エネ庁と原子力規制委員会が電力危機を生み出した

2022年05月17日 19:00
アバター画像
アゴラ研究所所長

今年3月の電力危機では、政府は「電力逼迫警報」を出したが、今年の夏には電力制限令も用意しているという。今年の冬は予備率がマイナスで、計画停電は避けられない。なぜこんなことになるのか。そしてそれが今からわかっているのに避けられないのか。

3月22日に東日本が大停電の一歩手前になった原因について、内閣府の再エネタスクフォースは「冬の最大需要は53.8GWだったので、今回の(最大需要)48.4GWを満たす供給力は存在していた」から、原発再稼動や火力の増設は必要ないという。足りていたのなら、なぜ電力は逼迫したのか。

冬の最大需要は最大供給を上回った

再エネTFは地震の影響や寒波など「計画外の事象」が起こったからだというが、そういうリスクを見込んだ上で停電しないように予備率を3%に設定している。今年の冬に需要が最大だった1月6日~7日にかけては、図のように最大需要が供給の想定を上回った(5374万kW=53.7GW)。

それでも大停電が起こらなかったのは、東電の戸田直樹氏が指摘するように、政府が節電要請を出し、揚水発電をフル稼働し、デマンドレスポンス(DR)を動員して、連系線の利用や供給電圧の低め調整という危険な対策まで動員したためだ。

3月22日は真冬のピークが終わった後だったので、火力が定期的な補修に入り、供給力が足りなかったところに地震と寒波が襲った。それが予備率の3%を割り込んだため、電力逼迫警報が出たのだ。だが再エネTFは、年間最大の供給力を分母にして「発電設備は足りている」という。真冬のピークと同じフル稼働を1年中続けたら、いつ補修するのか。

いまだに止まっている柏崎刈羽原発6・7号機の出力は、合計2.7GW。予備率にして5%ぐらいあるので、地震と寒波という二つの特異現象が重なっても余裕があった。

ところが再エネTFは「原発は頼りにならないので再稼動の必要はない」という。「柏崎刈羽原発は10年以上動いておらず、安全規制の下で急に動かしたくても動かせない」というが、そういう状況を作り出したのは、再エネTFのような反原発派の反対運動である。

彼らはDRなどの「需要側の対応」だけで危機は乗り切れるから、火力も増設する必要はないというが、上の図でもわかるように、DRはたかだか0.5GWで、電力の逼迫を解決できない。八田達夫氏のような大御所まで自分の責任を棚に上げ、こんな簡単な足し算を無視するのはどうなっているのか。

電力自由化と「原発なき脱炭素化」の帰結

それは彼らが原発は悪で電力自由化は善だという結論を決め、それに合わせて数字を出しているからだ。原発が動いていれば電力危機が避けられたことは自明だが、電力自由化が危機の原因になったことは余り知られていない。

次の図は資源エネルギー庁のエネルギー基本計画の予想だが、現在は年間の最大需要54GWをはるかに上回る出力がある火力を脱炭素化のために削減し、2050年には合計46GWまで削減する予定である。

電力自由化は、電力会社の設備投資を効率化して電気料金を下げるために発電と送電を分離し、競争させる改革である。八田氏が20年ぐらい前にそれを提唱したときは意味があったが、3・11のあと原発がすべて停止され、再エネに世界最高価格のFIT買い取り価格が設定された状況で、無知な民主党政権を利用して火事場泥棒的に自由化が強行された。

これは経産省にとっては、頭の上がらなかった東電を子会社にして電力業界を支配する絶好のチャンスであり、反原発・再エネ派にとっても大勝利だった。発送電分離のもとでは、発電会社は供給責任を負わない。インフラの固定費を負担しない再エネ業者は、大手電力会社より安い「限界費用」で電力を落札し、ビジネスを拡大した。

これによって既存の火力の稼働率は落ち、採算が取れなくなって廃止された。エネ庁も石炭火力を2030年までに100基廃止しろという行政指導をした。電力自由化と原発なき脱炭素化が、今回の電力危機の原因である。

電気代は25%上がり「資源インフレ」がやってくる

ところがそこにヨーロッパ発の電力危機が起こり、ウクライナ戦争で天然ガスの価格が激増した。電気代は資源インフレの主役である。東電の電気代は、昨年に比べて25%増だ。卸電力価格も上がり、新電力がたくさんつぶれたのは自業自得だ。それが電力自由化である。

