日本の電源の化石燃料電源比率は世界一だ
はじめに
12月15日閉幕したCOP24では2020年に始動する「パリ協定」の実施指針(ルールブック)が採択された。
我が国はCO2排出量削減には比較的冷淡だ。例えば、燃料の異なる発電所を比較検討した最新のデータ、2015年4月の経済産業省「長期エネルギー需給見通し小委員会に対する発電コスト等の検証に関する報告」ではCO2排出量は算出されず、CO2対策費用のみ算出している。本稿では2015年の各国の燃料別発電量とともに電源別のCO2排出量を算出した。簡素化のため、石炭、石油、LNGを化石電源として纏め、それ以外の水力、原子力、再エネ等を非化石電源とした。これで各国の電源は2つになる。その集計結果を図1に示す。意外にも日本の化石電源比率83%は世界一高い。2位はインドの82%、3位は中国の73%、米国は5位で67%、ロシアは6位で66%だ。2015年にはまだ川内1,2号機しか再稼働の許可が得られていなかったせいもあるが、原子力の発電比率は0.9%にとどまっていたことが原因だ。
それにしても化石燃料比率が世界一とは不名誉な記録だ。非化石電源比率を増やし、一刻も早く不名誉な記録を払拭すべきだろう。
2015年の世界各国のCO2排出量
2015年の各国の発電量を化石電源と非化石電源に分け、その比率を化石燃料比率の高い順に並べたものを図1に示す。概要に述べた通り、我が国の83%がトップだ[注1]。IEAの試算に拠れば、米国、インド、中国の石炭火力を効率の良い日本の石炭火力にリプレースすれば、2015年の日本の総CO2排出量13億トンに匹敵する約12億トンものCO2排出が削減される。しかし、そのための発電所の建設費は3ヵ国合計で約236兆円もの巨額に上る[注2]。実現困難な試算である。世界全体で約329億トンとされるCO2をどう削減するかはもっと現実的な対策を考えるべきだろう。
主要国のCO2排出量半減にいくらかかるか?
どの国も同じだが、CO2排出量は化石燃料電源のCO2排出を算出するだけで良い。化石電源の平均CO2排出量は非化石電源の約30倍も多いからである。また、全世界の発電量の約半分は中国、米国、インド3ヵ国が占めているから、この3ヵ国について調べれば凡そのことは解る。2015年の発電量上位5ヵ国の電源別発電量を図2に示す。この内訳の化石電源発電量に各電源の標準的CO2排出量を乗ずれば各国の凡そのCO2排出量が判る。中国は約30億トン、米国17億トン、インド8億トンとなる。排出量を半減するには少なくともこれらの発電所の半数を非化石発電にリプレースしなければならない。ここでは2015年のエネ庁試算で非化石発電の中で建設費が最も安かった原発の建設コスト120万kW・建設費4444億円を用いる。発電量74億kWhごとに原発1基を建設するという試算である。その試算結果は、中国24兆円、米国17兆円、インド7兆円である。この3ヵ国の電源からのCO2排出を半減するだけでも48兆円もかかるのである。
廃炉予定の23基の運転期間はどれだけあったのか?
現在の世界の廃炉数を図3に示す。図3では日本の廃炉数は18基となっているが、その後、東電福島第二原子力発電所4基と伊方2号機の廃炉が決まったため現時点の日本の廃炉数は23基である。JPDRを除く22基の運開から現在までの経過年数はふげん25年、東海52年、浜岡1:42年、浜岡2:40年、福島第一(1:47年、2:44年、3:42年、4:40年,5:40年,6:39年)、福島第二(1:36年、2:34年、3:33年、31年)、敦賀1:48年、美浜(1:48年,2:46年)、島根1:44年、玄海1:43年、伊方(1:41年、2:36年、もんじゅ23年だから、平均37年である。
これら23基は一刻も早く廃炉して、安全性が高くCO2排出量の少ない原発にリプレースすることを目指してほしい。
[注1] 海外電力調査会HP;日本の2015年度の発電内訳石油9.9%、石炭33.2%、LNG39.6%。
[注2] 標準的石炭火力発電所は80万kW,建設費約2,000億円。建設費は米国52兆円、中国147兆円、インド37兆円、合計236兆円;総合資源エネルギー調査会発電コスト検証ワーキンググループ(第6回会合)資料2「各電源の諸元一覧(案)」,2015.4.27
関連記事
-
崩壊しているのはサンゴでは無く温暖化の御用科学だ グレートバリアリーフには何ら問題は見られない。地球温暖化によってサンゴ礁が失われるという「御用科学」は腐っている(rotten)――オーストラリアで長年にわたりサンゴ礁を
-
福島原発の事故により、事故直前(2010年度)に、国内電力供給の25% を占めていた原発電力の殆どが一時的に供給を停止している。現在、安全性の確認後の原発がどの程度、再稼動を許可されるかは不明であるが、現状の日本経済の窮状を考えるとき、いままで、国民の生活と産業を支えてきた原発電力の代替として輸入される化石燃料は、できるだけ安価なものが選ばれなければならない。
-
提携する国際環境経済研究所(IEEI)の竹内純子さんが、温暖化防止策の枠組みを決めるCOP19(気候変動枠組条約第19回会議、ワルシャワ、11月11?23日)に参加しました。その報告の一部を紹介します。
-
アゴラ研究所の運営するネット放送「言論アリーナ」を公開しました。 今回のテーマは「エネルギー産業のイノベーション」です。 再エネや電気自動車などの分散型技術が急速に進歩する中、未来のエネルギー産業はどうなるのでしょうか
-
グレートバリアリーフのサンゴ被覆面積が増えつつあることは以前書いたが、最新のデータでは、更にサンゴの被覆は拡大して観測史上最大を更新した(報告書、紹介記事): 観測方法については野北教授の分かり易い説明がある。 「この素
-
商品先物市場を運営する東京商品取引所(TOCOM)の社長に浜田隆道氏が就任した。経済産業省出身で同社専務から昇格した。「総合エネルギー市場」としての発展を目指すという。抱負を聞いた。
-
過去の気温上昇について、気候モデルは観測に比べて過大評価していることは何回か以前に書いた(例えば拙著をご覧頂きたい)。 今回は、じつは海水温も、気候モデルでは熱くなりすぎていることを紹介する。 海水温は、気候システムに余
-
「科学は必要な協力の感情、我々の努力、我々の同時代の人々の努力、更に我々の祖先と我々の子孫との努力の連帯性の感情を我々に与える」 (太字筆者。ポアンカレ、1914=1939:217、ただし現代仮名遣いに筆者が変更した)
動画
アクセスランキング
- 24時間
- 週間
- 月間