米欧の亀裂が浮き彫りとなったIEA閣僚理事会

Andrew Linscott/iStock
本年2月18-19日にパリにおいてIEA閣僚理事会が開催された。共同声明という形で合意されたのは重要鉱物セキュリティに関するIEAの作業への支持表明注1)、及びIEAとウクライナの協力に対する支持表明注2)という2点のみであり、全体的な閣僚コミュニケの採択は見送られ、ヘルマンス・オランダ副首相兼気候政策・グリーン成長大臣による議長声明注3)が発出された。
包括的なコミュニケを採択せず、個別分野の合意にとどめるというのは2025年6月のG7カナナスキス・サミットと同じである。
議長声明では閣僚が重点的に議論した項目として、エネルギー安全保障、重要鉱物、ウクライナ、エネルギーアクセスとクリーン調理、原子力、人工知能、イノベーション等が列挙されている。
読み進めていくと、ほとんどの文章で主語が「Ministers」となっており、そのまま共同声明にもできそうな中身であるが、議長声明でとどまった最大の理由は、エネルギー安全保障に関する米国と欧州の認識の違いであろう。
議長声明のエネルギー安全保障部分の全訳を以下に掲げる。
【エネルギー安全保障】
- 閣僚らは、エネルギー安全保障における国際エネルギー機関(IEA)の中核的役割を再確認した。堅固なエネルギーデータと分析に基づくIEAの全燃料・全技術アプローチは、より国内生産に依存した電化・持続可能なエネルギーシステムへの移行を含め、これまでと同様に極めて重要である。
- 閣僚らは、IEA事務局と英国が主催した「エネルギー安全保障の未来に関するサミット」(2025年4月24-25日)の成果を総括した。地政学、サプライチェーンの脆弱性、異常気象、サイバーセキュリティに起因するリスクの高まりと複雑化に直面する世界的なエネルギーシステムにおいて、多国間協力の重要性を認識した。
- 多くの閣僚は、エネルギー転換の加速がエネルギー源の多様化、エネルギーコストの削減、システムの強靭性向上につながる機会を提供すると認識した。また、強靭性、手頃な価格、持続可能性、安全保障を強化するため、多様なエネルギー源と技術への投資拡大の必要性を強調した。閣僚らは、エネルギーシステムの強靭性強化と当該分野における国際協調の強化に関するさらなる対話をIEAが主催することを歓迎した。
- 閣僚らは、エネルギー安全保障が国家安全保障に不可欠であることを指摘し、多様性、予測可能性、手頃な価格、国際協力の確保の重要性を認めた。
- 閣僚らは、石油・ガスの継続的な重要性に加え、電力需要の増加、強靭で多様化されたサプライチェーン、エネルギー転換、インフラのレジリエンスといった新たな優先課題を含むエネルギー安全保障に、IEAが引き続き注力する必要性を強調した。
- 閣僚らは電力需要の増加とエネルギーシステムにおける電力の役割拡大を認識した。
- 閣僚らは、エネルギー安全保障の確保と電力システムの管理における異なるアプローチが加盟国間で異なっていることを強調した。
- 多くの閣僚が、協力、準備態勢、柔軟性、十分な投資の重要性を指摘するとともに、再生可能エネルギーと調整可能な電力、強化された送電網、貯蔵、家電製品、需要側対策、相互接続の拡大、イノベーションの役割を強調した。
- 大多数の大臣は、気候変動対策におけるエネルギー転換の重要性を強調し、COP28の成果に沿ったネットゼロ排出への世界的移行を指摘した。この文脈で、多くの大臣がエネルギー転換はエネルギー自立性・安全保障・手頃な価格の向上、脱炭素化、健康増進、その他の社会的便益をもたらす手段であると強調し、エネルギー効率化と再生可能エネルギー目標達成の重要性を再確認した。彼らは、エネルギー転換の進捗状況を追跡するIEA事務局の継続的な取り組みに強い関心を示し、IEAの現在の重点に沿って、エネルギー安全保障、エネルギー効率、再生可能エネルギー、手頃な価格、排出削減への継続的な注力を求めた。
