欧州の天然ガスを全部原子力に代えるとしたら
この原稿はロジャー・ピールケ・ジュニア記事の許可を得た筆者による邦訳です。
欧州の天然ガスを全て代替するには、どれだけの原子力が必要なのか。計算すると、規模は大きいけれども、実行は可能だと分かる。

Gregory_DUBUS/iStock
図は、原子力発電と天然ガスのエネルギー消費量(前者から後者を引いたもの、単位はエクサジュールEJ、データはBP社の2020年)である。*
このデータによると、ヨーロッパのほとんどの国は、原子力よりも天然ガスに大きく依存していることがわかる。ガス依存の年間バランスはドイツで最も大きく、今年最後の3基の原子力発電所が停止すると、更に約0.5EJ大きくなる。
さて仮に、ヨーロッパの天然ガスをすべて原子力エネルギーに置き換えるとどれくらいになるだろうか。
フランスを例にとると、250基以上の原子炉が必要だ。これは、発電所の設備容量や原子炉の数にもよるが、50〜150基程度の新しい原子力発電所が必要ということになる。
これは一見大きな数字に思える。しかし、これはフランスの現在の原子力発電能力の5倍にすぎない。かつてフランスは、これを僅か約15年で次々に建設した。前例があるということは実現可能なのだ。
これらの数字は、現在欧州が直面している地政学的な意義もさることながら、脱炭素社会達成の課題の大きさを物語っている。二酸化炭素のネットゼロを実現するには、天然ガスの排出もすべてゼロにする必要がある。だがそのためのまともな政策提案を、どの政府においてもまだ見たことがない。原子力は、この課題の少なくとも一部を満たすための明白な選択肢なのである。
*原子力発電量は、BP統計に従い、仮想的な効率40.40%で一次エネルギーに換算している。
■

関連記事
-
検証抜きの「仮定法」 ベストセラーになった斎藤幸平著『人新世の「資本論」』(以下、斎藤本)の特徴の一つに、随所に「仮定法」を連発する手法が指摘できる。私はこれを「勝手なイフ論」と命名した。 この場合、科学的な「仮説」と「
-
脇山町長が示していたあるサイン 5月10日、佐賀県玄海町の脇山伸太郎町長は、高レベル放射性廃棄物(いわゆる核のごみ)の処分に関する文献調査を受け入れると発表した。苦渋の決断だったという。 これに先立つこと議会の請願採択を
-
おそらくGEPR読者の方の多くは、福島第一原発事故による放射線被害はほぼ無いものと理解され、心配もしていないことだろう。しかしながら、社会の一部にまだ心配が残るようだ。事故からもう2年近くになる。さまざまな方が、不安を払拭するための努力を行っている。この原稿でもその試みを行いたい。
-
IPCCの報告がこの8月に出た。これは第1部会報告と呼ばれるもので、地球温暖化の科学的知見についてまとめたものだ。何度かに分けて、気になった論点をまとめてゆこう。 エルニーニョ現象、ラニーニャ現象は、世界の気象を大きく変
-
前回に続いて、環境影響(impact)を取り扱っている第2部会報告を読む。 米国のロジャー・ピールキー・ジュニアが「IPCCは非現実的なシナリオに基づいて政治的な勧告をしている」と指摘している。許可を得て翻訳したので、2
-
また大手炭素クレジット会社の社長が逮捕されました。 気候変動ウィークリー#539 -炭素詐欺の終焉は近いのか?- ハートランド研究所 今週初め、現存する最大のカーボンオフセット/クレジット取引の新興企業のひとつであるAs
-
実は、この事前承認条項は、旧日米原子力協定(1988年まで存続)にもあったものだ。そして、この条項のため、36年前の1977年夏、日米では「原子力戦争」と言われるほどの激しい外交交渉が行われたのである。
-
運転開始から40 年前後が経過している原子炉5基の廃炉が決まった。関西電力の美浜1、2号機、日本原子力発電の敦賀1号機、中国電力島根1号機、九州電力玄海1号機だ。これは40年を廃炉のめどとする国の原子力規制のルールを受けたものだ。ただしこの決定には問題がある。
動画
アクセスランキング
- 24時間
- 週間
- 月間