小泉進次郎氏の知らない「カーボンニュートラル」

政府ネットTVより
小泉進次郎環境相が「プラスチックが石油からできていることが意外に知られていない」と話したことが話題になっているが、そのラジオの録音を聞いて驚いた。彼はレジ袋に続いてスプーンやストローを有料化する理由について、こう話しているのだ(Share News Japan)。
なんでじゃあこのプラスチックを、使い捨てを減らそうと思ってるかというと、プラスチックの原料って石油なんですよ! 意外にこれ知られてないんですけど、石油の色もにおいもないじゃないですか。
だからわからないと思うんですけど、石油って化石燃料で、この化石燃料、石炭・石油・天然ガス、これに依存して人間の経済社会活動が営まれる時代を変えよう!というのが、カーボンニュートラルであり、このプラスチックをもし使うのであれば、リサイクルが前提となる、ゴミが出ないサーキュラーエコノミーなんですよね。大量生産・大量消費・大量廃棄からの脱却はまさにそういうことですね。
小泉氏は「カーボンニュートラル」の意味を取り違えている。これはカーボン(炭素)の消費をゼロにするという意味ではない。そんなことは不可能だ。炭素は地球上に大量に存在する元素であり、プラスチックは生活必需品である。
カーボンニュートラルは、大気中へのCO2の排出量と吸収量がプラスマイナスゼロの状態であり、厳密にいうとcarbon dioxide neutralと呼ぶのが正しい。それを減らすのは地球温暖化の原因と考えられているからで、カーボンに害はない。
「プラスチックは分解しない」という錯覚
プラスチックごみは、地球温暖化とは無関係な廃棄物の問題である。「プラスチックは分解しないから捨ててはいけない」と思っている人が多いが、プラスチックの原料は石油だから燃やせばCO2と水に分解する。プラスチックが海で分解しないのは、不法投棄するからだ。バイオプラスチック(生分解性プラスチック)も、ごみになるのは同じである。
だから環境省の進めているレジ袋の有料化やスプーンなどの削減は無意味である。プラごみはすべて生ごみと一緒に燃やせばいいのだ。それはよく燃えるので高温になり、昔はごみ焼却炉がいたむので分別したが、今では日本の焼却炉は800℃以上の熱に耐えるので、分別する必要はない。プラスチックをゴミ焼却炉の助燃剤に使っている自治体もある。
日本のプラスチックごみの半分以上は、燃やしてサーマルリサイクルで熱回収されており、それがもっとも効率的である。プラスチックごみを分別する必要はなく、減らす必要もない。プラごみを燃やすとCO2が出るが、洗浄して加工して再利用するには大きなエネルギー(CO2排出)が必要で、資源の浪費だ。
要するに、地球温暖化とプラスチックごみは、化石燃料でつながっているようにみえるが別の問題なのだ。これをごちゃごちゃにして「大量生産・大量消費・大量廃棄をやめよう」という話もよくあるが、全部燃えるプラスチックは「サーキュラーエコノミー」にふさわしい。
たぶん小泉氏は閣僚になるまでプラスチックが石油からできることを知らず、今でもプラスチックが燃えることを知らないのではないか。ペットボトルを「燃えないごみ」として分別する世代では、それはありがちな勘違いだ。
しかし深刻なのは、これが政府の環境政策の最高責任者の言葉だということである。環境相が政府の最大の課題であるカーボンニュートラルを海洋ごみの問題と混同するようでは、日本の未来は暗い。
こういう問題も、4月2日からのアゴラ経済塾「資本主義は脱炭素化できるか」で考えたい。

関連記事
-
「福島の原発事故で放射能以上に恐ろしかったのは避難そのもので、精神的ストレスが健康被害をもたらしている」。カナダ経済紙のフィナンシャルポスト(FP)が、このような主張のコラムを9月22日に掲載した。この記事では、放射能の影響による死者は考えられないが、今後深刻なストレスで数千人の避難住民が健康被害で死亡することへの懸念を示している。
-
近年における科学・技術の急速な進歩は、人類の発展に大きな寄与をもたらした一方、その危険性をも露わにした。典型的な例は、原子核物理学の進歩から生じた核兵器であり、人間の頭脳の代わりと期待されたコンピュータの発展は、AI兵器
-
今後数年以内に日本が自国で使える以上のプルトニウムを生産することになるという、重大なリスクが存在する。事実が蓄積することによって、世界の核物質管理について、問題になる先例を作り、地域の緊張を高め、結果の蓄積は、有害な先例を設定し、地域の緊張を悪化させると、核テロの可能性を高めることになるだろう。
-
原子力問題は、安倍政権が残した最大の宿題である。きのう(9月8日)のシンポジウムは、この厄介な問題に新政権がどう取り組むかを考える上で、いろいろな材料を提供できたと思う。ただ動画では質疑応答を割愛したので、質疑のポイント
-
筆者は現役を退いた研究者で昭和19年生まれの現在68歳です。退職後に東工大発ベンチャー第55号となるベンチャー企業のNuSACを立ち上げました。原子力技術の調査を行い、現在は福島県での除染技術の提案をしています。老研究者の一人というところでしょうか。
-
「もしトランプ」が大統領になったら、エネルギー環境政策がどうなるか、これははっきりしている。トランプ大統領のホームページに動画が公開されている。全47本のうち3本がエネルギー環境に関することだから、トランプ政権はこの問題
-
(前回:温室効果ガス排出量の目標達成は困難④) 田中 雄三 発展途上国での風力・太陽光の導入 発展途上国での電力需要の増加 季節変動と予測が難しい短期変動がある風力や太陽光発電(VRE)に全面的に依存するには、出力変動対
-
菅首相の16日の訪米における主要議題は中国の人権・領土問題になり、日本は厳しい対応を迫られると見られる。バイデン政権はCO2も重視しているが、前回述べた様に、数値目標の空約束はすべきでない。それよりも、日米は共有すべき重
動画
アクセスランキング
- 24時間
- 週間
- 月間