日本の撤退で中国が独占する石炭火力の世界市場

2021年06月05日 07:00
アバター画像
キヤノングローバル戦略研究所研究主幹

石炭火力発電はCO2排出量が多いとしてバッシングを受けている。日本の海外での石炭火力事業もその標的にされている。

磯子火力発電所  J-POWERグループHPより

だが日本が撤退すると何が起きるのだろうか。

2013年以来、中国は一帯一路構想の下、海外において2680万キロワットの石炭火力発電所を建設するために、5兆円以上のファイナンスをしてきた。だがこれはほんの序曲に過ぎなかった。

2019年8月になると、中国を除く世界全体の石炭火力発電所建設のうち、72%が中国によってファイナンスされる状態になった(出典:QUARTZ

 

いま、日本、韓国、そしてアジア開発銀行の国際機関などが、石炭火力発電事業から撤退するよう、環境団体から圧力を受けている。だが、もしこれらがすべて撤退してしまえば、今後は中国が世界市場をほぼ完全に独占することになる。

現在、ユーラシア、南アメリカ、アフリカにおける60の新規の石炭火力発電事業において、ほぼ全額が中国の銀行によって資金提供されている。

以下の図はそのマップであり、青は建設中、黒は反対運動に直面中、黄は建設許可待ちである(出典:QUARTZ)。一帯一路の輪郭がダブって見えてくる。

 

これらの石炭火力の合計は 7000万キロワット。日本の全ての石炭火力の合計4800万キロワットよりもはるかに多い。

「一帯一路」構想の下、中国は石炭火力発電をはじめとした化石燃料の採掘・利用技術で約150カ国を支援している。

これは開発途上国が切望していることだ。中国はそれを与えることが出来ている。
日本は、石炭事業から撤退するならば、単に事業機会を逃すばかりでなく、開発途上国を中国側に追いやって一帯一路を手助けしてしまうのだ。こんな愚かなことがあるだろうか。

地球温暖化のファクトフルネス

This page as PDF
アバター画像
キヤノングローバル戦略研究所研究主幹

関連記事

  • G7貿易相会合が開かれて、サプライチェーンから強制労働を排除する声明が発表された。名指しはしていないが、中国のウイグル新疆自治区における強制労働などを念頭に置いたものだとメディアは報じている。 ところで、これらの国内の報
  • 日本では原発の再稼動が遅れているために、夏の電力不足の懸念が広がっています。菅直人前首相が、政治主導でストレステストと呼ばれるコンピュータシュミレーションを稼動の条件としました。それに加えて全国の原発立地県の知事が、地方自治体の主張が難色を示していることが影響しています。
  • シナリオプランニングは主に企業の経営戦略検討のための手法で、シェルのシナリオチームが“本家筋”だ。筆者は1991年から95年までここで働き、その後もこのチームとの仕事が続いた。 筆者は気候変動問題には浅学だが、シナリオプ
  • 厚生労働省は原発事故後の食品中の放射性物質に係る基準値の設定案を定め、現在意見公募中である。原発事故後に定めたセシウム(134と137の合計値)の暫定基準値は500Bq/kgであった。これを生涯内部被曝線量を100mSv以下にすることを目的として、それぞれ食品により100Bq/kgあるいはそれ以下に下げるという基準を厳格にした案である。私は以下の理由で、これに反対する意見を提出した。
  • 6月1日、ドイツでは、たったの9ユーロ(1ユーロ130円換算で1200円弱)で、1ヶ月間、全国どこでも鉄道乗り放題という前代未聞のキャンペーンが始まった! 特急や急行以外の鉄道と、バス、市電、何でもOK。キャンペーンの期
  • 3月30日、世界中で購読されるエコノミスト誌が地球温暖化問題についての衝撃的な事実を報じた。
  • 2023年からなぜ急に地球の平均気温が上がったのか(図1)については、フンガトンガ火山噴火の影響など諸説ある。 Hunga Tonga volcano: impact on record warming だがこれに加えて
  • 四国電力の伊方原発2号機の廃炉が決まった。これは民主党政権の決めた「運転開始40年で廃炉にする」という(科学的根拠のない)ルールによるもので、新規制基準の施行後すでに6基の廃炉が決まった。残る原発は42基だが、今後10年

アクセスランキング

  • 24時間
  • 週間
  • 月間

過去の記事

ページの先頭に戻る↑