僭越ながら日経エネルギーNext特集記事に補足する

2021年07月01日 07:00

y-studio/iStock

NSのタイムラインに流れてきたので何気なく開いてみたら、たまたま先日指摘した日経エネルギーNextさんの特集の第2回でした。

こちらも残念かつ大変分かりにくい内容でしたので、読者諸兄が分かりやすいよう僭越ながら補足いたします。

「脱炭素の第一歩、再エネ電力へはこう切り替える」という特集記事を読みたい読者にとって最も有益な情報は以下の2か所だと思われます。

その後、再エネ電力メニューを提供している電力会社3社に、見積もりを依頼しました。1社は再エネ電源を特定するメニュー、2社は非化石証書を使った再エネ電力メニューの提案でした。電源を特定するメニューは、他の提案よりも電気料金が年間10万円ほど高かったのですが、大きな差ではないと考え、電源特定メニューを選びました。

ちなみに、電源特定メニューの金額は、もともと契約していた大手電力の料金と比べると、約5%程度低い水準でした。通常の電力調達を実施した6拠点のコスト削減が10%だったことから、再エネ電力に切り替えることによるプレミアムは5%程度であることが分かりました。

一度読んだだけでは全く理解することができず、何度も読み返しました。読者の皆さんが無駄な時間を費やさないよう、私なりに整理した内容を下記します。

まず前段。7拠点のうち2拠点向けの見積もりにおいて「小水力発電+非化石証書」が475万円(金額は筆者推定)、「非化石証書のみ」が465万円(同)だったが、この印刷会社では「小水力発電+非化石証書」を選んだ、ということのようです。経営者の脱炭素意識の高さが伺えます!

続いて後段。「2拠点で再エネメニューに切り替えたら電気代も5%削減できた(筆者推定でおそらく500万円→475万円)」ということで、読者にとってはとても有益な情報です!おそらく前段よりも重要な情報なのですが、なぜか「ちなみに」で始まるおまけ扱いになっており全く響きません。さらに、本文中の「6拠点」は「5拠点」の誤りではないでしょうか。拠点の数が合わず一回読んだだけでは訳が分かりません。

なお、「再エネでもコスト削減になる」という読者にとって大変有益な情報を提供しているにもかかわらず、その直前に「5拠点でのコスト削減を原資に、残る2拠点へ再エネを導入する方法を選択した」という説明があるために矛盾が生じてしまっており、読みながら混乱してしまいます。

なぜこのように読者にとって分かりにくい文章になってしまうのでしょうか。邪推ですが、この記事で記者さんが最も言いたかったのは以下の2点なのだと思います。

ひとつ目は「5拠点が新電力に切り替えて150万円のコスト削減になった」という点。意図的ではないと思いますが「なるほど、新電力に切り替えるとコストが減って再エネになるんだ!」と勘違いする読者が出てこないか心配になります。

ふたつ目は以下の部分。

再エネ電力に切り替えても、既存契約より安くなったことは、電力自由化による恩恵を知る予期せぬ出来事でした。

読者にとっては、再エネがコスト増にならずコスト削減になるという事実が最も重要であり、「電力自由化による恩恵を知る予期せぬ出来事」なんて関心がないと思います。

おそらくこの2点を強調したいあまりに、とても分かりづらい文章になっています。この印刷会社さんはとても真面目に環境配慮や再エネ導入を考えておられると思いますので、余計に記事の内容が残念でなりません。

さて、筆者個人は無謀なカーボンニュートラル・46%削減・再エネ大量導入には断固反対の立場であり、原発再稼働や火力発電のリプレースなど経済合理性を伴う現実的な緩和策を行ったうえで、余力を水害対策や都市の高台移転といった適応策に振り向けるべきというのが持論です。しかしながら、私の周囲も含め産業界では右も左もカーボンニュートラル祭り状態で、企業の担当者は必死になって再生可能エネルギー導入について調査・検討を重ねているのです。

この状況において、「脱炭素」「再エネ」というタイトルを付けて読者を集めながら、求められている内容とは違う趣旨をねじ込むのはいかがなものでしょうか。タイトルと異なる内容+稚拙な文章で読者の貴重な時間を浪費してしまいます。

本記事や前回記事の「J-クレジット=再エネ電力に切り替えた」という表現も含め、昨今の各種メディアによる脱炭素・再エネ関連の記事や報道では曖昧な文章や悪質な表現が目立ちます。情報を求めている企業担当者はもとより、再生可能エネルギーの普及に向けて真摯に取り組んでおられる現場の方々のためにも、今後改善されることを願います。

 

This page as PDF

関連記事

  • 新聞は「不偏不党、中立公正」を掲げていたが、原子力報道を見ると、すっかり変わった。朝日、毎日は反対、読売、産経は推進姿勢が固定した。
  • 鹿児島県知事選で当選し、今年7月28日に就任する三反園訓(みたぞの・さとし)氏が、稼動中の九州電力川内原発(鹿児島県薩摩川内市)について、メディア各社に8月下旬に停止を要請する方針を明らかにした。そして安全性、さらに周辺住民の避難計画について、有識者らによる委員会を設置して検討するとした。この行動が実現可能なのか、妥当なのか事実を整理してみる。
  • アゼルバイジャンで開催されている国連気候会議(COP29)に小池東京都知事が出張して伊豆諸島に浮体式の(つまり海に浮かべてロープで係留する)洋上風力発電所100万キロワットの建設を目指す、と講演したことが報道された。 伊
  • 有馬純 東京大学公共政策大学院教授 2月16日、外務省「気候変動に関する有識者会合」が河野外務大臣に「エネルギーに関する提言」を提出した。提言を一読し、多くの疑問を感じたのでそのいくつかを述べてみたい。 再エネは手段であ
  • 今年7月末に「『気候変動・脱炭素』 14のウソ」という日本語の書が出版された。著者は渡辺正博士。全体は「気候変動」編と「脱炭素」編に分かれ、それぞれ7つの「ウソ」について解説されている。前稿の「気候変動」編に続き、今回は
  • IPCCの報告がこの8月に出た。これは第1部会報告と呼ばれるもので、地球温暖化の科学的知見についてまとめたものだ。何度かに分けて、気になった論点をまとめてゆこう。 前回に続き、以前書いた「IPCC報告の論点③:熱すぎるモ
  • 世界的に化石燃料の値上がりで、原子力の見直しが始まっている。米ミシガン州では、いったん廃炉が決まった原子炉を再稼動させることが決まった。 米国 閉鎖済み原子炉を再稼働方針https://t.co/LILraoNBVB 米
  • ペロブスカイト太陽電池は「軽くて曲がる太陽光パネル」として脚光を浴びてきた。技術開発は進んでおり、研究室レベルではセルの変換効率は26.7%に達したと報告された。シリコン型太陽電池と層を重ねたタンデム型では28.6%にも

アクセスランキング

  • 24時間
  • 週間
  • 月間

過去の記事

ページの先頭に戻る↑