スペイン大停電:オペレーターの音声記録が示すもの

イギリスのジャーナリスト、アンドリュー・モンフォード氏が2026年4月9日、インターネット上のブログ“ネットゼロウオッチ”に2025年4月28日に発生したスペインを含むイベリア半島全体の大停電(ブラックアウト)について、スペイン国内の系統運用者の会話を紹介している。
https://www.netzerowatch.com/all-news/spanish-blackout-transcripts
記事の公表から時間が経過してしまったが、その内容を私なりの分析も交えながら紹介したい。
イベリア半島大停電を振り返る
2025年4月28日のイベリア半島の大停電については、1年以上前のことなので、発生の概要や私なりの分析については、以前のアゴラの記事を参照していただきたい。
停電の概要を振り返ってみると、図1は、ブラックアウトが発生した日の1週間前からのスペイン国内の電力需要、および太陽光発電、風力発電の発電状況を示したものである。

図1 ブラックアウト発生時のスペイン国内太陽光風力発電の発電状況
黒線の折れ線グラフは電力の消費量、黄色の面積は太陽光発電、灰色は陸上風力発電を示している。色がついていない部分、すなわち黒い折れ線グラフと着色部分との差は、火力、水力、原子力発電によって供給されている電力である。
日中の時間帯は、電力消費の80~90%が太陽光と風力で供給されているのに対して、夜間は太陽光が0、風力発電が10~20%程度を供給している。日中の時間帯は、火力、水力、原子力といった同期発電機など、いわゆる慣性を持つ発電機の多くが停止しており、運転中であっても低出力で稼働していることがうかがえる。
実際には、外国との連系線を通じて輸出する電気があるため、総発電量は総消費量を上回っていたと思われるが、慣性を持った発電機の量が少なかったことは間違いない。

図2 図1の4/28を拡大表示(太陽光が急拡大していることがわかる)
図2は、図1のグラフのうち、ブラックアウトが発生した4月28日前後を拡大したものである。4月28日は天候が良く、前日に比べて太陽光発電を示す黄色の部分が急激に上昇していることがわかる(赤矢印)。これは、それに合わせて、火力・水力・原子力発電の出力を急激に低下させるか、あるいは一部の発電機を停止させる必要があったことを意味する。
これらの制御は、電気の流れを監視している給電指令所から、通信回線を使ったオンライン指令や電話連絡によって、出力を下げる指令を出す形で行われている。アンドリュー・モンフォード氏の記事は、こうした電話でのやり取りの一部を抜粋したものと思われる。
電力系統の監視体制はどうなっている?
前置きが長くなって申し訳ないが、もう少し電力系統の監視体制について説明する。

図3 東電PG中央給電指令所
東電PG webサイトから
図3は、東電PGの中央給電指令所の写真である。ここで勤務している指令員(オペレーター)は、送電系統の周波数や電圧、電流などを常に監視し、必要な箇所に連絡を取っている。最近では通信回線を利用した自動制御も増えてきたが、想定外の緊急事態には、やはり電話連絡が主力である。
さらに、電力系統は発電所から一般家庭まで、非常に複雑かつ広範囲に広がっている。そのため、1カ所で監視することはできず、監視範囲を分担している。

