適合性審査は初回安全審査より3割長くかかった

2018年08月15日 11:30
アバター画像
NPO法人パブリック・アウトリーチ・上席研究員 元東京大学特任教授

はじめに

原子力規制委員会は2013年7月8日に新規制基準を施行し“適合性審査”を実施している。これに合格しないと再稼働を認めないと言っているので、即日、4社の電力会社の10基の原発が申請した。これまでに4社14基の原発が合格し、その内9基が再稼働している。現在、7社12基の原発が審査中で、6社12基の原発が申請準備中である。

原子力規制委員会の田中前委員長は就任前の記者会見でこの適合性審査を半年でパスさせると言っていた。しかし、実績をみると最長4.3年、平均2.5年を要している。言行不一致も甚だしい。では、事故前の規制体制での設置許可手続きはどれだけ時間がかかっていたのか、また、適合性審査では何を審査しているのかを調べた。

全60基の原子炉の初回安全審査の平均期間は1.42年

適合性審査は通称“安全審査”とよばれ、正式名は設置許可手続きである。事業者の基本的な安全対策をチェックする、最重要手続きである。昔は行政庁だけが審査していたが、原子力船“むつ”の放射線漏れを見抜けなかったことから1968年10月1日より原子力安全委員会(NSC)と行政庁が重ねて審査することになった。これがダブルチェックである。

表1に全60基の原発が安全審査に要した年数をフェーズ別の平均値で示した全60基平均は1.42年である。適合性審査に合格済の14基、適合性審査中の12基、適合性審査を申請準備中の12基と廃炉になる22基である。廃炉される22基の初回安全審査は実施時期が早くてまだNRCが発足していなかったため、安全審査期間が全体平均の約半分の0.74年になっている点が興味深い。ダブルチェックになってからは1.7~1.8年要している。

原子力規制委員会発足でどれだけスピードアップしたか?

事故後の体制改革のひとつの目玉はダブルチェックの廃止である。前項で述べたダブルチェックが廃止されて原子力規制委員会に1本化された。これによってスピードアップを図ると同時に少なくなってきた専門家を審査機関による奪い合いを失くそうと言うものだ。

表2に合格済14基の初回安全審査と今回の適合性審査の期間を並べて示すが、初回安全審査平均期間1.9年が2.5年に約3割長くなっている。“専門家の奪い合い”は改善されたが、安全審査の審査期間は逆に3割長くなっている。スピードアップどころか、スピードダウンしているのである。「半年で審査する」との前委員長の見通しが非常識だったと言えよう。

適合性審査では強化した安全対策と事故時の影響緩和対策を審査

適合性審査では強化された第3層の強化された安全対策と、これまで事業者の自主的対策にされていた第4層の事故時影響緩和対策が審査されている。第1層から第3層までの安全対策は基本的に審査対象とされていない。また、原子力防災会議が推進している第5層の原子力防災対策も審査対象とされていない。これらを図に示すと図1のとおりとなる。

This page as PDF
アバター画像
NPO法人パブリック・アウトリーチ・上席研究員 元東京大学特任教授

関連記事

  • NHK
    経営再建中の東芝は、イギリスで計画中の原子力発電所の受注を目指して、3年前に買収したイギリスの企業をめぐり、共同で出資しているフランスの企業が保有する、すべての株式を事前の取り決めに基づいて買い取ると発表し、現在、目指している海外の原子力事業からの撤退に影響を与えそうです。
  • メディアでは、未だにトヨタがEV化に遅れていると報道されている。一方、エポックタイムズなどの海外のニュース・メディアには、トヨタの株主の声が報じられたり、米国EPAのEV化目標を批判するトヨタの頑張りが報じられたりしてい
  • 去る4月16日に日本経済団体連合会、いわゆる経団連から「日本を支える電力システムを再構築する」と題する提言が発表された。 本稿では同提言の内容を簡単に紹介しつつ、「再エネ業界としてこの提言をどう受け止めるべきか」というこ
  • 石井吉徳
    石井吉徳東大名誉教授のブログ。メタンハドレートの資源化調査をかつて行った石井氏の評価です。「質」が悪い」「利権を生みかねない」と指摘している。一つの見方として紹介。
  • いつか来た道 自民党総裁選も中盤を過ぎた。しかしなかなか盛り上がらない。 5人の候補者が口を揃えて〝解党的出直し〟といっているが、その訴えが全く響いてこない。訴求力ゼロ。 理由は明確だ。そもそもこの〝解党的〟という言葉だ
  • 私は原子力発電の運用と安全の研究に、およそ半世紀関わってきた一工学者です。2011年3月の東京電力福島第一原発事故には、大変な衝撃を受け、悲しみを抱きました。自分は何ができなかったのか、自問と自省を続けています。
  • 東京電力に寄せられたスマートメーターの仕様に関する意見がウェブ上でオープンにされている。また、この話題については、ネット上でもITに明るい有識者を中心に様々な指摘・批判がやり取りされている。そのような中の一つに、現在予定されている、電気料金決済に必要な30分ごとの電力消費量の計測だけでは、機能として不十分であり、もっと粒度の高い(例えば5分ごと)計測が必要だという批判があった。電力関係者とIT関係者の視点や動機の違いが、最も端的に現れているのが、この点だ。今回はこれについて少し考察してみたい。
  • 「再エネ100%の日」って何だ? 2025年5月21日付の日本経済新聞に、「東北地方、再エネ発電量急増で出力制御が頻発 電力需要の伸び低く」という記事が掲載されていました。記事の要旨は、「燃料費ゼロの太陽光発電が捨てられ

アクセスランキング

  • 24時間
  • 週間
  • 月間

過去の記事

ページの先頭に戻る↑