頭上の太陽光パネルに思う — いじらしさと気まぐれにどのように向き合うべきか
私は太陽光発電が好きだ。
もともと自然が大好きであり、昨年末まで勤めた東京電力でも長く尾瀬の保護活動に取り組んでいたこともあるだろう。太陽の恵みでエネルギーをまかなうことに憧れを持っていた。いわゆる「太陽信仰」だ。
そのため、一昨年自宅を新築した際には、迷うことなく太陽光発電を導入した。初期投資額の大きさ(工事費込み304万円)には少々尻込みしたが、東京都と区から合わせて約100万円の補助金を受けられると聞いたこと、そして何より「環境に良い」と思って決断した。正確に言えば、思考停止してしまった。
しかし、実際に設置してわかったのは、太陽光発電は、少なくとも現在の技術では「自立した発電手段ではない」ということだ。
理由の一つは、その気まぐれな働きぶりだ。
勤務時間ともいえる稼動の時間帯は「9-5時」だ。しかも二日酔いのサラリーマンよろしく、朝はボチボチの様子見運転、おやつの時間を過ぎればそわそわと帰り支度を始めるといった風で、まじめに働いているのは正午を挟む数時間のみである。雲が出れば不機嫌になり、雨が降ったら当然のごとく全く働こうとしない。太陽光発電は小型とはいえ立派な一つの発電所なのにである。
日本における太陽光発電の平均稼働率が約12%程度しかないという知識は持っていたが、太陽を燦々と浴びた黒いパネルが電気を生み出すイメージばかりが頭に浮かび、実感できていなかったのだ。
二つ目の理由は、頼りにしたい時に頼りにできない点だ。
太陽光発電に最も頼りたいのは、電力会社からの電力供給が途絶したときである。しかしその場合、太陽光発電も自動的に運転を停止してしまうのだ。
我が家の太陽光発電の取扱説明書の文言を引用する。
<重要>
パワーコンディショナーから供給される電力は、日射量により出力が変動するため不安定な電力となります。よって、電力供給の変動により、損傷する恐れのある機器や使用上問題がある機器(バッテリーのないPC・メモリー機能のある機器等)への接続はしないようにしてください。
<警告:特に生命に関わる機器への接続は、厳禁とします。>
手動で自立運転に切り替え、パワーコンディショナーに一つだけあるコンセントに接続すれば、多少の電気を使うことはできる。ただし、最大15A(アンペア)まで、しかも出力が不安定なので、使える電化製品は限定される。ありていに言えば、ほとんど使えない、ということだ。「私は自立できません」という電源なのだ。
結局のところ、太陽光発電は、時間帯や気象条件に関わらず電力を安定供給できる他の大規模電源か、大型蓄電池などのバックアップ電源がなければ、活用できない発電手段なのだ。これでは、燃料費の節減はできても、発電設備の削減はできない。二重の設備投資が必要となる。
さらに、太陽光発電は周波数や電圧が不安定であるため、大量に導入しようとする場合には「系統安定化対策」が必要となる。これは発電と送電、使用量を調整するもので、現在の技術では電気は大量に貯めることができないので、気まぐれに電気をつくる太陽光が増えると、その対策は非常に難しくなる。
導入量と対策の種類によってコストは大きく異なるが、少なく見積もっても全国で1兆円をゆうに上回る費用がかかると考えられている。2010年年3月の経済産業省・次世代送配電ネットワーク研究会によると、太陽光発電を2800万kW導入した場合、最も安価な対策でも1兆3600億円の系統安定化対策費が必要という試算がなされている。
こうして見ると、わが国における太陽光を含む新エネルギー(水力のぞく)の導入量が全発電電力量比で1.2%程度(2010年度)にとどまっているのは、政策的な支援が不足しているからというよりも、その技術の本質的な問題によるものと考えるのが妥当ではないだろうか。
それでも、私は太陽光発電が好きだ。
太陽が顔を出すと張り切って発電を始める姿はいじらしいし、毎日発電モニターをチェックするのも楽しい。節電のモチベーションを高めてくれたことにも感謝している。
しかし、政府が固定価格全量買取制度を今年7月から導入するなどして、「今の技術レベルの」太陽光発電を普及させようとしていることには反対せざるを得ない。
なにしろ我が家では、風来坊の象徴である寅さんをもじって「寅ちゃん」という愛称を献上しているくらい、頭上の太陽光パネルは、あまりに気分屋なのだから。
竹内 純子(たけうち・すみこ)

関連記事
-
先日、COP28の合意文書に関する米ブライトバートの記事をDeepL翻訳して何気なく読みました。 Climate Alarmists Shame COP28 into Overtime Deal to Abandon F
-
IPCCの報告がこの8月に出た。これは第1部会報告と呼ばれるもので、地球温暖化の科学的知見についてまとめたものだ。何度かに分けて、気になった論点をまとめてゆこう。 IPCC報告を見ると、不吉な予測が多くある。 その予測は
-
【要旨】日本で7月から始まる再生可能エネルギー固定価格買取制度(FIT)の太陽光発電の買取価格の1kWh=42円は国際価格に比べて割高で、バブルを誘発する可能性がある。安価な中国製品が流入して産業振興にも役立たず、制度そのものが疑問。実施する場合でも、1・内外価格差を是正する買取価格まで頻繁な切り下げの実施、2・太陽光パネル価格と発電の価格データの蓄積、3・費用負担見直しの透明性向上という制度上の工夫でバブルを避ける必要がある。
-
アゴラ研究所の運営するエネルギー調査期間のGEPRはサイトを更新しました。
-
日本に先行して無謀な脱炭素目標に邁進する英国政府。「2050年にCO2を実質ゼロにする」という脱炭素(英語ではNet Zeroと言われる)の目標を掲げている。 加えて、2035年の目標は1990年比で78%のCO2削減だ
-
「いまや太陽光発電や風力発電が一番安い」というフェイクニュースがよく流れている。だが実際のところ、風力発電を大量に導入しているイギリスでは電気代の上昇が止まらない。 英国のシンクタンクGWPFの報告によると、イギリスの再
-
北朝鮮が核実験を行う意向を、1月28日現在で示しています。この実験内容について、東京工業大学の澤田哲生助教に解説いただきました。
-
日本政府はCO2を2030年までに46%減、2050年までにゼロにするとしている。 前回、このような極端なCO2削減策が、太平洋ベルト地帯の製造業を直撃することを書いた。 今回は、特にどの県の経済が危機に瀕しているかを示
動画
アクセスランキング
- 24時間
- 週間
- 月間