原子力規制委の審査迅速化を支援へ-自民議連【言論アリーナ】
アゴラ研究所の運営するインターネット放送の「言論アリーナ」。8月6日の放送は自民党衆議院議員の細田健一氏を招き「エネルギー危機を起こすな」を放送した。それを報告する。(YouTube番組)「エネルギー危機を起こすな」
(要旨)

細田議員は自民党で電力とエネルギー政策の適切な運営を求める議員連盟である電力安定推進議員連盟の事務局次長を務める。アゴラ研究所の池田信夫所長が聞いた。
細田議員は、原発の再稼動の遅れによるさまざまな弊害の危機感は自民党内に広がっていると指摘。国会という立法府の力の及ぶ範囲で、問題の解決に政府・与党が動く意向にあることを述べた。特に原子力規制委員会による新安全基準の適合性審査の迅速化を支援する政策を打ち出すという。
経済悪影響への懸念、自民党内に広がる
細田氏は経産省の官僚として勤務後、民間企業を経て自民党から2012年に衆議院議員に初当選。在職中は原子力安全保安院(当時)で原発規制行政にも関与した。経済政策に精通した議員として知られる。東京電力柏崎原発を持つ新潟2区選出。また自民党の電力安定推進議員連盟の事務局次長を務めている。
経済学者である池田氏が鉱工業生産、GDPが4-6月期に落ち込んだことを指摘。また原発停止によるLNG輸入の増加は13年で年間3兆6000億円にもなることにも懸念を示し、「エネルギーの供給制約が日本経済の重荷になっている」と述べた。原発が原子力安全委員会の審査の遅れによって止まっているためだ。
細田議員は次のように述べ、懸念に同意した。「自民党には電力料金の上昇に困った企業関係者の方の悲鳴が届いている。私は経済への悪影響への危機感を持っており、これは自民党の多くの議員の共有するもの。電力料金のこれ以上の上昇は日本の製造業を存亡の危機に追い込む。カタストロフィー(破局)が起こってからでは遅い」。
自民党の電力安定同議員連盟は150人のメンバーがいて、自民党で影響力を増しているという。同党に原子力発電の利用に反対の人はいるが、「福島原発事故があり、異論は当然のこと」と細田氏は指摘した。安倍政権も自民党も原子力発電の活用、そして安全を確認された原発から再稼働するという方針はぶれずに変わらないという。反原発の主張を尊重しすぎて、原発問題にさわらないという雰囲気のあった政権、そして自民党の様子が少しずつ変わっているようだ。
しかし細田氏次のように強調した。「自民党はやみくもに原発の稼働を求めることはない。福島原発事故の反省の上で原子力を慎重に運営するという政策も政権・自民党は一貫している。また国民の皆さまの原子力に対する批判も尊重し、対話を重視している」。
規制委員会の問題に、立法で関与
そして細田氏は原子力規制委員会の対応は次の問題があるとした。1)審査の遅れ、2)リスクを確率的に分析して審査を行わず、基準が不明瞭で担当者の裁量が審査内容を左右する、3)規制の合理性が検証されていない。その問題は地震の審査で著しい、4)事業者と規制当局の対話が乏しい、などだ。
合理性の検証、そして事業者と規制当局の対話不足から「実は安全が高まっていない可能性があり審査も遅れている」と、懸念を示した。
また原子力規制では、法律上の規定のないままバックフィット(規制の事後適用)が行われている。活断層があるとした日本原電敦賀2号機では、規制委がそれによってこの原子炉を事実上の廃炉に追い込む構えだ。この問題についても「事業者が国を訴えかねない。法律上の対応が必要と思う」と、細田氏は述べた。
ただし規制委は政治からの独立性を確保された行政法上の3条委員会になっている。政策の修正を求めるにしても、「独立性を尊重しつつ、立法府が手の届く範囲で、問題の解決を考えたい」という。
同議連は規制委、また菅義偉官房長官、茂木敏充経産大臣など、行政府の関係閣僚に、原発の安全審査迅速化、規制委と原子力事業者の対話の促進、また政府による国民との対話拡充による懸念払拭などの政策を申し入れている。
さらに議連内の議論として、次のような意見があるという。現在定員5人の委員の増員、規制庁の職員の増員、さらに原子炉に精通した人によるピア・レビュー(専門家による審査)の導入などだ。各電力会社、また原発メーカーからOBを中心に人を採用し、関係の少ない会社の原発を審査させる構想だ。「規制に納得感があれば、それを守り、安全性は高まる」と細田氏は述べた。
