COP19参戦記 — 失敗?日本の新目標発表、なぜ「今」だったのか

2013年11月25日 16:00
竹内 純子
国際環境経済研究所理事・主席研究員

提携する国際環境経済研究所(IEEI)の竹内純子さんが、温暖化防止策の枠組みを決めるCOP19(気候変動枠組条約第19回会議、ワルシャワ、11月11−23日)に参加しました。その報告の一部を紹介します。

COP19 参戦記①−日本の新たな温暖化目標に関する評価
COP19 参戦記②−産業界の関与強化がカギ
この記事のIEEI版

反発を受けた日本案

現地時間11月20日午前11時過ぎ、石原環境大臣が国連気候変動枠組み条約交渉のプレナリー(本会議)において、演説を行った。2020年までのわが国の目標を、民主党政権が掲げていた1990年比25%削減に代わり、2005年比3・8%削減とすることを正式に発表し、あわせて、温暖化に向けた革新的技術開発に向け今後5年間で官民あわせて1100億ドル(約11兆円)の国内投資を目指すこと、途上国の温暖化対策支援に160億ドル(約1兆6000億円)を拠出することなどもあわせて表明した。


演説する石原伸晃環境大臣

COP参戦記①
で述べた通り、この新しい目標値に対しては当然のことながら強い反発があった。英国のエネルギー・気候変動大臣のエドワード・ダービー(Edward Davey)氏は安倍首相を本部長とする地球温暖化対策推進本部がこの新目標を了承したとの報を受け早々に非難するコメントを発した。環境NGOがCOP期間中毎日発行するニュースレターの11月16日号のトップタイトルは”Don’t Drop the Ball , Japan!(投げやりになるな、日本!)”であった。

国内事情で見直しは必然だったが…

しかし、どんな反発が予想されようと、目標値の見直しは必然であった。理由の一つは、そもそも1990年比25%削減という目標値は実現可能性が非常に乏しいものであった。鳩山首相(当時)が2009年9月の国連気候変動サミットでこの目標を発表した後に策定されたエネルギー基本計画は、そのつじつまを合わせるために、年限を2030年とした上で、再エネを19%、原子力53%に拡大するものであった。

もう一つには東京電力福島原子力発電所事故以降ほとんど全ての原子力発電が稼働を停止し電力の9割を火力発電に頼っている現在、大きな削減を実現する具体的手段はないことである。

問題は、「なぜ今だったのか?」だ。気候変動交渉に長く携わり、日本の状況にも詳しい海外の友人は「福島事故の後に目標値の見直しを発表すれば誰も何もいわなかったであろうに」と言う。

原子力発電所の停止が全国に及び、しかもここまで長引くとは当時誰も予想出来なかったであろうから、今になってそれを日本政府に求めても酷というものかもしれない。しかし少なくとも1990年比25%削減という目標は撤回せざるを得ないということについては明らかにしておくべきであったのではないか。震災直後であっても目標を撤回するのであれば、それに代わる新目標とその根拠を示すことを求められたであろう。

民主党政権のあやまったこだわりの悪影響

しかし新目標も原子力発電所の稼働がないという仮定の下に掲げたもので、見直しの可能性も付言している。そうであるなら震災直後に「目標の見直しは不可避。新目標は状況が落ち着いたら」で押し通すことも出来たのではないか。

当時の民主党政権は、看板政策であった「1990年比25%削減」にこだわり、震災直後のCOP17においてエネルギー政策の見直しについては言及したものの、この目標を撤回することは選択肢としてあまり議論されないままにタイミングを逃してしまった。

今となっては、諸外国の交渉関係者の間で東日本大震災が如何に甚大な被害をもたらしたかの記憶は薄れ、その後のエネルギー政策の混迷は理解されづらい。米国の気候変動特使は、日本の目標見直しを擁護しないとしつつも、日本が「特殊事情」にあることを理解せねばならないとコメントしているが、あくまで少数派である。

また、フィリピンの台風をきっかけに、気候変動の被害を受けるのはこれまで温室効果ガスをそれほど排出してこなかった途上国であり、日本を含めた先進国は率先して削減に取り組むとともに、途上国への技術・資金の提供を行うことが当然であるとの認識が今まで以上に強くなっていた。そして新目標の必要性を認識したことが、今回のCOPが持つ全体的な意義である。

明確な態度、そして説明が必要

COP19参戦記①に指摘した通り、今回のCOPは2020年以降の新たな枠組み構築を進めることが主要テーマである。その枠組みを再び京都議定書のように一部の先進国のみが削減目標を掲げる実効性に乏しい仕組みにすることを避けるため、中国やインドなどもはや大排出国となった「途上国」の参加を如何に引き出すかに交渉の全精力を注がねばならない。

2020年発効のための交渉期限とされる2015年に向けて各国がジャブをうちあっている今のタイミングで、なぜわざわざ火種を提供するような発表を行ったのか。先に紹介した英国エネルギー・気候変動大臣の批判や米国気候変動特使のコメントの根底には、そうした交渉の大きな流れを読み損ねた日本に対する苛立ちがあるような気がしてならない。

「東日本大震災から2年以上経って目標数値も持たずにいけば国際交渉でもたない」というコメントがよく聞かれる。しかし数年前繰り返された「日本が京都議定書第二約束期間に加わらなければ国際的に孤立する」というコメントを思い出す。

京都議定書の枠組みを継続することは地球温暖化対策の実効性を乏しいものとし続けるのみであることを理由に、日本はどのような条件であっても京都議定書第二約束期間にはいることはないとCOP16(2011年、コペンハーゲン)の場で宣言した日本の交渉官は、実は多くの国から「孤高の士」として評価された。

もちろんすぐに理解されたわけでも、全世界に評価されたわけでもない。しかし毅然とした態度と正当かつ丁寧な説明があれば理解を得ることは可能である。安易に誰にでも好かれようとする態度の方が理解されづらい。

2020年以降の枠組みが、全ての国の参加による実効性あるものとなるようにすることが先進国としてのわが国の責任であると考え、2020年の新枠組み発効に向けた交渉期限とされる2015年までをどのように過ごすか。長い時間軸と大きな視野で考える必要がある。

(2013年11月25日掲載)

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竹内 純子
国際環境経済研究所理事・主席研究員

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