独、石炭利用で死者増加-日本への教訓は?
欧州の環境団体が7月に発表したリポート「ヨーロッパの黒い雲:Europe’s Dark Cloud」が波紋を広げている。石炭発電の利用で、欧州で年2万2900人の死者が増えているという。特に、石炭を産出し、主要電源とするポーランドとドイツで著しい。また西欧からの工場の移転で、経済成長の続く東欧のEU(欧州連合)の新規加盟国でも目立つ。EU、特にドイツは日本で「優れた環境政策」「脱原発を見習うべき」と称えているが、こうした実態は伝わっていない。
石炭火力増設による悪影響
リポートは7月に公表されCAN Europe(気候変動ネットワーク)やWWF(世界自然保護基金)などの環境団体が執筆した。環境保護に傾いた団体によるもので情報の偏りはあるかもしれない。
石炭の燃焼によって、有害な微粒物資の拡散、さらに温室効果ガスの二酸化炭素が排出される。一方で、発電コストは石炭が安いため、作られやすい傾向がある。
ドイツでは、脱原発と電力自由化、さらに再生可能エネルギー固定価格買取制度という政策が2000年以降採用された。再エネによる発電の供給量は一定ではない。電力会社はそれに対応するため、同国で産出される石炭、褐炭による小型火力発電所をつくった。同国の2015年の発電割合は、再エネ(水力)が24%となる一方で、石炭・褐炭の割合が44%になる。
またEU域内では、賃金の低い東欧、特にポーランド、チェコ、スロバキア、ハンガリーに西欧企業が工場をシフト。これらの国が経済成長を遂げる一方で、大気汚染が進行。アジアで、中国で起こったことがEU域内で発生している。
リポートでは、EU内で、石炭火力発電などで発生し、大気汚染をもたらす微粒物質PM2.5の分布を紹介。東欧とドイツに発生が偏在していることが分かる。
(図1)
また同リポートは、大気汚染と疾患による死を推計している。リポートでは病歴調査の集計から算出しているため、精緻な推計とは言い難いが、2万2900人の死亡が2013年にあり、ポーランド、ドイツが突出しているという。
(図2)
日本で、大気汚染と火力発電の関係を調べるべき
ここで、日本の状況を考えて見よう。原発の停止、再エネ振興、そして火力発電の代替のための増加というドイツ、EUと同じ状況が発生している。石炭火力発電も増え、また建設計画も各所で発表されている。日本の発電における環境基準が厳しいため、大気汚染の問題は今のところ、顕在化していない。しかし、冬場に火力発電増加の影響と見られる問題が発生している。(参考記事・石井孝明「千葉PM2.5上昇、原発停止・火力発電増の影響を検証せよ」)
こうしたことを考えると、大気汚染による健康被害の可能性は否定できない。残念ながら日本の火力発電と健康の影響について詳細な調査は発表されていない。おそらく健康への悪影響は出ているだろう。そうした調査の上で、現在進んでいる日本のエネルギー政策の問題点をめぐり、国民的な議論を行うべきであろう。
日本で広がる「脱原発」、「再エネ振興」というだけの議論は単純すぎる。問題を多角的に分析して、日本人の幸福に最も寄与するエネルギーの形を考えたい。
(2016年8月31日更新)
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