原子力・エネルギー問題、新聞が伝える使命を放棄した — おやおやマスコミ
GEPR編集部より。このサイトでは、メディアのエネルギー・放射能報道について、これまで紹介をしてきました。今回は、エネルギーフォーラム9月号に掲載された、科学ジャーナリストの中村政雄氏のまとめと解説を紹介します。転載を許諾いただきました中村政雄様、エネルギーフォーラム様に感謝を申し上げます。
(以下本文)
「脱原発」を掲げた俳優、山本太郎氏が参院選東京選挙区で初当選したことが、よほど嬉しかったらしい。開票結果が出た7月22日の朝刊だけでなく夕刊でも、朝日新聞はデカデカと山本氏当選を書いた。限られた紙面でほかに書くことはないのか。脱原発新聞の面目にかけ力を入れていた。
朝日は7月26日付朝刊でも「山本太郎現象」と持ち上げた。
産経新聞7月26日付朝刊「花田紀凱の週刊誌ウォッチング」が、山本氏を次のように取り上げた。
「『原発ロ』だけで当選した山本太郎氏が中核派の応援を受けていたというのは既に知られた話だが、山本陣営の裏選対の最高責任者が市民の党の斉藤まさし(本名・酒井剛)代表だったとスッパ抜いたのは『文春』」
<市民の党といえば、よど号ハイジャック犯の息子と関係が深くその派生団体は2年前に菅直人元首相の資金管理団体から2009年までの3年間で合計6250万円の献金を受け取っていたことで国会で問題になった>
このところ朝日新聞は毎週1本の割り合いで原発を社説に取り上げている。原発に熱心なのはいいが、原発を廃止したときのリスクについては目をつぶっている。3・11以降原発が止まって日本が排出するCO2が急増、地球温暖化を加速していることにはノータッチだ。
温暖化は人類の近い将来に壊滅的危機を招きかねない大問題だが、無視するのは偏向報道もいいところだ。6月29日付社説は安倍政権の再稼働を認める原子力政策を批判して「未来にツケを回すのか」と書いた。CO2排出を増やす脱原発こそ未来に対しツケを回す。
上田俊英科学医療部長は7月9日付朝刊1面に、「原発がなくてもふつうに生活できることを知った」と書いていたが、温暖化のことは無視している。何事にもメリットとデメリットがある。多様な情報を読者に提供し判断材料にしてもらうのがメディアの仕事だ。一方的に脱原発向けの情報だけを提供し、世論を誘導するのは邪道だ。
日本原子力発電敦賀原発(福井県)の敷地内破砕帯が活断層かどうか問題になっていた。原電の依頼を受けて第三者の立場から調査していた海外の専門家などによる検討チームの最終報告がまとまり8月1日公表された。
英国やニュージーランドの地質学者ら13人による検証チームは7月29日に現地調査を行い、火山灰層の状況などから「活断層ではないことを示す明確な証拠がある」として、原電の主張を認め、活断層と認定した原子力規制委員会の見解を否定した。
これまで国際的な活動をしてきた定評ある中立的検証チームの判定である。当然、各紙は報道すると思ったが、拙宅に配達された朝日にはなかった。朝日は規制委の側に立ち、7月26日付社説で原電の独自調査を批判した。自社の主張に反する事実に目をつぶる、報道しないというのは「事実を読者に伝える」という新聞の使命の放棄ではないか。
日本経済新聞7月26日付朝刊に規制委の島﨑邦彦委員長代理のインタビューが載った。原電敦賀2号機直下の断層をめぐり、事業者や一部の専門家が「耐震強化などの工学的な手法で安全は保てる」と訴えていることに、島﨑氏は「地震の時に大丈夫だったかという実証的な結果はほとんどない」と答えている。本当か。柏崎刈羽、女川、福島第二の各原発は地震に耐えたのではないか。調べなかったのか、聞くべきだ。
(2013年9月17日掲載)
関連記事
-
放射線の線量データが公表されるようになったことは良いことだが、ほとんどの場合、その日の線量しか表示しない。データの価値が半減している。本来、データは2つの意味を持っている。一つはその日の放射線量がどうなのかということ。2
-
東京都の令和7年度予算の審議が始まった。 「世界のモデルとなる脱炭素都市」には3000億円もの予算が計上されている。 内容は、太陽光パネル、住宅断熱、電気自動車、水素供給などなど、補助金のオンパレードだ。 どれもこれも、
-
村上さんが委員を務める「大阪府市エネルギー戦略会議」の提案で、関西電力が今年の夏の節電期間にこの取引を行います。これまでの電力供給では、余分に電力を作って供給の変動に備えていました。ところが福島の原発事故の影響で原発が動かせなくなり、供給が潤沢に行えなくなりました。
-
日米のニュースメディアが報じる気候変動関連の記事に、基本的な差異があるようなので簡単に触れてみたい。日本のメディアの詳細は割愛し、米国の記事に焦点を当ててみる。 1. 脱炭素技術の利用面について まず、日米ともに、再生可
-
『羽鳥慎一のモーニングショー』にみられる単純極まりない論調 東京電力管内で電力需給逼迫注意報が出ている最中、今朝(29日)私はテレ朝の「羽鳥慎一のモーニングショー」をみていました。朝の人気番組なので、皆さんの多くの方々も
-
9月25日、NHK日曜討論に出演する機会を得た。テーマは「1.5℃の約束―脱炭素社会をどう実現?」である。 その10日ほど前、NHKの担当ディレクターから電話でバックグラウンド取材を受け、出演依頼が来たのは木曜日である。
-
東電は叩かれてきた。昨年の福島第一原発事故以降、東電は「悪の権化」であるかのように叩かれてきた。旧来のメディアはもちろん、ネット上や地域地域の現場でも、叩かれてきた。
-
「もしトランプ」が大統領になったら、エネルギー環境政策がどうなるか、これははっきりしている。トランプ大統領のホームページに動画が公開されている。全47本のうち3本がエネルギー環境に関することだから、トランプ政権はこの問題
動画
アクセスランキング
- 24時間
- 週間
- 月間