他の部分は「閣僚は」となっているところが、太字では「多くの閣僚は」、「大多数の大臣は」といった形となっており、加盟国間で意見が一致していないことを示している。一言で言えば、クリーンエネルギー転換による脱化石燃料こそがエネルギー安全保障に貢献すると考える欧州と、エネルギー安全保障のためには化石燃料の増産を含めた供給増大が必要であると考える米国との溝である。
国内に潤沢な石油ガス資源を有し、ネット輸出国となっている米国と、化石燃料の輸入依存度が高く、ロシアという安価で安定的な供給源を失った欧州との事情の差もあるが、何より気候変動問題を重視する欧州と、気候変動を「世界最大の詐欺」と呼ぶトランプ政権とでエネルギー安全保障観が一致するわけはない。
これまでのIEA閣僚理事会でも原子力等、加盟国間でポジションが異なる問題は存在したが、それでも「原子力エネルギーを支持する国は」等と主語を限定する形でコミュニケを採択している。しかし、エネルギー転換とエネルギー安全保障に関する米欧対立ははるかに根が深く、幅広い問題であり、表現の工夫で何とかなるものではない。このため議長も事務局も早い段階で包括的な共同声明の採択はあきらめていたのだろう。
米国とIEAの関係も波乱含みである。トランプ政権は発足以来、「IEAが温暖化防止に傾斜し過ぎている」としてIEAを批判してきた。
IEAは2025年世界エネルギー展望(World Energy Outlook 2025)において、各国の脱炭素に向けた政策進展を考慮した表明政策シナリオ(STEPS:Stated Policy Scenario)、2050年に世界がネットゼロを達成することを前提としネットゼロ排出(NZE:Net Zero Emissions Scenario)に加え、各国の政策が現状のまま変わらない現行政策シナリオ(CPS:Current Policy Scenario)を5年ぶりに復活させた。さらに本文中でもCPSとSTEPSが大きく扱われ、それまで紙面を大きく割いていたNZEは小さい扱いとなった。
これが奏功してか、1月にトランプ大統領が脱退・離脱を指示した66の国際機関・条約の中にIEAは含まれていない。しかし閣僚理事会においてライト米エネルギー長官は「我々は(現在のIEAの政策シナリオに)全く満足しておらず、まだ道半ばだ…米国がIEAの長期加盟国であり続けるためには、同機関は改革を完了させる必要がある…ネットゼロシナリオなど不要だ。そんなものは実現不可能だ。2050年までのネットゼロなどありえない」と明言し、IEAがネットゼロに固執するならば脱退する可能性もあると示唆した。
パリ協定やネットゼロアジェンダは欧州にとって譲れないものであり、米国に配慮してCPSを復活させるまではともかく、NZEを削除することとなれば、黙ってはいないだろう。
第一期トランプ政権の際、IEAはシェールガス革命を称賛して米国を持ち上げる一方、再エネコスト低下をハイライトして脱炭素化を進める欧州も喜ばせてきた。しかし第二期トランプ政権と欧州の溝は埋めがたいほど大きい。米国とEUの板挟みとなったIEAのビロル事務局長は難しいハンドリングを迫られることになるだろう。
今年はフランスがG7の議長国、米国がG20の議長国となる。米国のG20で温暖化問題が取り上げられないことは確実だが、エネルギー問題についてG7とG20でどのような違いが出てくるのかが注目される。
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注1)2026 IEA Ministerial Declaration Supporting the IEA’s Work on Critical Minerals Security – News – IEA
注2)Joint Statement in Support of the IEA-Ukraine Collaboration Programme – News – IEA
注3)2026 IEA Ministerial Chair’s Summary
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