都市熱のお蔭で東京の最低気温は100年で7度も上昇した

2020年11月11日 10:00
アバター画像
キヤノングローバル戦略研究所研究主幹

今年も冷え込むようになってきた。

けれども昔に比べると、冬はすっかり過ごしやすくなっている。都市熱のおかげだ。

下図は、東京での年最低気温の変化である。青の実線は長期的傾向、 青の破線は数十年に1回の頻度で発生する極低温の出現傾向である。

東京における年最低気温の変化(出典:近藤純正ホームページ)

東京における年最低気温の変化(出典:近藤純正ホームページ

昔はマイナス7~8℃、ときにはマイナス9℃ということもあったようだが、近年ではせいぜいマイナス2℃程度になった。

じつに、5℃から7℃ほど、東京の年最低気温は上昇した。

これは都市熱によるものだ。

このことは、東京から離れた地点での気温と見比べるとわかる。伊豆半島先端の石廊崎では、1℃程度しか気温は上昇していない。これは地球温暖化による日本全体の気温上昇に対応する。

石廊崎における年最低気温の変化(出典:近藤純正ホームページ)

石廊崎における年最低気温の変化(出典:近藤純正ホームページ

都市熱というと、とかく悪者扱いされる。けれども冬の冷え込みが和らぐことは、健康には随分良いはずだ。

そして寿命も延びると思われる。というのは、既に書いたように、超過死亡のデータを見ると、冬の方が夏よりも断然死亡数が多いからだ。

地球温暖化も少しばかり長寿に貢献していそうだけれども、都市熱の効能(?)に比べると陰が薄そうだ。

かつて「疾病と地域・季節」という本で、籾山政子先生は「日本人は冬季に死亡が多いので、都市全体を暖房すると良い」という主旨のことを書いておられた。1971年のことである。

それから50年、日本人は、意図することなく、都市全体の暖房を実現してしまった!

それに、考えてみると、アーケード、地下街、公共交通や自動車などで、吹きさらしの戸外に出る機会すらだいぶ無くなっている。

かつて東京でマイナス9℃の寒さに震えていたというのは今となっては信じがたい。暖かくなって本当に有り難いと思う。

This page as PDF
アバター画像
キヤノングローバル戦略研究所研究主幹

関連記事

  • 「もしトランプ」が大統領になったら、エネルギー環境政策がどうなるか、これははっきりしている。トランプ大統領のホームページに動画が公開されている。全47本のうち3本がエネルギー環境に関することだから、トランプ政権はこの問題
  • 原子力基本法が6月20日、国会で改正された。そこに「我が国の安全保障に資する」と目的が追加された。21日の記者会見で、藤村修官房長官は「原子力の軍事目的の利用意図はない」と明言した。これについて2つの新聞の異なる立場の論説がある。 産経新聞は「原子力基本法 「安全保障」明記は当然だ」、毎日新聞は「原子力基本法 「安全保障目的」は不要」。両論を参照して判断いただきたい。
  • アゴラ研究所では、NHNジャパン、ニコニコ生放送を運営するドワンゴとともに第一線の専門家、政策担当者を集めてシンポジウム「エネルギー政策・新政権への提言」を2日間かけて行います。
  • 米国が最近のシェールガス、シェールオイルの生産ブームによって将来エネルギー(石油・ガス)の輸入国でなくなり、これまで国の目標であるエネルギー独立(Energy Independence)が達成できるという報道がなされ、多くの人々がそれを信じている。本当に生産は増え続けるのであろうか?
  • 明るいニュースは米国から:大学に新設されるマイクロリアクター 最近届いた明るいニュースでは、米国の大学構内に研究用のマイクロ原子炉が新設されるという。 今年4月2日に、米国のナノ・ニュークリア・エナジー(NANO Nuc
  • 丸川珠代環境相は、除染の基準が「年間1ミリシーベルト以下」となっている点について、「何の科学的根拠もなく時の環境相(=民主党の細野豪志氏)が決めた」と発言したことを批判され、撤回と謝罪をしました。しかし、この発言は大きく間違っていません。除染をめぐるタブーの存在は危険です。
  • 今週はロスアトムによるトリチウム除去技術の寄稿、南シナ海問題、メタンハイドレート開発の現状を取り上げています。
  • IPCCの報告がこの8月に出た。これは第1部会報告と呼ばれるもので、地球温暖化の科学的知見についてまとめたものだ。何度かに分けて、気になった論点をまとめてゆこう。 前回に続き、以前書いた「IPCC報告の論点③:熱すぎるモ

アクセスランキング

  • 24時間
  • 週間
  • 月間

過去の記事

ページの先頭に戻る↑