発電所の設備は余っているが、競争で価格が下がったため、固定費が回収できなくなって廃止される。その結果、安定供給の固定費を負担する業者がなくなり、最大のバッファだった原発を止めているため停電が起こる。それを避けるために古い原発を温存する容量市場にも、再エネTFや再エネ議連は反対している。再エネ業者のコスト負担になるからだ。

このようなエネルギー安全保障にとって、再エネは何の役にも立たない。メガソーラーがいくらあっても、予備率は上がらない。エネ庁がこのような支離滅裂なエネルギー政策を続けているかぎり、電力危機は避けられない。

もうこの夏は間に合わないが、今年の冬までには、柏崎と関電の3基(美浜・高浜1・2号機)は技術的には再稼動できる。こういう無責任なエネルギー政策と、テロ対策(特重)を理由に原発の運転を止めている原子力規制委員会が、電力危機を作り出しているのだ。

This page as PDF

関連記事

  • 透明性が高くなったのは原子力規制委員会だけ 昨年(2016年)1月実施した国際原子力機関(IAEA)による総合規制評価サービス(IRRS)で、海外の専門家から褒められたのは組織の透明性と規制基準の迅速な整備の2つだけだ。
  • 「CO2から燃料生産、『バイオ技術』開発支援へ・・政府の温暖化対策の柱に」との報道が出た。岸田首相はバイオ技術にかなり期待しているらしく「バイオ技術に力強く投資する・・新しい資本主義を開く鍵だ」とまで言われたとか。 首相
  • 経済産業省は4月28日に、エネルギー源の割合目標を定める「エネルギーミックス」案をまとめた。電源に占める原子力の割合を震災前の約3割から20−22%に減らす一方で、再エネを同7%から22−24%に拡大するなど、原子力に厳しく再エネにやさしい世論に配慮した。しかし、この目標は「荒唐無稽」というほどではないものの、実現が難しい内容だ。コストへの配慮が足りず、原子力の扱いがあいまいなためだ。それを概観してみる。
  • 未来の電力システムの根幹を担う「スマートメーター」。電力の使用情報を通信によって伝えてスマートグリッド(賢い電力網)を機能させ、需給調整や電力自由化に役立てるなど、さまざまな用途が期待されている。国の意向を受けて東京電力はそれを今年度300万台、今後5年で1700万台も大量発注することを計画している。世界で類例のない規模で、適切に行えれば、日本は世界に先駆けてスマートグリッドを使った電力供給システムを作り出すことができる。(東京電力ホームページ)
  • 脱原発が叫ばれます。福島の原発事故を受けて、原子力発電を新しいエネルギー源に転換することについて、大半の日本国民は同意しています。しかし、その実現可能な道のりを考え、具体的な行動に移さなければ、机上の空論になります。東北芸術工科大学教授で建築家の竹内昌義さんに、「エコハウスの広がりが「脱原発」への第一歩」を寄稿いただきました。竹内さんは、日本では家の断熱効率をこれまで深く考えてこなかったと指摘しています。ヨーロッパ並みの効率を使うことで、エネルギーをより少なく使う社会に変える必要があると、主張しています。
  • 東京大学公共政策大学院教授の関啓一郎氏に、「電力・通信融合:E&Cの時代へ — 通信は電力市場へ、電力は通信融合に攻め込めもう!」というコラムを寄稿いただきました。関教授は、総務官僚として日本の情報通信の自由化や政策作成にかかわったあとに、学会に転身しました。
  • 今年5月、全米科学アカデミーは、「遺伝子組み換え(GM)作物は安全だ」という調査結果を発表しました。これは過去20年の約900件の研究をもとにしたもので、長いあいだ論争になっていたGMの安全性に結論が出たわけです。 遺伝
  • 世界はカーボンニュートラル実現に向けて動き出している。一昨年、英グラスゴーで開催されたCOP26終了時点で、期限付きでカーボンニュートラル宣言を掲げた国・地域は154にのぼり、これらを合わせると世界のGDPの約90%を占

アクセスランキング

  • 24時間
  • 週間
  • 月間

過去の記事

ページの先頭に戻る↑