日本の生命線「石炭」を破壊する排出量取引制度は導入を中止せよ

2026年03月08日 06:50
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キヤノングローバル戦略研究所研究主幹

COMiCZ/iStock

イランでの戦争は、中東での地域戦争に発展してしまった。執筆現在で、ホルムズ海峡を往来するエネルギー輸送がほぼ停止している。

この事態を受けて、化石燃料依存を減らさねばならない、「だから再生可能エネルギーが必要だ」といった意見が散見される。

だがこれはとんでもない間違いである。日本は、化石燃料の安定調達にこそ全力を傾けなければならない。

ところがこのタイミングで、日本政府は排出量取引制度を導入して、生命線である石炭を破壊しようとしている。このような愚挙をすべきではない。排出量取引制度は導入を中止すべきである。

以上が結論だが、以下、順を追って説明する。

まず、日本の一次エネルギー供給構成である(図1)。1973年には、石油が75.5%を占めていた。この石油依存があまりに高かったために、エネルギーの供給源を多様化した。すなわち、2024年には石油依存度は34.8%まで低減し、LNGが20.8%、石炭が24.4%などとなった。

輸入先の多様化も図られた(図2)。ただし、石油については、経済性が理由となって、近年になって中東への一極集中が逆に進んでしまった。日本の化石燃料輸入先は、2024年に中東依存度が95.1%となっている。これに対して、天然ガスはUAE、カタール、オマーンの合計で11.0%になっている。石炭は中東には依存していない。

図2 資源エネルギー庁「日本のエネルギー」より

さて、発電部門について見てみると、こちらも1973年時点では石油火力発電が大半であったのが、2023年には燃料の多様化が進んでいる(図3)。すなわち、石油はわずか7.4%しかなく、天然ガス(LNG)が32.9%、石炭が28.3%などとなっている。

ホルムズ海峡の封鎖が長く続くようであれば、一次エネルギーのうち95.1%を占める石油と11.0%を占める天然ガスが大きな影響を受けることになる。この影響は大きい。

だが発電部門だけに関してみれば、全体の7.4%を占める石油と、あとは32.9%を占める天然ガスの11%、つまり3.6%の合計で7.4%+3.6%=11.0%である。この11%が失われた分を賄うためにはどうすればよいか。緊急で賄うためには、石炭を活用するしかない。

今後、封鎖がどのぐらい続くかはわからない。だが、石炭火力発電所を維持し、その燃料の調達を多様化させておく、このことが、日本が滞りなく電力供給を続けるために極めて重要である。

石油の大半は、自家用車や貨物自動車などの運輸部門、それから石油化学用のナフサなどで用いられている(図4)。こちらについては、備蓄を利用し、または世界各地から調達を探して、なんとかしのがなければならない。

だが発電部門となると、重要な選択肢は、間違いなく石炭である。今回の中東での地域戦争の帰趨がどうであれ、日本のエネルギー政策においては、化石燃料の安定調達、特に石炭の安定調達が極めて重要である。

これは単に供給途絶を防ぐためだけではなく、エネルギー価格の高騰を抑えるためにも必須である。今回のホルムズ海峡閉鎖を受けて、LNGのスポット価格(JKM)はたちまち倍増している(図5)。

図5 OILPRICE.comより

これについては、予め長期契約を結んでおくなどの形である程度の対応はなされているけれども、日本として石炭火力を一定割合持っていることで、このようなLNG価格高騰がもたらす電力価格への影響を和らげることができる。

燃料価格の高騰に対しては、発電部門の化石燃料依存を減らすために太陽光発電や風力発電に頼ればよいという意見がある。だがそれで実際におこることは、平時からの電力価格の高騰である。すると産業が空洞化するので、国の安全保障には完全に逆行する。

このように、石炭火力こそは日本の生命線である。

それにも関わらず、日本政府はそれを滅ぼそうとしている。

すなわち、今年4月から排出量取引制度を本格導入するとしているが、同制度においては、約400社の大企業に排出枠を割り当て、その枠を超える企業は政府ないし他企業から排出権を購入することを義務付けられる。

このような制度を導入することは、石炭火力発電所に対する死刑宣告になる。排出枠が絞られて採算が悪化してゆくことが必定となるからだ。石炭火力発電所の維持費すら支払われなくなり、日本の石炭火力発電は縮小に向かうことは必定だ。

ではその時に、また何らかの外乱が起きて、石油やガスの供給が影響を受けたらどうするのか。石炭こそは最も安定して安価に供給される燃料である。それを手放すということは、日本にとっては愚の骨頂である。

イギリスの元首相チャーチルは、1911年に海軍大臣に就任すると、英国海軍の主力艦の燃料を石炭から石油へ転換する政策を推進した。当時イギリスは石炭を豊富に産出していたが、石油は国内ではほとんど採れなかったため、安全保障上の懸念が提起された。

これに対してチャーチルは、供給の安全保障は供給源の多様化によって確保されるとして、「石油の安全と確実性は、多様性の中に、そして多様性の中にのみ存在する(Safety and certainty in oil lie in variety and variety alone)」と述べた。

英国政府はこの方針を実際の政策として実行した。1908年に発見されたペルシャ油田を開発するアングロ・ペルシャ石油会社(後のBP)に対し、1914年に英国政府は約200万ポンドを出資して株式の過半数を取得し、海軍向けの石油を長期契約で確保した。

さらにタンカー輸送網を整備した上で、ペルシャに加え、米国、メソポタミア(現在のイラク)、オランダ領東インドなど複数地域から石油を調達する体制を構築した。こうして供給源の多様化によって海軍のエネルギー安全保障を確保したのである。

チャーチルの箴言は、日本の今日のエネルギー安全保障にもそのまま当てはまる。

日本が脱炭素に傾斜したのは、2020年に菅首相が首相就任演説でCO2ゼロ宣言を出してからである。だがそれから、ウクライナでの戦争、そしてこの中東での戦争と、世界は全く変わってしまっている。平和ボケの時代は終わった。脱炭素などより、安全保障の方がはるかに国家としての優先順位は高い。

日本政府は、排出量取引制度の導入を止めるべきである。

データが語る気候変動問題のホントとウソ

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キヤノングローバル戦略研究所研究主幹

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