また福島原発事故の国会の事故調査委員会は、国会による規制委員会の監視機関の設置を提言している。「機関の設置を主張する議員もいる。国会による行政チェックの機能を駆使して、審査を合理的に、そして透明にすることは考えなければならない」という。
そして細田議員は次のように強調した。「個人的な意見だが、原発再稼働の迅速化は電力料金を抑え、アベノミクスを強く支える。また原子力技術は日本が優位性を持つ。世界のエネルギー需要が増える中で、それを活用することは強みになる」。
原子力について、政治の世界では、かつてのような推進ではなく、また福島原発事故直後の反対一辺倒ではない別の考えを主張する人が増えている。細田議員のように、地に足の着いた冷静なエネルギーの議論を行い、原子力については国民の批判を受け止めた上で活用するという考えだ。それは反対が強かった世論の変化も、反映しているのだろう。
原発とエネルギーをめぐる議論の潮目は変わりつつあるのかもしれない。
(取材・編集 石井孝明 アゴラ研究所フェロー)
(2014年8月18日掲載)

関連記事
-
今年9月に避難指示の解除になった福島県・楢葉町民は、4年5カ月の避難生活で失った“日常”を取り戻せるのか。政府は、20回に渡る住民懇談会や個別訪問を通じて町民の不安に耳を傾け、帰還を躊躇させる障害を取り除くべく対策を講じてきた。国の支援策の主眼とは何か。高木陽介・経済産業副大臣(原子力災害現地対策本部長)に聞いた。
-
昨年10月のアゴラ記事で、2024年6月11日に米下院司法委員会が公表した気候カルテルに関する調査報告書のサマリーを紹介しました。 米下院司法委が大手金融機関と左翼活動家の気候カルテルを暴く サマリーでは具体性がなくES
-
経営再建中の東芝は、イギリスで計画中の原子力発電所の受注を目指して、3年前に買収したイギリスの企業をめぐり、共同で出資しているフランスの企業が保有する、すべての株式を事前の取り決めに基づいて買い取ると発表し、現在、目指している海外の原子力事業からの撤退に影響を与えそうです。
-
1986年4月26日に発生したチェルノブイリ原子力発電所原子炉の事故は、原子力発電産業においてこれまで起きた中でもっとも深刻な事故であった。原子炉は事故により破壊され、大気中に相当量の放射性物質が放出された。事故によって数週間のうちに、30名の作業員が死亡し、100人以上が放射線傷害による被害を受けた。事故を受けて当時のソ連政府は、1986年に原子炉近辺地域に住むおよそ11万5000人を、1986年以降にはベラルーシ、ロシア連邦、ウクライナの国民およそ22万人を避難させ、その後に移住させた。この事故は、人々の生活に深刻な社会的心理的混乱を与え、当該地域全体に非常に大きな経済的損失を与えた事故であった。上にあげた3カ国の広い範囲が放射性物質により汚染され、チェルノブイリから放出された放射性核種は北半球全ての国で観測された。
-
東京都、中小の脱炭素で排出枠購入支援 取引しやすく 東京都が中小企業の脱炭素化支援を強化する。削減努力を超える温暖化ガスをカーボンクレジット(排出枠)購入により相殺できるように、3月にも中小企業が使いやすい取引システムを
-
先日、「国際貿易投資ガバナンスの今後」と題するラウンドテーブルに出席する機会があった。出席者の中には元欧州委員会貿易担当委員や、元USTR代表、WTO事務局次長、ジュネーブのWTO担当大使、マルチ貿易交渉関連のシンクタンク等が含まれ、WTOドーハラウンド関係者、いわば「通商交渉部族」が大半である。
-
今年5月9-13日、4年に一度開催される放射線防護学の国際会議IRPA(国際放射線防護学会:International Radiation Protection Association)が南アフリカ共和国で開催された。IRPA14ケープタウン会議である。私は福島軽水炉事象の20km圏内の低線量の現実を報告するために、片道30時間をかけて現地へ向かった。福島は国際核事象尺度INESでレベル6であると評価引き下げを提案した私の報告は議長をはじめ参加した専門家たちの賛同を得た。
-
5月公表。本日公開記事の関連。遺伝子組み換え作物についての現状をまとめ整理している。
動画
アクセスランキング
- 24時間
- 週間
- 月間