某国営放送、気候変動による死亡数が増大とフェイク

2022年05月23日 07:00
杉山 大志
キヤノングローバル戦略研究所研究主幹

英国国営放送(BBC)で内部監視の役目を受け持つEditorial Complaints Unit (ECU)は、地球温暖化に関するBBCのドキュメンタリー番組が、気候変動について誤った報道をしたと判定した。

VV Shots/iStock

番組「ワイルド・ウェザー」の中で、BBC気候エディターのジャスティン・ローワットは、「気候変動による異常気象のために、世界中で死亡者数が増加している」と述べた。だがECUは、これは誤りだとした。

ECUのホームページを見てみよう。まず念のため原文:

翻訳すると:

ECUの見解では、「死者数は世界中で増加しており、さらに悪化するという予測もある」という番組冒頭の表現は、異常気象による死者の割合が増加しているという印象を与える恐れがある。 実際には、世界気象機関(WMO)の最近の報告書にあるように、過去50年間に気象災害(洪水、嵐、干ばつなど)の数は大幅に増加したにもかかわらず、早期警報と災害管理の改善により、こうした災害による死亡者数は減少しています。

そう、災害による世界の死亡者数は激減している。例えばここで言及しているWMO報告に図を見てみよう:

図 災害による死亡者数
世界計、報告ベース(WMO報告より)

ちなみに、この判定文でECUは「気象災害の数は大幅に増大」と述べているが、以前書いたように、これは報告件数が増えたというだけであり、気象自体が激甚化したという証拠にはならない。その意味で、このECUの判定文自体も科学的に適切とはいえない。

なお、この番組が放送されたのは2021年11月初めで、英国グラスゴーで開催された国連気候会議COP26と同時期であった。明らかにCOP26に影響すべく作成された番組である。それが今頃になってフェイク認定されたが、もちろん、COP26はとうの昔に終わっている。

This page as PDF
杉山 大志
キヤノングローバル戦略研究所研究主幹

関連記事

  • 米国のロジャー・ピールキー(Roger Pielke Jr.)は何時も印象的な図を書くが、また最新情報を送ってくれた。 ドイツは脱原発を進めており、今年2022年にはすべて無くなる予定。 その一方で、ドイツは脱炭素、脱石
  • 太陽光発電業界は新たな曲がり角を迎えています。 そこで一つの節目として、2012年7月に固定価格買取制度が導入されて以降の4年半を簡単に振り返ってみたいと思います。
  • 東電の賠償・廃炉費用は21.5兆円にのぼり、経産省は崖っぷちに追い詰められた。世耕経産相は記者会見で「東電は債務超過ではない」と言ったが、来年3月までに債務の処理方法を決めないと、純資産2兆3000億円の東電は債務超過になる。
  • この原稿はロジャー・ピールケ・ジュニア記事の許可を得た筆者による邦訳です。 欧州の天然ガスを全て代替するには、どれだけの原子力が必要なのか。計算すると、規模は大きいけれども、実行は可能だと分かる。 図は、原子力発電と天然
  • 遺伝子組み換え(GM)作物に関する誤解は、なぜ、いつまでたっても、なくならないのか。1996年に米国で初めて栽培されて以来、「農薬の使用量の削減」などたくさんのメリットがすでに科学的な証拠としてそろっている。なのに、悪いイメージが依然として根強い背景には何か理由があるはずだ。
  • 【要旨】日本で7月から始まる再生可能エネルギー固定価格買取制度(FIT)の太陽光発電の買取価格の1kWh=42円は国際価格に比べて割高で、バブルを誘発する可能性がある。安価な中国製品が流入して産業振興にも役立たず、制度そのものが疑問。実施する場合でも、1・内外価格差を是正する買取価格まで頻繁な切り下げの実施、2・太陽光パネル価格と発電の価格データの蓄積、3・費用負担見直しの透明性向上という制度上の工夫でバブルを避ける必要がある。
  • 中国のCO2排出量は1国で先進国(米国、カナダ、日本、EU)の合計を追い越した。 分かり易い図があったので共有したい。 図1は、James Eagle氏作成の動画「China’s CO2 emissions
  • SDGs(Sustainable Development Goals、持続可能な開発目標)については、多くの日本企業から「うちのビジネスとどう関連するのか」「何から手を付ければよいのか」などといった感想が出ています。こう

アクセスランキング

  • 24時間
  • 週間
  • 月間

過去の記事

ページの先頭に戻る↑