IPCC報告の論点⑩:猛暑増大以上に酷寒減少という朗報
IPCCの報告がこの8月に出た。これは第1部会報告と呼ばれるもので、地球温暖化の科学的知見についてまとめたものだ。何度かに分けて、気になった論点をまとめてゆこう。

Dzyuba/iStock
地球温暖化というと「猛暑で熱中症が増える」ということばかりが喧伝される。だがじつは酷寒の減少の方が大きい。
図は過去の気温の観測結果をまとめたもの。
- 黒:地球(陸上および海上)の平均気温
- 緑:陸上の平均気温
- 紫:陸上の年最高気温の平均
- 青:陸上の年最低気温の平均
である。
1,2の平均気温については1850年から1900年の平均をゼロとした差分で表示してある。
3,4の最高・最低気温については、1961-1990年の平均をゼロとした差分で表示してある。

さてこれを見ると、年最高気温は伸びているが、それ以上に、年最低気温が急激に伸びていることが分かる。
ざっと目で図を読んでみると、明らかに傾きが違う。年最高気温は0.3から1.6ぐらいまで、1.3ぐらい伸びているが、年最低気温は0から2.6ぐらいまで2.6ぐらい、つまり年最高気温の倍ぐらいの早さで上昇しているように見える。
このIPCC報告にはこの理由は書いていない。
だが面白いことが2つある。
第1に、これは朗報だ。人は夏の暑さよりも冬の寒さで亡くなることの方が多いので、最低気温が上がったことの健康上の便益は大きいだろう。計算するとどのぐらいの便益になるのか、興味が沸く所だ。
第2に、これは都市熱が地球規模の気温データセットに混入してことを示唆しているのかもしれない。最低気温が最高気温よりも急激に上昇するというのは、東京でもそうだったように、都市熱の特徴だからだ。
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1つの報告書が出たということは、議論の終わりではなく、始まりに過ぎない。次回以降も、あれこれ論点を取り上げてゆこう。
次回:「IPCC報告の論点⑪」に続く
【関連記事】
・IPCC報告の論点①:不吉な被害予測はゴミ箱行きに
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・IPCC報告の論点⑩:猛暑増大以上に酷寒減少という朗報
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・IPCC報告の論点㉑:書きぶりは怖ろしげだが実態は違う
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