電力改革、広がるビジネスの可能性・村上憲郎氏、関啓一郎東大教授【電力システム改革を考える・下】
「自由のもたらすチャンスに注目を・エネ庁村瀬政策課長【電力システム改革を考える・上】」から続く。
電力改革、広がるビジネスの可能性

村上 憲郎
電力システム改革の論議で不思議に思うことがある。電力会社や改革に慎重な人たちが「電力価格の上昇」や「安定供給」への懸念を述べることだ。自由化はそうした問題が起こるものだ。その半面、事業者はがんじがらめの規制から解き放たれ、自由にビジネスができるようになる。わざわざ規制当局の代弁をする必要はないだろう。
電力会社はこれまで停電の少ない高品質の電力を供給立派な事業をしてきた。一国民、消費者として感謝をしたい。だからこそ、そこで蓄積したノウハウを活かせば、さまざまなビジネスの可能性が広がると思う。
確かに改革の結果、既存の電力会社は「競争によってこれまでの地位を失う」という面があるかもしれない。しかしそれだけではない。蓄積したノウハウをと、優れた人材を持つ「チャンスに一番近い人々」として、電力業界への新規参入を目指す、さまざまな企業の人々が電力業界をうらやましく思っている。
通信業界と電力業界の関係は「融合」という方向に進むだろう。改革をきっかけに、それぞれのビジネスが複雑に入り交じる未来像を予想している。
最近のビジネスの潮流である「インターネット・オブ・シングス」(物のインターネット・IOT)、すなわちあらゆるものがインターネットを通じて結びつき情報がリアルの世界を変える動きと結びつくだろう。スマートグリッド、そして再生可能エネルギーはこの流れの中で、進化をしている。融合の先に、電力業界の新しい成長があるはずだ。そして、それはこれまで想像しなかったビジネスを産み、日本経済にも、そして私たち消費者一人ひとりにとっても、大きな、意義深い影響をもたらすだろう。(談)
(むらかみ・のりお)元グーグル日本法人代表。現在はエナリス社外取締役など、電力ビジネスにもかかわる。
通信自由化から学ぶ、事業者の成長

関 啓一郎
東京大学公共政策大学院教授
電力システム改革の動きと、通信自由化には類似点があり参考になる点は多い。電力事業と通信事業はともに、ネットワーク整備のための初期投資など固定費用が非常に大きい。いわゆる「自然独占」産業と呼ばれ、規模の経済が強く働くため、市場独占を認める方が効率的だと考えられてきた。しかし、独占は非効率を生み、料金低廉化や需要多様化への対応を困難としてしまう。
そのために自由化が検討されるのは当然の流れだ。1985年に電電公社が民営化されてNTTが発足し、同時に参入自由化が行われた。しかし、競争が円滑に進んだわけではなく、NTTの市場支配力は大きかった。
こうした中で新規参入者が有効かつ公正な競争を行うためには、NTTの通信網を競争者に開放する必要があった。いわゆる「ドミナント(非対象)規制」である。「発送電分離」が議論されているが、電力市場で公正競争を促していく上で、この規制の経験は役立つと思う。
公正な競争の結果、通信分野では消費者は事業者を選択できるようになった。競争の下で不当な料金値上げが不可能になり、認可等の事前規制から、消費者保護中心の事後規制に置き換えられた。
おそらく電力でも同じことが起こるはずだ。既存事業者には非対象規制の負担が残る。しかし、競争は、既存・新規を問わず、新しい時代の流れに適合していく意欲を生み出す。さらに電力と通信の融合(E&C)を促し、省エネや自動制御など無限の可能性を広げるだろう。(談)
(せき・けいいちろう)郵政省入省、総務省四国総合通信局長を経て現職。03年の「e-Japan戦略Ⅱ」、08年の「第二次情報セキュリティ基本計画」など、政府のIT政策の立案にかかわる。
(取材・構成 アゴラ研究所フェロー石井孝明。なおこの原稿は、エネルギーフォーラム5月号の原稿の一部を、同誌のご厚意で転載させていただいた。同誌編集部に感謝を申し上げる)
(2014年5月19日掲載)

関連記事
-
中部電力の浜岡原子力発電所(静岡県御前崎市)は、昨年5月に菅直人首相(当時)の要請を受けて稼動を停止した。ここは今、約1400億円の費用をかけた津波対策などの大規模な工事を行い、さらに安全性を高めようとしている。ここを8月初頭に取材した。
-
原子力規制委員会の有識者会合は7月17日、北陸電力志賀原子力発電所(石川県)の1号機原子炉建屋直下を走る破砕帯について、活断層の疑いを否定できないとする評価書案をまとめた。この評価により同原発の当面の稼動は難しくなった。規制委の問題行動がまた繰り返されている。
-
「福島第一原発事故の放射線被曝は、即座の健康被害を引き起こさなかった。そして将来に渡って一般市民、原発事故作業員の大半の健康に影響をおよぼす可能性はほとんどないだろう」。
-
GEPRを運営するアゴラ研究所は、言論アリーナというインターネットの映像番組を提供している。1月16日の放送は、「電力自由化の光と影」だった。(YouTube)それを報告する。
-
中国が南シナ海の実行支配を進めている。今年7月12日に南シナ海を巡り、フィリピンが申し立てた国際的な仲裁裁判で、裁判所は中国が主張する南シナ海のほぼ全域にわたる管轄権について、「中国が歴史的な権利を主張する法的な根拠はない」などと判断し、中国の管轄権を全面的に否定した。
-
オバマ大統領とEPA(アメリカ環境保護局)は8月3日、国内の発電所から排出される二酸化炭素(CO2)を2030年に2005年比で32%削減することなどを盛り込んだ「Clean Power Plan(クリーンパワープラン)」を正式に決定した。
-
米国ではスリーマイル島事故などの経験から、原子力の安全規制は大きく改善されてきている。日本の原子力規制委員会(以下「規制委」)も、規制の仕組みを改善してきたNRC(アメリカ合衆国原子力規制委員会: Nuclear Regulatory Commission)を参考にして、現在の独善的な審査の仕組みを早急に改めるべきである。
-
チェルノブイリ事故によって、ソ連政府の決定で、ウクライナでは周辺住民の強制移住が行われた。旧ソ連体制では土地はほぼ国有で、政府の権限は強かった。退去命令は反発があっても、比較的素早く行われた。また原発周囲はもともと広大な空き地で、住民も少なかった。
動画
アクセスランキング
- 24時間
- 週間
- 月間