図4 代表的な電力会社の監視体制の例
1982年日立技報から
図4は少し古い資料だが、代表的な監視体制を示している。非常事態が発生すれば、これらの給電指令所相互、発電所、制御所、営業所など関係する機関との間で、事故の発生防止、事故発生後の拡大防止、復旧などのため、活発に電話連絡が行われる。
大きなゼロを目にすることになるだろう
ここから、アンドリュー・モンフォード氏の記事を説明する。
2025年4月28日午前10時59分、イベリア半島が近年の歴史上最大規模の停電に見舞われる約1時間半前、給電指令所では、すでに諦め、ストレス、そして恐怖が入り混じった会話が交わされていた。
「完全に停電すると思う」と、あるオペレーターは、送電網運営会社であるスペイン電力公社(REE。日本でいえば、各送配電会社と広域運営機関を合わせた組織に近く、スペインではこれらを公社1社体制で担っている)との電話で語った。これは何気ない言い回しではなかった。
また、他の音声記録によると、この事象はこの日に突然起こったのではなく、電圧変動や周波数変動への対応、そして送電網全体が安定性を失いつつあるという状況が、数カ月にわたって続いていたことがうかがえる。
4月28日の場面は、セビリア※1)からの率直な質問から始まる。「電圧はどうなっているんですか。今日は異常な状態です」。REEからの返答は、安心感を与えるものではなかった。「私も知りたい」と監督者は答える。
※1)セビリアは地中海に面した温暖な地域で、日照時間も長い。そのため、太陽光発電所も多く存在し、今回のブラックアウトが始まったといわれている3カ所のうちの1カ所である。
そこから会話は、緊急性を帯びた作業の様子を描写していく。リアクトル(変電所の電圧調整機構)を操作し、システムが「少し」安定するのを待ってから、再び操作する。それは、安定しない送電網を分刻みで制御する作業だった。
同じやり取りの中で、電圧不安定の原因が明らかになってくる。REEの技術者は、南部には変動を緩和できる発電所群、すなわち火力や原子力などの慣性を持った大型発電機群が、アルコスとアルマラスの2つしかないことを認識し、「もっと多くの回転式の発電機を連系させる必要がある」と認めている。さらに、不足している発電方式の種類を具体的に示し、「より多くの火力発電」がシステムの安定性をもたらすとしている。
この警告は、ブラックアウトが発生した後で事後的に発せられたのではない。発生する前から、すでに送電網で異常電圧が発生する兆候があり、その原因も把握されていた。そして、それらの警告がリアルタイムで発せられていたのである。
会話が進むにつれて、雰囲気は険しくなっていく。「我々は何か、そしてすべてを破壊してしまうだろう」と、通話相手の一人が言う。別の通話相手には、その予測を軽視しようとする者もいた。
しかし、状況を要約する言葉が最終的に優勢になる。「我々は『大きなゼロ(ブラックアウトのこと)』を目にすることになると思う」。全面的な崩壊というシナリオは、もはや遠い仮説ではなく、オペレーターたちが起こり得ると想定し始めた可能性となった。それから約1時間半後、そのシナリオ、すなわちブラックアウトは現実のものとなった。
背後から来た問題
音声記録によると、送電網の脆弱性は停電当日に発生したわけではない。2025年1月31日、つまり約3カ月前には、バルセロナ※2)のEndesa給電所とREEの間で交わされた会話で、すでに深刻な状態が明らかになっていた。
※2)バルセロナはフランスとの国境に近く、フランスとの連系送電線の監視制御を行っている。
送電網、おそらくフランスとの連系線と思われる潮流が最大1,000MWも変動した後、オペレーターは電圧の急激な低下を検知した。その後、REEは太陽光発電の大規模な停止を確認する。この出来事は「非常に激しい振動」と表現されている。
技術者たちも、これは単発的な事象ではないと認めている。「このようなことは何度も起きている」と指摘する一方で、今回の出来事は特に深刻だったとも認めている。
また、この件については、さらなる分析が必要になると指摘している。つまり、残りの音声記録で繰り返し出てくるテーマの一つ、すなわち、出力変動が大きく制御が難しい再生可能エネルギー発電を管理することの難しさを示している。
慣性不足と制御不能な電圧
ブラックアウトのわずか3週間前の4月7日には、こうした懸念はすでに明確に示されていた。セビリアからの電話で、電力会社は複数の州で電圧が基準値をはるかに下回っているという「深刻な問題」を警告した。REEからの回答は、問題の根本原因を「系統に慣性をもたらす発電機の数と発電量の少なさ」として、直接的に指摘するものだった。
数分後、同じ日の別の会話から、さらに不安定な挙動が明らかになった。電圧が「理由もなく上昇した」と説明されている。システムは、直接的な運用変更がないにもかかわらず、制御困難な不安定性を示し始めていた。
こうした状況の中で、構造的な懸念も浮上する。それは、原子力発電所の閉鎖の影響だ。「もし原子力発電所が解体されれば……それが電力系統崩壊への転換点になるだろう」と、あるオペレーターは警告する。REEからの返答は明確だった。「このままでは電力系統は持続できない」。
安定化がますます困難になっている送電網
これらの録音記録を総合すると、明確な一連の出来事が浮かび上がってくる。
まず、単発的な電圧変動が発生し、それが繰り返されるようになる。その後、送電網の安定性や慣性が低下し、電圧制御がますます困難になる。
そして停電当日、太陽光発電出力の急な変動などの影響によって、火力発電による電圧維持機能が十分に発揮できなくなった。オペレーターたちはすでに「エネルギーゼロ(ブラックアウト)」のリスクを公然と懸念していた。
これらの音声記録だけで停電原因を断定することはできない。しかし、少なくとも現場のオペレーターは以前から系統の不安定化を強く懸念しており、ブラックアウトの危険性を認識していたことがうかがえる。つまり、この大停電は現場にとって決して「青天の霹靂」ではなかった可能性が高い。

図5 文章中に登場する都市の位置
ENTOS送電mapから
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