ホルムズ海峡の緊張により再認識された「化石燃料という物質の恩恵」

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拙稿『「脱炭素」から「低炭素」へ:小林鷹之氏が暴く日本のエネルギー政策の欺瞞』でも触れたように、小林鷹之氏が、石炭火力の活用や「脱炭素」から「低炭素」への現実的な転換を示唆したことは、理念先行の気候政策に対する違和感が、ようやく政治の言葉として表に現れ始めたことを意味する。
だが、問題は石炭火力の是非にとどまらない。もっと根本にあるのは、私たちがエネルギーをあまりに狭く捉えてきたことではないだろうか。
私たちは今、脱炭素という名の下で、エネルギーを「電気」という狭い枠に閉じ込めようとしている。しかし、化学工学に携わってきた技術者の視点から見れば、それは文明の半分しか見ていないに等しい。
化石燃料は、電気を作るためだけの燃料ではない。衣服、医療機器、肥料、住宅資材……私たちの生活を支える6000種類以上の製品が、化石燃料という物質の恩恵を受けている。この「文明の厚み」を智慧によって使い切ることこそが、真の豊かさではないだろうか。
輸入された原油は、精製・分解を経てエチレンやプロピレンといった「基礎製品」となり、そこからさらに6000種類以上の誘導品へと枝分かれする。私たちの「衣・食・住」だけでなく、「医療・衛生」の現場をも支えるこの巨大な供給網こそが、現代文明の厚みそのものである。

図1 石油化学コンビナート:私たちの暮らしを形作る「魔法の連鎖」
出典:石油化学工業協会ウェブサイトより
この図を見れば、石油の供給が止まった時に起こるのは「電気が消える」ことだけではないと分かる。私たちが着ている服、飲んでいる薬、使っているスマホ、食べ物を運ぶ容器のすべてが「材料不足」によって深刻な影響を受けてしまうことを、この一本一本の矢印が物語っている。
理念と現実の乖離は、2026年春に一気に可視化された。ホルムズ海峡の緊張、石油備蓄254日という数字——これらは単なる統計ではなく、私たちの衣食住そのものへの警告だった。
脱炭素という名の下で見えにくくされていた「文明の厚み」が、危機によって初めて照らし出されたのである。私たちの暮らしを形作る6000種類以上の製品が、いま同時に危機に瀕しうることを、この出来事は示している。
日本には、限られた資源を使い切る「勿体ない」という精神や、トヨタ生産方式(TPS)に代表される、徹底してムダを省く「改善」の智慧がある。
自然をコントロールしようと傲慢になるのではなく、自然の恵みを最大限に活かし、人々の生活の質(QOL)を向上させる。この日本独自の「エネルギーの智慧」こそが、気候モデルに過度に依存したエネルギー政策という「砂上の楼閣」から抜け出し、真に持続可能な未来を築くための岩盤となる。
現実を引き受けることは、諦めではなく、理念と現実のあいだで揺れながらも、確かな一歩を積み重ねるという最も前向きで誠実な行動である。この出発点から、私たちは、無理のない、持続可能なエネルギー政策の再設計に向き合うことができるはずだ。
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