日本では脱炭素だが米国では石油に投資という愚かな経済政策

A Mokhtari/iStock
日米の貿易・投資交渉の影響もあり、日本企業が関与する米国エネルギー関連投資が相次いで発表されている。ガス火力、送電網、石油・ガスの採掘、原油輸出インフラ、製鉄、さらに原子力関連まで、金額は巨額である。
対米投資そのものの是非をここで論じるつもりはない。うまくいけば、日本企業に収益機会が生まれ、エネルギー安定供給にも資するし、米国との関係改善にもなる。
だが問題は別にある。
日本国内では「脱炭素」の名の下に、化石燃料関連投資は政策的に強く抑制されている。火力発電であれ、そのための燃料供給インフラであれ、製鉄などのエネルギー多消費産業であれ、国内ではCO2が理由となって投資が制約を受けている。
ところが米国では、日本企業が同じような化石燃料関連投資に大規模に関与している。
これは端的に言って矛盾である。
詳しくは付録に譲るが、筆者が公表情報を基に概算したところ、日本企業が関与する対米エネルギー関連投資のCO2排出規模は、狭義に見ても年間7,000万~9,000万トン程度に達する。これは、ガス火力発電とU.S. Steel関連の排出量等を調べた数字である。
さらに、JERA、三菱商事、東京ガス系、JAPEXなどによる米国の油田・天然ガス田の採掘事業への投資を含めると、生産された燃料に由来するCO2を含む関連排出量は年間1.5億~2億トン規模になる。加えて、日米投資パッケージに含まれる原油輸出インフラを利用する原油に由来するCO2まで含めれば、広義には、関連する排出量は年間3億トンを超える。
なお、これは関連する事業全体の排出量であり、日本企業の寄与分を切り出しているわけではない。したがって、これを「日本の排出」と呼ぶのは正確ではない。なお、一連の事業の上流と下流に投資している場合には、二重計上になっている可能性がある。
さて、日本の年間排出量は約10億トンであり、それを2050年にゼロにすることが国の目標である。それにもかかわらず、日本企業が米国で関与する投資が最大で3億トンの排出を伴う事業に向かっている。これでは、温暖化対策という観点からは全く意味がない。CO2は世界のどこで排出されても同じCO2である。
しかも、これらは一過性の排出ではない。インフラへの投資であるから、10年、20年と排出は続くことになる。
一方で、日本国内では、化石燃料関連投資は「脱炭素に反する」として抑え込まれている。このため、電気代も高くなる一方である。結果として、発電所も、製鉄所も、データセンターも、エネルギー関連投資も、雇用も、税収も、悉く、米国に向かっている。
これはカーボンリーケージであるのみならず、投資リーケージであり、経済リーケージである。
国内ではCO2を理由に投資を止めるが、海外では同じCO2を伴う投資を進める。地球全体のCO2は減らず、日本国内の産業は痩せ細る。
米国で必要な投資なら、日本でも必要な投資のはずだ。米国で許される投資が、日本国内ではなぜ許されないのか。
「脱炭素」の名で国内投資を抑え、その一方で日本の投資を米国の化石燃料インフラに向かわせる。これは、あまりに愚かな経済政策ではないか。
【付録】対米エネルギー関連投資のCO2概算
以下は日本企業へ帰属される排出量ではなく、日本企業が関与する投資に関連する事業全体の排出量の概算である。
1. 全体像
| 範囲 | 年間CO2概算 | コメント |
| ガス火力+U.S. Steel | 約7,000万~9,000万トン | 比較的堅い範囲。発電・製鉄の操業排出を中心に見る。 |
| 石油・ガス上流投資まで含む合計 | 約1.5億~2億トン | 生産される石油・ガスの燃焼時CO2を含む。 |
| 原油輸出インフラまで含む合計 | 約3.0億~3.6億トン | 広義の排出量。純増排出ではなく、インフラを使用する原油の燃焼に伴うCO2。 |
2. ガス火力発電
| 前提 | 値 |
| 対象 | オハイオ州のAI・データセンター向け天然ガス発電約9.2GW、およびNextEra関連のテキサス州・ペンシルベニア州ガス火力約10GW。合計を約19GWと置く。 |
| 排出係数 | 天然ガス火力:約0.435kg-CO2/kWh。 |
| 計算式 | 容量GW × 8.76TWh/GW年 × 稼働率 × 0.435Mt-CO2/TWh。 |
2-1. ガス火力の稼働率別排出量
| 稼働率 | 年間CO2概算 |
| 60% | 約4,400万トン |
| 80% | 約5,900万トン |
| 90% | 約6,600万トン |
本文では中心値として「年間6,000万トン弱」を採用。
3. U.S. Steel
| 見方 | CO2概算 | コメント |
| 既存U.S. Steel Scope 1+2 | 約2,560万トン/年 | 2024年のScope 1が2,283万トン、Scope 2が278万トン、合計2,561万トンCO2e。 |
| 増産分だけを見る場合 | 約100万~600万トン/年程度 | 投資による純増分を切り出す場合の粗い感度。本文では採用せず。 |
本文では、既存操業を維持・延命する投資に紐づくフットプリントとして、約2,560万トン/年を採用。
4. 油ガス上流投資
| 案件 | 生産量目安 | 年間CO2概算 |
| JERA Haynesville | 0.5~1.0Bcf/日 | 約1,000万~2,000万トン |
| 三菱商事 Aethon | 2.1~2.6Bcf/日 | 約4,200万~5,200万トン |
| 東京ガス系 東テキサス | 1.2~1.4Bcf/日 | 約2,400万~2,800万トン |
| JAPEX DJ Basin | 5万boe/日規模 | 約500万~800万トン |
| 合計 | — | 約8,000万~1.1億トン |
天然ガスについては、1Bcf/日がおおむね年間2,000万トンCO2に相当すると置いた。
5. 原油輸出インフラ
| 項目 | 値 |
| 対象 | Texas GulfLink型の原油輸出インフラ。最大で日量100万バレル規模の輸出能力を持つとされる。 |
| 原油燃焼係数 | 約0.43トンCO2/バレル。 |
| 計算式 | 100万バレル/日 × 365日 × 0.43トンCO2/バレル。 |
| 年間CO2概算 | 約1.57億トンCO2/年。 |
| 注意 | ターミナル自体の排出ではなく、通過する原油が最終的に燃焼された場合のCO2。 |
6. 試算上の注意点
| 論点 | 扱い |
| 日本の排出量ではない | この試算は「日本の排出量」ではなく、日本企業が関与する投資に紐づく事業全体の排出・燃焼ポテンシャルである。 |
| 二重計上の可能性 | 油ガス上流、原油輸出インフラ、ガス火力を合算すると、燃料フローが重複する可能性がある。 |
| 純増排出ではない | 既存需要の置換、稼働率、燃料の販売先、将来の操業条件によって、純増分は変わる。本文では投資に紐づく炭素規模を示した。 |
| 原子力投資 | 本稿では化石燃料代替効果を控除しない。つまり原子力関連投資はマイナス計上していない。 |
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