「専門家が自らの役割の認識を不足」学会報告【原発事故3年】

2014年03月10日 14:00

東京電力福島第一原子力発電所の事故を検証していた日本原子力学会の事故調査委員会(委員長・田中知(たなか・さとし)東京大学教授)は8日、事故の最終報告書を公表した。

福島原発事故は、津波、過酷事故、緊急時・事故後対策のいずれも不十分と指摘。これらの原因をもたらしたものは「1・専門家の自らの役割に関する認識の不足」「2・事業者の安全意識と安全に関する取り組みの不足」「3・規制当局の安全に対する意識の不足」「4・国際的な取り組みや共同作業から謙虚に学ぶことの不足」「5・安全性を確保するための人材、および組織運営基盤の不足」の複合要因と結論づけた。

同委員会は今後、この提言を元に、廃炉と福島の復興活動を協力していく予定だ。記者会見で田中委員長は、「事故から学ばない組織、専門家は原子力にかかわる資格がなくなる。専門家の力不足を痛切に反省している」と述べた。

報告書は9章425ページの大部で、丸善から「福島第一原子力発電所事故 その全貌と明日に向けた提言––学会事故調最終報告書」として3月11日に刊行される。

事故をめぐるシグナルはあった。

原子力学会は約7000人の会員を持つ。すでに政府事故調などが検証を発表しており、既存のデータの解析などに基づいていた。ただし、一部で指摘された地震による、福島原発の3つの原子炉の損傷の可能性については、原子炉圧力などの面から、「可能性はほぼない」としている。

事故原因は津波による、安全装置の破壊と全電源喪失と指摘。過去の東北の地震、2004年のスマトラ沖地震など、津波対策に力を入れることを示す情報があった。そのに、規制当局、専門家、東電がその可能性を無視したことを反省した。

また原子力発電は巨大な複雑系という特長を持つ。そのために、各専門家が、専門分野のみに関心を向け、総合的に考えなかったことが事故の一因となったとしている。

原子力安全、専門家の役割を強調

今後の原子力の安全を高めるために、原子力安全の目標をこれまであいまいであったと反省。社会との対話の中で、原子力の利用活動に伴うリスクを、合理的に実行可能な限り低くすることと定めた。

さらに、相互に独立し、多様な手段で事故に備える、「深層防護」という考えを強調。また確率的手法を多様化してリスクを洗い出し、評価と是正を重ねることを提言した。

さらに専門家集団として、知見が事前にあったのに、それを事故の事前対策、また事後対応に活かせなかったことを反省した。学会・学術界は自由な議論と、安全研究が足りなかったことを指摘し、それらを継続的に改善していくとしている。

また日本の安全対策が、ハード(機材)偏重、そして専門家の視野の狭さという悪習があるため、ソフト、つまり人やマネジメント、発想法などの改革を重ね、人材育成にも注力すべきと、まとめている。

アゴラ研究所フェロー・石井孝明

(2014年3月10日)

This page as PDF

関連記事

  • 4月の半ばにウエッジ社のウエブマガジン、Wedge Infinityに「新聞社の世論調査の不思議さ 原子力の再稼働肯定は既に多数派」とのタイトルで、私の研究室が静岡県の中部電力浜岡原子力発電所の近隣4市で行った原子力発電に関するアンケート調査と朝日新聞の世論調査の結果を取り上げた。
  • いまだにワイドショーなどで新型コロナの恐怖をあおる人が絶えないので、基本的な統計を出しておく(Worldometer)。WHOも報告したように、中国では新規感染者はピークアウトした。世界の感染はそこから1ヶ月ぐらい遅れて
  • 米朝首脳会談の直前に、アメリカが「プルトニウム削減」を要求したという報道が出たことは偶然とは思えない。北朝鮮の非核化を進める上でも、日本の核武装を牽制する必要があったのだろう。しかし日本は核武装できるのだろうか。 もちろ
  • 石油輸出国機構(OPEC)が6月5日に開催した総会では、市場の予想通り、生産目標が日量3000万バレルで据え置かれた。これにより、サウジなど生産調整による原油価格の下支えを放棄する「減産否定派」の声が今回も通ったことになる。
  • きのうの言論アリーナで、諸葛さんと宇佐美さんが期せずして一致したのは、東芝問題の裏には安全保障の問題があるということだ。中国はウェスティングハウス(WH)のライセンス供与を受けてAP1000を数十基建設する予定だが、これ
  • GEPRフェロー 諸葛宗男 今、本州最北端の青森県六ケ所村に分離プルトニウム[注1] が3.6トン貯蔵されている。日本全体の約3分の1だ。再処理工場が稼働すれば分離プルトニウムが毎年約8トン生産される。それらは一体どのよ
  • 北海道の地震による大停電は復旧に向かっているが、今も約70万世帯が停電したままだ。事故を起こした苫東厚真火力発電所はまだ運転できないため、古い火力発電所を動かしているが、ピーク時の需要はまかないきれないため、政府は計画停
  • 日本政府は昨年4月にエネルギー基本計画を策定し、今年の7月に長期エネルギー需給見通しが策定された。原子力は重要なベースロード電源との位置付けであるが、原発依存度は可能な限り削減するとし、20%~22%とされている。核燃料サイクルについては、これまで通り核燃料サイクル政策の推進が挙げられており、六ケ所再処理工場の竣工、MOX燃料加工工場の建設、アメリカおよびフランス等との国際協力を進めながら高速炉等の研究開発に取り組むことが記載されている。

アクセスランキング

  • 24時間
  • 週間
  • 月間

過去の記事

ページの先頭に戻る↑