起死回生の第3の候補現る:高レベル放射性廃棄物処分地調査受け入れの玄海町
脇山町長が示していたあるサイン
5月10日、佐賀県玄海町の脇山伸太郎町長は、高レベル放射性廃棄物(いわゆる核のごみ)の処分に関する文献調査を受け入れると発表した。苦渋の決断だったという。

「文献調査」を受け入れる考えを表明した玄海町の脇山町長
NHKより
これに先立つこと議会の請願採択を受けた際に、脇山町長はきわめて慎重な態度を示した。しかし、私が〝おやおや!?〟と思ったのは、町長が請願を受けた際に熟考するといいつつも、最終的には所掌の担当大臣である斉藤経産大臣への面会を希望するとの条件をつけたことである。
この時、「あっ、この人は文献調査を受け入れるのだ」とほぼ確信した。大臣面会要求はそういうサインだったのである。
私設応援団―フィンランド会
私は仲間たちと「フィンランド会」と称する情報共有交流会を作っている。これは地層処分で世界に先駆けるフィンランドに敬意を示すと同時にその先例に倣おうという趣旨で結成した第3者的集まりである。私たちは寿都町、神恵内村そして今回の玄海町の私設応援団であると自負している。
5月10日はたまたまその第7回会合が設定されてあった。私たちは都内三田の片隅で密かに祝杯をあげた。そんななか誰かが「第3の候補が現れるまでの道のりは側から見ていても厳しいものがあったね。でもこれがある意味本命じゃないのか」と呟いた。
フィンランド会では第3の候補が早期に現れることが待望されていた。昨年の対馬市の受け入れ頓挫があって、今回の玄海町の受け入れ決定は起死回生の一手となったのである。
なぜ玄海町が本命候補なのか

資源エネルギー庁より
フィンランドの場合、最終処分施設のオンカロはオルキルオト原子力発電所の近郊の地に建設中である。そんな地元の受け入れマインドはこうだ—
- そもそも私たちのところから出た高レベル放射性廃棄物なので、その発生地元がその廃棄物の処分を受け入れるのは理にかなっている
- 私たちは長年にわたって原子力のことを学んできた。その知識に基づいて、原子力発電所に比べれば、高レベル放射性廃棄物の最終処分場のリスクが格段に小さいことをよく理解している。
同様のことは1975年10月に玄海原子力発電所1号機が運開した玄海町にも当てはまるのではないかと私は思う。もうほぼ半世紀が経つのであるから。
また、私は高レベル放射性廃棄物問題をめぐって「中学生サミット」を2010年から開催しているが、ここにも玄海町の中学生が参加して来てくれていた。町、そして行政を挙げて、生徒らに原子力の現物を見て理解を促し、考える機会を与えていこうという姿勢が顕著にある。
佐賀藩は明治維新の礎を築いたもののその果実は薩長に持っていかれ、佐賀藩の貢献は従来あまり語られてこなかったが、昨今は見直しが始まっている。佐賀の人々は地道ながらも確固とした信念をもった方が多い—それはなんども現地を訪れ、人々と交流した私の実体験から感じたことである。
日本三代くんちの一つ唐津くんちは荘厳で楽しい。要所要所の名家では大鍋で巨大なアラが丸ごと煮付けられ客人に振る舞われる。
玄海町に続く自治体は
私は原子力施設が立地されている自治体の地元の人々と長年にわたって交流して来たが、地元の名士や議会筋から聞こえて来ていた声は、2つに集約される。
- 国や事業者の本気度が全く伝わってこない。そもそもトップの顔さえ見覚えがない。
- 最終的には国政の責任者つまり所掌の大臣級の責任の示し方が必須。
今回はこの2項目が概ね満たされたということではないか。1.に関しては経産省エネルギー庁の司のトップの功績と言っていいだろう。
また、国が出て行く前の地ならしは、電気事業連合会がその威信をかけて尽力したであろう。何しろ九州は同連合会の前会長(今年3月まで)のお膝元でもあるし、何をおいても昨年9月対馬市の市長が受け入れ判断の最終段階でノーとしたことの痛手は大きかった。

日本の原子力施設
JAEROより
日本には原子力施設が置かれている立地自治体が18箇所以上ある。
今回、玄海町が最終処分地選定に関わる文献調査の受け入れに応じたことで、これらの自治体へのインパクトは大きいと思われる。玄海町に続く自治体が出てくる可能性が高まったとみる。
その可能性が現実のものとなるためには、国や最終処分の実施主体である事業者の顔とマインドが、なお一層地元の人々に浸透じ合うことが必要不可欠だと私は思っている。
なにしろ地元の方々とこの話をしていて〝ニューモ(NUMO)が・・・〟と言おうものなら、今もって「なんでっか?それー育毛剤のアレでっか?」と言われる始末である。

関連記事
-
ビューポイント 3月15日記事。福島第一原子力発電所の事故以降、原子力発電所の海外事情から、今後の日本の原子力発電について提言しています。
-
4月3日は、台風並みの暴風雨が全国的に吹き荒れた。交通機関などの混乱にとどまらず、全国で死者3人、けが人は300人を超える被害を引き起こしている。東京電力のウェブサイトによれば、23時現在、同社サービスエリア内で約2100軒が停電中という。電気が止まってしまったご家庭はさぞ心細い思いをされているだろうと心配しつつ、同時に、嵐の中で必死に復旧作業にあたっているであろう、かつての同僚の顔が目に浮かぶ。私は昨年末まで同社に勤めていた。
-
表面的に沈静化に向かいつつある放射能パニック問題。しかし、がれき受け入れ拒否の理由になるなど、今でも社会に悪影響を与えています。この考えはなぜ生まれるのか。社会学者の加藤晃生氏から「なぜ科学は放射能パニックを説得できないのか — 被害者・加害者になった同胞を救うために社会学的調査が必要」を寄稿いただきました。
-
143名の自民党の衆参両議院議員でつくる研究会・電力安定供給推進議員連盟(会長細田博之衆議院議員)は7月8日、同党の原子力規制に関するプロジェクトチーム(PT)(委員長・吉野正芳衆議院議員)に、それまでまとめていた「「原子力規制委員会設置法3年以内の見直し」等に関する緊急提言」を提出した。
-
福島第一原発を見学すると、印象的なのはサイトを埋め尽くす1000基近い貯水タンクだ。貯水量は約100万トンで、毎日7000人の作業員がサイト内の水を貯水タンクに集める作業をしている。その水の中のトリチウム(三重水素)が浄
-
前回はESG投資商品と通常の投資商品に大きな違いがないことを論じましたが、今回は銘柄選定のプロセスについて掘り下げてみます。 いわゆる「ESG投資」というのは統一された定義がなく、調査会社や投資商品によって選定基準が異な
-
「2050年のカーボンニュートラル実現には程遠い」 現実感のあるシナリオが発表された。日本エネルギー経済研究所による「IEEJ アウトルック 2023」だ。(プレスリリース、本文) 何しろここ数年、2050年のカーボンニ
-
IPCCは10月に出した1.5℃特別報告書で、2030年から2052年までに地球の平均気温は工業化前から1.5℃上がると警告した。これは従来の報告の延長線上だが、「パリ協定でこれを防ぐことはできない」と断定したことが注目
動画
アクセスランキング
- 24時間
- 週間
- 月間