曲解だらけの電源コスト図made byコスト等検証委員会
(GEPR編集部より)GEPRはNPO法人国際環境経済研究所(IEEI)と提携し、相互にコンテンツを共有します。
澤昭裕IEEI所長のコラムを転載します。
前回予告したように、エネルギー・環境会議コスト等検証委員会での議論の問題点を考えてみよう。
もともと低すぎるではないかとの批判が強かった原子力発電のコストを再検証しつつ、再生可能エネルギーの導入を促進するために、再生可能エネルギーのコストを低めに見積もるという政策的結論ありきで始まったのだろうと、誰しもが思う結果になっている。そういう流れの中での検討なので、結果のプレゼンの仕方や論理構成が無理を重ねたり歪曲されたものになったりしているのも、政策当局としてはしかたなかったのかもしれない。
報告書の要約が図「各電源の発電コスト」に与えられている 。

内閣府国家戦略室資料
世の中にはこの図のみが一人歩きしている感があるが、同じベースで比較されているように見える数値が、実は電源ごとに違った前提が裏にあるため、報告書と切り離されてこの図だけが流布していくことは、大きな誤解を招きかねない。
例えばどのような問題点があるか、次に列挙してみよう。
1)再生可能エネルギーのコスト計算に研究開発費用を計上すべき
再生可能エネルギーには、第一次石油危機後のサンシャイン計画から始まり、過去30年にわたり国費による莫大な研究開発費用が注ぎ込まれてきている。一方で、原子力については高速増殖炉の研究開発費が計上されており、比較ベースが異なっている。
また、いわゆる「政策コスト」も同じだ。原子力については政策コストを計上しているのに新エネルギーについては計上していない。例えば、バイオマスニッポン計画では5年間で6.5兆円が使われたと言われている。このうち多くはバイオマスエネルギー利用についての予算であり、再生可能エネルギー導入推進政策の一環だったわけで、こうしたコストが除外されている理由が判然としない。(なお、同計画については、総務省の行政評価によって2011年の2月に効果がゼロだったと判断されている。)
また日本の温暖化対策予算は中央政府と自治体の合計で年間3兆円に上るが、このうち再生可能エネルギーの政策費用に当たるものを精査すべきだろう。一部委員の資料には、そうした費用計上がなされているものもあるが、最終的にどのような扱いがされたのかが明確にされなければ納得性に欠ける。
2)再生可能エネルギーの未来のコストは別図にすべき
これは、同図の基本的な問題点だが、再生可能エネルギーのコストは、将来の技術進展によるコスト低下を適宜予測して弾き出しており、現時点での試算を基礎としているその他の電源試算とはベースが異なる。
それが、同一の図に十分な注意書きがなく、同列に記載されていることは、意図的な誤解を導こうとする目的としか思えない。必要であれば、別の図でプレゼンテーションを行うべきだろう。
3)石油火力の利用率は80%で評価すべき
石油火力の利用率は10%や50%で評価されている。しかしこれは、需給に合わせた系統運用で電源の使用順が決まり、その結果石油火力の利用率が抑えられているだけなのだから、他の火力と計算ベースを同じにすべきだ。太陽光発電は自然の制約ゆえに利用率が約10%になるのに対し、石油火力の利用率10%というのでは、意味が全く違う。このまとめの図は再生可能エネルギーのほうが石油火力よりコストが低くなるように見えるが、上記の理由で、これは明らかな誤りである。
続きはまた次回に。

関連記事
-
広島高裁は、四国電力の伊方原発3号機の再稼動差し止めを命じる仮処分決定を出した。これは2015年11月8日「池田信夫blog」の記事の再掲。 いま再稼動が話題になっている伊方原発は、私がNHKに入った初任地の愛媛県にあり
-
東京都の太陽光パネルの新築住宅への義務付け条例案が6月24日までの期限で一般からの意見募集(パブコメ)を受け付けている(東京都による意見募集ホームページはこちら)。 懸念はいくつもあるが、最近気が付いた重大なことがある。
-
関西電力の高浜原子力発電所3、4号機(福井県高浜町)の運転差し止めを滋賀県の住民29人が求めた仮処分申請で、大津地裁(山本善彦裁判長)は3月9日に運転差し止めを命じる決定をした。関電は10日午前に3号機の原子炉を停止させた。稼働中の原発が司法判断によって停止するのは初めてだ。何が裁判で問題になったのか。
-
アゴラ研究所の運営するエネルギーのバーチャルシンクタンクGEPRはサイトを更新しました。
-
有馬純 東京大学公共政策大学院教授 今回のCOP25でも化石賞が日本の紙面をにぎわした。その一例が12月12日の共同通信の記事である。 【マドリード=共同】世界の環境団体でつくる「気候行動ネットワーク」は11日、地球温暖
-
GPIFがサステナ投資方針を月末公表へ、ESGの姿勢明確化―関係者 ブルームバーグ 年金積立金管理運用独立行政法人(GPIF)は、サステナビリティー(持続可能性)投資に関する方針を初めて策定し、次期基本ポートフォリオ(資
-
ここ数年、夏の猛暑や冬の大雪があるたびに、枕詞のように、「これは気候変動のせいだ」といった言葉がニュースやSNSにあふれています。 桜が満開の北海道で季節外れの大雪 29日から平地で積雪の恐れ GWの行楽に影響も かつて
-
元静岡大学工学部化学バイオ工学科 松田 智 今年6月2日に発表された「2050年カーボンニュートラルに伴うグリーン成長戦略(案)」から読み取れる諸問題について述べる。 全155頁の大部の資料で、さまざまなことが書かれてい
動画
アクセスランキング
- 24時間
- 週間
- 月間