地球温暖化で豪雨は1ミリ増えたか?

(写真AC:編集部)
前回、環境白書の示すデータでは、豪雨が増えているとは言えない、述べたところ、いくつかコメントがあり、データや論文も寄せられた(心より感謝します)。
その中で、「気温が上昇するほど飽和水蒸気量が増加し、そのために降水量が増える」という関係(クラウジウス・クラペイロン関係)があるので、地球温暖化で豪雨は増えるはず、という意見があった。
そう、理論的にはありうる。だが現実はどうかというと、地球温暖化の影響は、あったとしてもごく僅かである。なお以下は結論だけ述べるが、詳細については幾つかの論文を検討した研究ノートを公開しているので参考にされたい。
結論1. 短時間の豪雨については、原因の殆どは自然変動であるが、地球温暖化の寄与がごく一部ある
1時間降水量の年最大値についてはクラウジウス・クラペイロン関係が成立していることが、統計的に確認されている。
ただしその量は僅かである。クラウジウス・クラペイロン関係では1℃の気温上昇で6%の降水量増大になることが知られている。日本における地球温暖化による気温上昇が過去30年間で0.2℃程度だとすると、0.2×6倍で1.2%の降水量増大となる。
つまり、1時間に100mmの豪雨であれば、それが101.2mmになった、ということだ。
確かに地球温暖化の寄与はあるが、僅か1ミリしかない。
もしも今40歳の大人が10歳の子供だった30年前に地球温暖化が止まっていたら、1ミリばかり雨量が少なくて済む、というだけのことだ。
なお、産業革命の前、つまり日本の江戸時代と比べればもっと増えたという報道があるが、「近年の地球温暖化の影響で」豪雨がどうなったかと言いたいなら、人間の一生に関係ある時間軸で話すべきであろう。
さて、上述の短時間の豪雨は、いわゆる「都市型ゲリラ豪雨」をもたらすような雨に相当する。
では、大規模水害をもたらすような、日降水量の多いまとまった豪雨についてはどうか。
結論2. 日降水量の多いまとまった豪雨については、原因は自然変動であり、地球温暖化の寄与は認められない。
「日降水量が100mm以上」いったまとまった雨についての統計分析では、増加傾向も無ければ、クラウジウス・クラペイロン関係も見出されていない。
だがもしもこの既往の分析が誤りで、クラウジウス・クラペイロン関係が成立するとなればどうか。先ほどと同様、30年間で0.2℃の地球温暖化があったとすると、6倍して1.2%の降水量増大となる。500mmの雨であれば506mmになるということである。仮にクラウジウス・クラペイロン関係が成立していても、たいした量ではない。
では、なぜ、クラウジウス・クラペイロン関係は1時間雨量だと成立するのに、1日雨量だと成立しないのか。この理由は、1日雨量は、梅雨前線や台風の活動、高気圧・低気圧の張り出しといった、いわゆる「総観気象」に支配されるからだと考えられている。この年々の変動は大きく、仮にクラウジウス・クラペイロン関係があったとしても、誤差のうちに埋もれてしまう。
例えば、西日本と沖縄県では、暑い年の方がむしろ豪雨が少ない。つまりクラウジウス・クラペイロン関係とは逆であることが統計的に観察された。これは、暑い夏は、太平洋高気圧が張り出していて、雨が降らないことに対応している。
さて寄せられたコメントの中には「地球温暖化は豪雨の一因である」「豪雨には地球温暖化の影響がある」という表現が正確だと言う指摘があった。だが、1ミリとか1%しかないものをこう表現するのは適切だろうか?
このような表現をしたことで、意図したことかどうかは知らないが、「地球温暖化が豪雨の原因だ」「豪雨は地球温暖化のせいだ」という報道があふれかえる結果を招いているのではないか。
今後は、政府資料もメディアも、これまでの観測に基づくと、「豪雨は温暖化のせいではない」とはっきり言うべきだろう。もしもどうしても「一部」と言いたいのなら、「温暖化は豪雨の原因のごく一部に過ぎない」とすべきだろう。
なお本稿に関連した更に詳しい議論については、筆者によるワーキングペーパーを参照されたい。
関連記事
-
シナリオプランニングは主に企業の経営戦略検討のための手法で、シェルのシナリオチームが“本家筋”だ。筆者は1991年から95年までここで働き、その後もこのチームとの仕事が続いた。 筆者は気候変動問題には浅学だが、シナリオプ
-
去る4月16日に日本経済団体連合会、いわゆる経団連から「日本を支える電力システムを再構築する」と題する提言が発表された。 本稿では同提言の内容を簡単に紹介しつつ、「再エネ業界としてこの提言をどう受け止めるべきか」というこ
-
英国のリシ・スナク首相が英国の脱炭素政策(ネットゼロという)には誤りがあったので方針を転換すると演説して反響を呼んでいる。 日本国内の報道では、ガソリン自動車・ディーゼル車などの内燃機関自動車の販売禁止期限を2030年か
-
「脱炭素社会の未来像 カギを握る”水素エネルギー”」と題されたシンポジウムが開かれた。この様子をNHKが放送したので、議論の様子の概略をつかむことができた。実際は2時間以上開かれたようだが、放送で
-
グレタ・トゥーンベリの演説を聞いた人は人類の絶滅が迫っていると思うかもしれないが、幸いなことにそうではない。25日発表されたIPCCの海洋・雪氷圏特別報告書(SROCC)では、従来の気温上昇予測(第5次評価報告書)にもと
-
ペロブスカイト太陽電池は「軽くて曲がる太陽光パネル」として脚光を浴びてきた。技術開発は進んでおり、研究室レベルではセルの変換効率は26.7%に達したと報告された。シリコン型太陽電池と層を重ねたタンデム型では28.6%にも
-
「世界はカーボンニュートラルへ一丸となって歩み始めた」「米国トランプ政権がパリ協定を離脱しても、世界の脱炭素の流れは変わらない」——といった掛け声をよく聞く。そして日本では脱炭素のためとしてグリーントランスフォーメーショ
-
スワッ!事故か!? 昨日1月30日午後、関西電力の高浜原子力発電所4号機で原子炉が自動停止したと報道された。 関西電力 高浜原発4号機が自動停止 原因を調査 「原子炉内の核分裂の状態を示す中性子の量が急激に減少したという
動画
アクセスランキング
- 24時間
- 週間
- 月間
















