原子力規制委員長「恫喝」への疑問-関電美浜審査をめぐり

2015年07月06日 13:00
環境法研究家

委員長発言は明白な行政手続法違反


写真 田中俊一原子力規制委員会委員長、
運営への不満は原子力関係者に高まる

7月2日付の各紙の報道によれば、7月1日の原子力規制委員会での審議とそのあとの記者会見の場でまたまた、とんでもないことが起こっている。(参考・産経新聞7月1日記事「規制委が美浜原発の審査打ち切り示唆  関電、基準地震動見直しの岐路」

それは関西電力の美浜3号機の安全審査に絡んで田中委員長が、「基準地震動が8月までに確定できなければ、審査の中断も含めて考えなければならない。事業者は自覚する必要がある」といった趣旨の発言をしたことである。規制当局者としてとんでもない発言である。

これを受けて、翌日の新聞では、「地震想定の見直しを要求」「審査中断示唆」「審査打ち切りも」等々といった見出しが躍った。規制権限を行使する当局者としてあるまじき言動である。事業者に対する「恫喝」と言っても言い過ぎではない。

田中委員長は、規制権限の行使、公権力の行使ということの意味や重大性をわきまえているのであろうか?戦前や昭和40年代以前ならいざ知らず、いまどきこんなあからさまな恫喝行政は見たことがない。しかも20年前に「行政手続法」が制定され、行政の、特に規制行政の横暴を回避するための措置、手続が色々と講じられ、行政庁には様々な縛りが掛けられているのである。

「行政指導に従うことを余儀なくさせるようなことをしてはならない」。行政手続法には、「第4章 行政指導」という項がわざわざ設けられていて、行政機関が事業者に対して理不尽な要求をすることのないよう、いろいろな歯止めを掛けている。

まず第33条では、「・・・内容の変更を求める行政指導にあっては、行政指導に携わる者は、申請者が当該行政指導に従う意思がない旨を表明したにもかかわらず当該行政指導を継続することにより当該申請者の権利の行使を妨げるようなことをしてはならない。」とある。

当局の裁量で事業者を従わせるのは違法

これを美浜のケースに当てはめると、まさに事業者が地震想定の仕方について科学的理論的に当局と議論しているときに、科学的根拠や理由を示すことなく文字通り有無を言わせぬ言い方で、無理やり当局の考え方にしたがわせようとしているのである。この条項で禁止しようとしていることを、規制委員会は現にしているのである。しかもこんな法律違反のことを公然としているのであるから、なおさら驚きである。

さらに第34条では、「許認可等をする権限又は許認可等に基づく処分をする権限を有する行政機関が、当該権限を行使することができない場合又は行使する意思がない場合においてする行政指導にあっては、行政指導に携わる者は、当該権限を行使し得る旨を殊更に示すことにより相手方に当該行政指導に従うことを余儀なくさせるようなことをしてはならない。」とある。

この条文ははっきり言って一般人には非常にわかりにくいので本件に置き換えて解説をすると、地震想定を変えなければ不許可になるとは言えない状態であるのに、当局の言うことに従わなければ、不許可になりますよ、もう審査を継続しませんよ、ということをあからさまに言っているのであるが、これはまさにこの条項にある『不許可にしますよ』の旨を殊更に示すことにより事業者にそれに従うことと余儀なくさせる」ようなことをしているのである。

法律で明確に「してはならない」と言っていることを、明示的に「している」のであるから、こんな明白な第34条違反はない。驚くべき事態である。

事業者は泣き寝入りをしてはならない

以上見てきたように、今回の田中委員長の発言は規制行政の基本行動原則たる行政手続法に真っ向から違反するものであり、事業者も安易に妥協したりしてはならないものである。

この法律は、その法目的(第1条)にはっきりと書かれているように「国民の権利利益の保護」のための法律であるから、国民たる事業者は保護してもらう立場にあるのである。そのために、この法律では念には念を入れて、第32条第2項で「行政指導に携わる者は、その相手方が行政指導に従わなかったことを理由として、不利益な取り扱いをしてはならない。」とまで規定して、事業者を保護することを明言しているのである。

だから、事業者は自信を持って規制当局に対し毅然とした態度で臨むことが求められているのであり、事業者自身も決して安易に恫喝に屈してはならないものであることを肝に銘じなければならない。

(2015年7月6日掲載)

This page as PDF

関連記事

  • 1.はじめに 雑誌「選択」の2019年11月号の巻頭インタビューで、田中俊一氏(前原子力規制委員会(NRA)委員長)は『日本の原発はこのまま「消滅」へ』と題した見解を示した。そのなかで、日本の原子力政策について以下のよう
  • 1997年に採択された京都議定書は、主要国の中で日本だけが損をする「敗北」の面があった。2015年の現在の日本では国際制度が年末につくられるために、再び削減数値目標の議論が始まっている。「第一歩」となった協定の成立を振り返り、教訓を探る。
  • IAEA(国際原子力機関)は8月31日、東京電力福島第一原発事故を総括する事務局長最終報告書を公表した。ポイントは3点あった。
  • これはもう戦争なのか 中華人民共和国政府は、東電福島第一原発から海に放流されたALPS処理水を汚染水と称し、日本産の生鮮海産物のみならず水産加工品の禁輸に踏み切った。それに加えて、24日の放流開始後から福島県や東北圏内の
  • 活断層という、なじみのない言葉がメディアに踊る。原子力規制委員会は2012年12月、「日本原電敦賀原発2号機直下に活断層」、その後「東北電力東通原発敷地内の破砕帯が活断層の可能性あり」と立て続けに発表した。田中俊一委員長は「グレーなら止めていただく」としており、活断層認定は原発の廃炉につながる。しかし、一連の判断は妥当なのだろうか。
  • 北朝鮮の1月の核実験、そして弾道ミサイルの開発実験がさまざまな波紋を広げている。その一つが韓国国内での核武装論の台頭だ。韓国は国際協定を破って核兵器の開発をした過去があり、日本に対して慰安婦問題を始めさまざまな問題で強硬な姿勢をとり続ける。その核は実現すれば当然、北だけではなく、南の日本にも向けられるだろう。この議論が力を持つ前に、問題の存在を認識し、早期に取り除いていかなければならない。
  • 福島第一原発に貯蔵された「トリチウム水」をめぐって、経産省の有識者会議は30日、初めて公聴会を開いた。これはトリチウム貯蔵の限界が近づく中、それを流すための儀式だろう。公募で選ばれた14人が意見を表明したが、反対意見が多
  • 英国は6月23日に実施した国民投票で欧州連合(EU)離脱を決めた。エネルギー政策、産業の影響について考えたい

アクセスランキング

  • 24時間
  • 週間
  • 月間

過去の記事

ページの先頭に戻る↑