが妥当である。

5. CO₂削減1トンあたりのコスト

以上を踏まえ、冷媒規制の費用対効果を計算する。

想定 数値
純増コスト 8,500~18,000円
CO₂削減量 約0.21 t
削減単価 約40,000~85,000円/t-CO₂

6. 結論 冷媒規制のコスト

ワンルーム用エアコンについての冷媒規制のコストは、1台あたり8500円から18000円、CO2削減単価としては4〜8.5万円/t-CO₂と試算された。後者は太陽光発電や風力発電などの再生可能エネルギーよりはマシかもしれないが、決して安いとは言えない。

このように高いコストになる理由であるが、冷媒単価差は比較的小さくても、旧冷媒であるR410Aが不燃性であるのに対して、新冷媒であるR32が微燃性であるために、防災の観点からの設計・部材変更、規制強化、施工・廃棄管理強化が必要なためである。

なおこの冷媒規制はモントリオール議定書キガリ改正に基づいて国際的に進められているが、中国を始め開発途上国では先進国よりも遅いスケジュールでの規制の計画となっている。

冷媒規制によるコスト増分は決して無視できるような水準ではないことが今回の試算で示唆された。さらに詳細なコストの検証が必要である。

データが語る気候変動問題のホントとウソ

This page as PDF
アバター画像
キヤノングローバル戦略研究所研究主幹

関連記事

  • G7伊勢志摩サミットに合わせて、日本の石炭推進の状況を世に知らしめるべく、「コールジャパン」キャンペーンを私たちは始動することにした。日出る国日本を「コール」な国から真に「クール」な国へと変えることが、コールジャパンの目的だ。
  • 原子力問題のアキレス腱は、バックエンド(使用済核燃料への対応)にあると言われて久しい。実際、高レベル放射性廃棄物の最終処分地は決まっておらず、高速増殖炉原型炉「もんじゅ」はトラブル続きであり、六ヶ所再処理工場もガラス固化体製造工程の不具合等によって竣工が延期に延期を重ねてきている。
  • 福島のトリチウム水をめぐって、反原発派も最近は「危険だ」とはいわなくなった。トリチウムは環境基準以下に薄めて流せば人体に害はなく、他の原発ではそうしている。福島第一原発でも事故までは流していた。それをゼロにしろという科学
  • 大阪市の松井市長が「福島の原発処理水を大阪に運んで流してもいい」と提案した。首長がこういう提案するのはいいが、福島第一原発にあるトリチウム(と結合した水)は57ミリリットル。それを海に流すために100万トンの水を大阪湾ま
  • 2025年7月2日NHKニュースによると、柏崎市の桜井市長は、柏崎刈羽原子力発電所の7号機の早期の再稼働が難しくなったことを受け、再稼働の条件としている1~5号機の廃炉の方針について、改めて東京電力と協議して小早川社長に
  • オーストラリアは、1998年に公営の電気事業を発電・送電・小売に分割民営化し、電力市場を導入した。ここで言う電力市場は、全ての発電・小売会社が参加を強制される、強制プールモデルと言われるものである。電気を売りたい発電事業者は、前日の12時30分までに卸電力市場に入札することが求められ、翌日の想定需要に応じて、入札価格の安い順に落札電源が決定する。このとき、最後に落札した電源の入札価格が卸電力市場価格(電力プール価格)となる。(正確に言うと、需給直前まで一旦入札した内容を変更することもできるが、その際は変更理由も付すことが求められ、公正取引委員会が事後検証を行う。)
  • グリーン幻想とは 「ネットゼロ」を掲げる政治指導者たちは、化石燃料を排除すればクリーンで持続可能な未来が実現すると信じているかのようだ。だが、このビジョンは科学と経済の両面で誤解に満ちている。私たちが今見ているのは、いわ
  • (前回:米国の気候作業部会報告を読む⑪:災害のリスクは減り続けている) 気候危機説を否定する内容の科学的知見をまとめた気候作業部会(Climate Working Group, CWG)報告書が2025年7月23日に発表

アクセスランキング

  • 24時間
  • 週間
  • 月間

過去の記事

ページの先頭に戻る↑