40年ルールで「2050年原発ゼロ」になる

2018年05月19日 15:00
アバター画像
アゴラ研究所所長

新しいエネルギー基本計画が決まり、まもなく閣議決定される。「再生可能エネルギーを主力電源にする」といいながら再エネ22~24%、原子力20~22%という今のエネルギーミックスを維持したことに批判が集まっているが、問題はそこではない。この計画は現行法では実現不可能なのだ。

この図は現在の原発稼働状況(資源エネルギー庁調べ)だが、60基のうち18基がすでに廃炉となり、安全審査を申請していない16基もこのまま廃炉になる可能性が高い。残るのは26基だが、稼働年数を見ると、2030年までに40年の期限が来る原発が12基ある。

そのうち3基は追加的安全対策を施して20年延長が認められたが、残り9基がすべて原子炉等規制法の「40年ルール」で廃炉になると、稼働するのは最大でも17基である。震災前には原発60基で約30%だったので、17基ではたかだか10%。エネルギー基本計画の想定する20%は実現できない

これは「原発依存度を低減する」という経産省の方針とは合致するが、「2030年度に温室効果ガス排出量を2013年度比で26%削減する」というパリ協定の約束は守れない。今の計画では2030年に火力を55%にする予定だが、原発が動かないと65%になるので、震災前より排出量が増えるおそれもある。

さらに長期を考えると、橘川武郎氏も指摘するように、このまま原発を更新しないと、2050年には原発はゼロになる。この数字をどう見るかは、いろんな考え方があろう。「原発ゼロ法案」を提案している野党にとっては望ましいことだろうが、国民にとってはどうだろうか。

原発がないと、2050年に再エネが50%に増えるとしても、残る50%は火力になるので「2050年にCO280%削減」というパリ協定の目標も実現不可能だ。再エネ+蓄電池ですべてまかなうと、コストは90円/kWh以上になり、電気代は今の4倍になる。

だが今のところ電力会社に、原発を更新する計画はない。それは現在の異常な状況で、原発の政治的リスクは民間企業に負いきれないからだ。したがってパリ協定を履行するためには、国が責任をもって原発を更新するしかない。つまり原子力の国有化である。日本原子力発電を「原子力公社」にして、東日本のBWR(沸騰水型原子炉)を移管し、国が運営するのだ。

それ以外の結論は、パリ協定を踏み超えることしかない。それも一つの解だと思うが、政府として世界に説明できないだろう。今から原発の国有化を検討しても早すぎることはない。この種の政策転換には10年ぐらいかかるからだ。

This page as PDF

関連記事

  • スマートグリッドという言葉を、新聞紙上で見かけない日が珍しくなった。新しい電力網のことらしいと言った程度の理解ではあるかもしれないが、少なくとも言葉だけは、定着したようである。スマートグリッドという発想自体は、決して新しいものではないが、オバマ政権の打ち出した「グリーンニューディール政策」の目玉の一つに取り上げられてから、全世界的に注目されたという意味で、やはり新しいと言っても間違いではない。
  • 今年7月から実施される「再生可能エネルギー全量買取制度」で、経済産業省の「調達価格等算定委員会」は太陽光発電の買取価格を「1キロワット(kw)時あたり42円」という案を出し、6月1日までパブコメが募集される。これは、最近悪名高くなった電力会社の「総括原価方式」と同様、太陽光の電力事業会社の利ザヤを保証する制度である。この買取価格が適正であれば問題ないが、そうとは言えない状況が世界の太陽電池市場で起きている。
  • 東京電力福島第一原発事故で、炉心溶融の判断基準があったのに公表が遅れた問題で、東電の第三者検証委員会は16日に報告書をまとめた。「当時の清水正孝社長が菅直人首相などの要請を受け『炉心溶融という言葉を使うな』と社内で指示していた」「意図的な隠蔽はなかった」とする内容だ。
  • 3月11日の大津波により冷却機能を喪失し核燃料が一部溶解した福島第一原子力発電所事故は、格納容器の外部での水素爆発により、主として放射性の気体を放出し、福島県と近隣を汚染させた。 しかし、この核事象の災害レベルは、当初より、核反応が暴走したチェルノブイリ事故と比べて小さな規模であることが、次の三つの事実から明らかであった。 1)巨大地震S波が到達する前にP波検知で核分裂連鎖反応を全停止させていた、 2)運転員らに急性放射線障害による死亡者がいない、 3)軽水炉のため黒鉛火災による汚染拡大は無かった。チェルノブイリでは、原子炉全体が崩壊し、高熱で、周囲のコンクリ―ト、ウラン燃料、鋼鉄の融け混ざった塊となってしまった。これが原子炉の“メルトダウン”である。
  • 何よりもまず、一部の先進国のみが義務を負う京都議定書に代わり、全ての国が温室効果ガス排出削減、抑制に取り組む枠組みが出来上がったことは大きな歴史的意義がある。これは京都議定書以降の国際交渉において日本が一貫して主張してきた方向性であり、それがようやく実現したわけである。
  • 東日本大震災から、3月11日で1年が経過しました。復興は次第に進んでいます。しかし原発事故が社会に悪影響を与え続けています。
  • 北朝鮮の野望 北朝鮮はいよいよ核武装の完成に向けて最終段階に達しようとしている。 最終段階とは何か—— それは、原子力潜水艦の開発である。 北朝鮮は2006年の核実験からすでに足掛け20年になろうとしている。この間に、核
  • 1月17日付日経朝刊に、日本原子力発電株式会社の東西分社化検討の記事が載っていました。 同社は、日本が原子力発電に乗り出した1950年代に電力各社の出資によって設立されたパイオニア企業で、茨城県東海村と福井県敦賀市に原子力発電所を持っており、他の電力会社に電気を卸しています。

アクセスランキング

  • 24時間
  • 週間
  • 月間

過去の記事

ページの先頭に戻る↑