大衆の叛逆を恐れた英政府、家庭脱炭素計画の発表延期

2021年07月15日 07:00
アバター画像
キヤノングローバル戦略研究所研究主幹

日本に先行して無謀な脱炭素目標に邁進する英国政府。「2050年にCO2を実質ゼロにする」という脱炭素(英語ではNet Zeroと言われる)の目標を掲げている。

加えて、2035年の目標は1990年比で78%のCO2削減だ。これは現時点からでも6割CO2を削減しなければならない。あと14年でこれを達成するのは、どう考えても不可能だ。

xavierarnau/iStock

今年末に英国は国連気候会議を主催することもあり、目標達成までの計画を作成している。その一環として、2035年までに住宅用の暖房・給湯においてガス使用を禁止して電気式(ヒートポンプ)に置き換えるという計画を発表する予定だったが、秋まで延期される模様だ

住宅用のガスボイラは英国のCO2排出の3分の1を占めている。2035年目標を本当に達成するなら、確かに禁止しないと辻褄が合わない。

だがこの計画の検討状況が明るみに出て、世帯当たり数百万円のコストがかかることが分かり、大衆紙サンなどで反論が盛り上がった結果、計画の発表にボリス・ジョンソン首相が待ったをかけたと報じられている。

英国政府は、経済影響について再検討し、低所得者への補償・補助を検討しているという。さらには、ガス使用を禁止するのではなく、電気式暖房に補助を付けて推進するにとどめるかもしれない、という。

英国は与党保守党の中でも意見の対立が目立つようになってきた。急先鋒は、ブレクジット運動のときのボリス・ジョンソンの盟友、元ブレクジット大臣のベイカー議員だ。ベイカーは経済的負担が莫大になることを重要な問題であるとみており、「脱炭素反対を、ブレクジットに次ぐ聖戦とする」として、激しく与党の脱炭素政策を非難している

他方で環境運動サイドから見ると、英国の脱炭素政策は甚だ不十分である。2035年の目標達成に必要な削減量の5分の1しか政策によって担保されていないという。英国政府は最近新たなガス火力発電所の建設も認可している。北海油田での開発活動も止めていない。ボリス・ジョンソン政権は、与党内で脱炭素推進派と反対派の板挟みに逢っている。

国連気候会議では先進国が総額1千億ドルに上る資金を拠出して開発途上国の温暖化対策を支援する約束になっているが、英国政府は既存のODAの振り替えで対応することが発覚し、「グリーンウォッシング(緑に見せかけているだけ)」であると環境運動家や開発途上国に批判されている

しかもこれはODAの総額自体をGDPの0.7%から0.5%へと年間40億ポンド(=6000億円)程度引き下げるという決定の直後の出来事であったことが、ますます反感の種となっている。

このように、英国では、経済的負担が明らかになるにつれ、脱炭素の無謀さが発覚し、公の場で反論が噴出するようになった

日本でもいま年末の国連気候会議に向けてエネルギー基本計画や温暖化対策計画が政府によって検討されている。

日本の議員もメディアも、その経済的負担が莫大になることに早々に気づき、叛乱を起こすべきだ。そうしないと、知らないうちに、ご無体な経済活動規制や重い税負担に苛まれることになる。

クリックするとリンクに飛びます。

「脱炭素」は嘘だらけ

This page as PDF
アバター画像
キヤノングローバル戦略研究所研究主幹

関連記事

  • 1.広域での“最大”と局所的な“最大”とは違う 2012年8月(第一次報告)及び2013年8月(第二次報告)に公表された国の南海トラフ巨大地震の被害想定や、それを受けて行われた各県での被害想定においては、東日本大震災の経験を踏まえ、広域対応を含めた巨大地震に対する対策を検討するために、「発生頻度は極めて低いが、発生すれば甚大な被害をもたらす、あらゆる可能性を考慮した最大クラスの地震・津波を想定する」という考え方に基づき、「最大クラス」の被害をもたらす巨大地震の被害想定がなされている。
  • トランプ政権の誕生で、バイデン政権が推進してきたグリーンディール(米国では脱炭素のことをこう呼ぶ)は猛攻撃を受けることになる。 トランプ大統領だけではなく、共和党は総意として、莫大な費用がかかり効果も殆ど無いとして、グリ
  • 目を疑いました。。 都内の中小企業が国内外のカーボンクレジットを取引しやすい独自の取引システムを構築します!!(2024年06月06日付東京都報道発表資料) 東京都では、「ゼロエミッション東京」の実現に向けて、都内の中小
  • 日本政府は第7次エネルギー基本計画の改定作業に着手した。 2050年のCO2ゼロを目指し、2040年のCO2目標や電源構成などを議論するという。 いま日本政府は再エネ最優先を掲げているが、このまま2040年に向けて太陽光
  • この連載でもたびたび引用してきたが、米国共和党は、気候危機など存在しないことを知っている。 共和党支持者が信頼しているメディアはウオールストリートジャーナルWSJ、ブライトバートBreitbart、フォックスニュースFo
  • 権威ある医学誌The Lancet Planetary Healthに、気候変動による死亡率の調査結果が出た。大規模な国際研究チームが世界各地で2000~2019年の地球の平均気温と超過死亡の関連を調査した結果は、次の通
  • 福島原子力事故について、「健康被害が起こるのか」という問いに日本国民の関心が集まっています。私たちGEPRのスタッフは、現在の医学的知見と放射線量を考え、日本と福島で大規模な健康被害が起こる可能性はとても少ないと考えています。GEPRは日本と世界の市民のために、今後も正しい情報を提供していきます。
  • 福島第一原子力発電所事故の後でエネルギー・原子力政策は見直しを余儀なくされた。与党自民党の4人のエネルギーに詳しい政治家に話を聞く機会があった。「政治家が何を考えているのか」を紹介してみたい。

アクセスランキング

  • 24時間
  • 週間
  • 月間

過去の記事

ページの先頭に戻る↑