国際的な茶番にすぎない奇妙な化石賞
化石賞というのはCOP期間中、国際環境NGOが温暖化防止に後ろ向きな主張、行動をした国をCOP期間中、毎日選定し、不名誉な意味で「表彰」するイベントである。
「化石賞」の授賞式は、毎日夜6時頃、会場の一角で行われる。会場には恐竜の化石のぬいぐるみが歩き回り、時間になると骸骨のコスチュームをきた覆面姿の男性が現れ、当日の「受賞国」を発表する。
COP25で日本が受賞した時、イベントを見に行ったが、小泉進次郎環境大臣(当時)のスピーチを取り上げ、日本が温室効果ガス削減の目標値を引き上げなかった、脱石炭に積極的な姿勢を示さなかったとの「罪状」を読み上げ、「日本に化石賞第1位を授与する」と宣言すると日本の環境NGOの女性が壇上にあがり、石炭を模した黒い塊の入ったバケツを持たされ、周囲の国際NGOの人たちが「恥を知れ、日本!」と言いながら黒い塊を彼女に投げつける。
高校の文化祭のレベルにも達しないようなくだらないイベントだが、翌日の新聞では「日本、2度目の化石賞受賞」との見出しが躍った。もともと自虐傾向の強い日本のメディアは日本が化石賞を受賞すると小躍りして大々的に報道する。国際環境NGOもそこをよくわかっているので、日本は化石賞受賞の常連である。
COP27においても11月9日に日本が会期中最初の受賞者となった。受賞理由は「化石燃料に対する公的融資が最も多い。化石燃料の利用を長引かせるソリューションの輸出を企図している」というものだった。例によって日本のメディアは大々的に報道していたが、良識を期待されるべきNHKまで嬉々としてそれに乗ったことを残念に思った。

NHKより
https://www3.nhk.or.jp/news/html/20221110/k10013886821000.html
COP27期間中の化石賞受賞国のリストおよび受賞理由(カッコ内)は以下の通りである。
- 11月9日 日本(化石燃料に対する公的融資が最大。化石燃料の利用を長引かせるソリューション輸出を企図)
- 11月10日 エジプト(ソーシャルメディアに関する活動家の権利制限、水、食べ物、トイレの不足、ぼったくりのホテル価格)
- 11月11日 UAE/エジプト:ガス輸出国フォーラム(GECFのミーティングをホスト)、米国(Energy Transition Acceleratorで全球排出削減につながらない炭素市場を拡大)、ロシア(予算が化石燃料に依存)
- 11月12日 米国(ロスダメ資金に反対)
- 11月14日 ニュージーランド(ロスダメ資金の決定を2024年に延期するとの提案を支持)
- 11月15日 トルコ(2030年BAU比削減目標を引き上げたが、実際は30%の排出増)
- 11月16日 ロシア(1年を通じて悪いことばかりしている)
- 11月17日 イスラエル(パビリオンにおいて紛争地域の成功事例を紹介)
- 11月18日 米国(他の先進国(EU)が歩み寄りを示しているのにロスダメに賛成しないのでColossal Fossil 賞を授与)
受賞理由を一瞥すると、比較的クリーンとされる天然ガスも敵視していること、ロスダメに反対する国は片端から血祭に挙げていること等の傾向が見て取れる。また主催国エジプトが会場設営上の問題点やNGO活動の制約等で受賞しているのも面白い。COP26でも主催国英国が化石賞をもらっている。
毎度のことながら、世界最大の石炭消費国・石炭火力輸出国である中国は化石賞を受けていない。グラスゴー気候合意やG7サミットでは中国等を念頭にNDCの引き上げをエンカレッジしているが、中国はそれに応じていないどころか、COP27では解振華副主任が石炭火力の必要性を強調している。それでも中国は特別扱いをされているかの如くである。
知り合いのNGOの方に聞いたところ、化石賞は毎日、各国NGOが協議の上、コンセンサスで決めており、中国の名前があがったこともあるが、全員一致にはならないという。中国を批判するようなことをすると中国での活動が難しくなるとのジレンマもあるらしい。
各国NGOには中国のNGOも参加しているはずだが、そもそも全体主義国家、中国において真の意味でNGOなど存在するのか。彼らが反対に回り、最大の排出国中国はずっと化石賞の圏外におり、日本は常連受賞国でそれをメディアが大げさに取り上げる。
やはり化石賞は国際的な茶番劇でしかない。

関連記事
-
透明性が高くなったのは原子力規制委員会だけ 昨年(2016年)1月実施した国際原子力機関(IAEA)による総合規制評価サービス(IRRS)で、海外の専門家から褒められたのは組織の透明性と規制基準の迅速な整備の2つだけだ。
-
英国はCOP26においてパリ協定の温度目標(産業革命以降の温度上昇を2℃を十分下回るレベル、できれば1.5℃を目指す)を実質的に1.5℃安定化目標に強化し、2050年全球カーボンニュートラルをデファクト・スタンダード化し
-
再生可能エネルギーの先行きについて、さまざまな考えがあります。原子力と化石燃料から脱却する手段との期待が一部にある一方で、そのコスト高と発電の不安定性から基幹電源にはまだならないという考えが、世界のエネルギーの専門家の一般的な考えです。
-
よく日本では「トランプ大統領が変人なので科学を無視して気候変動を否定するのだ」という調子で報道されるが、これは全く違う。 米国共和党は、総意として、「気候危機説」をでっちあげだとして否定しているのだ。 そしてこれは「科学
-
菅直人元首相は2013年4月30日付の北海道新聞の取材に原発再稼働について問われ、次のように語っている。「たとえ政権が代わっても、トントントンと元に戻るかといえば、戻りません。10基も20基も再稼働するなんてあり得ない。そう簡単に戻らない仕組みを民主党は残した。その象徴が原子力安全・保安院をつぶして原子力規制委員会をつくったことです」と、自信満々に回答している。
-
スワッ!事故か!? 昨日1月30日午後、関西電力の高浜原子力発電所4号機で原子炉が自動停止したと報道された。 関西電力 高浜原発4号機が自動停止 原因を調査 「原子炉内の核分裂の状態を示す中性子の量が急激に減少したという
-
1月は地球の気温が急降下した。1991-2020の平均値とほとんど同じ(+0.03℃)になった。 データは衛星観測によるもの。図の見方は以前の記事を参照してください。 このデータは元NASAの衛星観測の第一人者ロイ・スペ
-
ドイツの地金 ロシアのウクライナ侵攻で、白日のもとに晒されたことがある。 それは、脱炭素政策に前のめりなドイツが実はロシアの天然ガスにドップリと浸かっているという事実である。ドイツのエネルギー政策の地金が出てきたとでも言
動画
アクセスランキング
- 24時間
- 週間
- 月間