『「気候変動・脱炭素」14のウソ』を読む①

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前稿まで、5回に渡りクーニンの「気候変動の真実 科学は何を語り、何を語っていないか?」を読み解いてきた。この本は今年3月に刊行された。
その後、今年7月末に「『気候変動・脱炭素』 14のウソ」という日本語の書が出版された。著者は渡辺正博士。すでに「『地球温暖化』狂騒曲ー社会を壊す空騒ぎ」などで著名な先生である。
クーニンの本は全372頁、税込み2420円の大冊であるのに対し、渡辺博士の本は全176頁、税込み1650円とお手軽で、文章も非常に読みやすい。
コンパクトにできた理由の一つは、図表をほぼ掲載せず、代わりにQRコードを読み取れば図表資料の原典を参照できるように工夫したことだろう。この種の書物には、正確な科学的データが不可欠だが、その種の図表はスペースをかなり取るのが通例だから。
全体は「気候変動」編と「脱炭素」編に分かれ、それぞれ7つの「ウソ」について解説されているが、その前に「これだけはホント 大気にCO2が増え続けている」があり、本書唯一の図と写真が載っている(1958年〜2022年4月の大気中CO2濃度変化図と、マウナロア山頂風景の写真)。
この章では、温室効果の基本的な説明の他、CO2を悪者扱いにする考えの浅はかさを指摘している。実際、すべての動物(や従属栄養生物)は、大気中CO2から有機物を合成する光合成等の「炭酸同化作用」のお陰で食べて行けるのであり、その原料であるCO2を悪者扱いするなど、トンデモナイ話なのである(天に唾するごとき愚かな行為)。
「生物と環境の調和でカギを握るのがCO2という物質です。CO2の濃度が十分だからこそ植物は栄え、ひいてはヒトを含めた生物界も豊かさを保つ(150 ppmを切れば植物は育たず、全生物は滅びる)」という本書の言葉を、よくよく嚙みしめるべきだろう。
さて「気候変動編」のウソは、以下の通りである。なお、ウソと【事実】が並記されている。
【ウソ1】地球の気温は近年、ものすごく上がってきた。
【事実】温暖化が話題になって約30年のうち、体感さえしにくい0.2〜0.3℃しか上がっていない。
ここでは、一見単純に思える「気温データ」が、実際にはかなり奥深いものであることが示されている。温暖化をめぐる議論に関して、誰もが共通認識として心得ておくべき事項と言える。気温データは、温暖化論議の最初の最重要項目であるにも拘わらず、世間には案外無関心な人が多いように思える。どこでどのように観測され、どのように処理された値であるかによって、同じ現実が違うように見えてしまうことが、気温に関しては良くあるので注意が必要である(次項とも関連)。
【ウソ2】IPCCの気温グラフは、現実をよく表している。
【事実】都市化は気温を上げやすい。IPCC報告書のグラフは、前章の「補正」が都市化バイアスを含むため、現実よりだいぶ大きい気温上昇を示す。
この章では、種々の「気温補正」に関する記述が秀逸。中でも、八丈島の気温データが3種類ありそれぞれ違っているという「八丈島ふしぎ発見」や東京の気温データに関する「東京都ふしぎ発見」が興味深い。
【ウソ3】近ごろ台風が凶暴化し、水害も増えてきた。
【事実】台風は80〜60年前のほうが強かった。乱開発やインフラの老朽化が主因と思える水害も多い。
台風の強さに関しては、筆者も何度か触れたことがある。気象庁HPにも載っている通り、過去日本に上陸した台風の強さトップ10には1950〜60年代が多く、最も最近は1993年であり、以後30年近くこれを上回る台風は上陸していない。発生数・接近数・上陸数を見ても、経年的な顕著な傾向は観察されない(ここのデータは、グラフで経時変化を見やすく示してくれる方が親切だと思う。改善を希望する)。
【ウソ4】人間がCO2を出すせいで、北極と南極の氷が減ってきた。
【事実】北極圏は、水温が自然変動の上昇期にあるため、海氷も減少傾向を示す。しかし南極圏の氷が減った気配はない。
海の表層水温がほぼ一定周期で変動することは、現在ではかなり広く知られているが、以前は常識ではなかった。今でもマスコミ等では海水温が上昇すると「温暖化のせい」と言い立てるが、大気と海水では熱容量が1000倍以上も違う(むろん海水が遙かに大きい)。だから、大気温が少々変動しても海水温はほとんど変化しないが、海水温が変動すれば大気温は敏感に反応する。エルニーニョやラニーニャの影響が大きいのは、その一例である。
南極圏では、北極圏のような明確な昇温傾向は観測されていない(これも理由は不明)。少なくとも「人間活動から出るCO2が温暖化をどんどん進めている」との確証はない。
【ウソ5】人間がCO2を出すせいで、各地の氷河が縮小ないし後退中。
【事実】縮小・後退中の氷河があるが、CO2の排出とは時期的に一致しない。
NHK等の番組が大好きなシーンとして、南極の氷河がドドーンと海へ崩落する場面がよく流される。あれは実に鮮烈であり、多くの人々に「温暖化の脅威」を強烈に印象づける。しかしあの現象は、大陸の縁まで流れ着いた氷が最後に海に崩れ落ちる自然の成り行きであって、遙か昔から続いてきた自然現象に過ぎない。これぞ「印象操作!」と言うべきだろう。しかし、あのシーンこそが、かなり多くの人々に「温暖化」を印象づけるのは事実のようである。
【ウソ6】海水面の上昇、サンゴの死滅など、海の異変が起きている。
【事実】海水面は、CO2の大量排出と関係なく、1850年頃からほぼ直線的に上昇中。海の生物に特別な変化はない。
これも、以前はツバルやモルディブなどの島が水没の危機にあると大騒ぎされたものだが、海水面の上下には様々な要因があり、少なくともCO2排出が直接的に関係しているようには見えない。実際、クーンの著書でもグラフが出ていたが、地質学的に見た地球上の海水面は、現在が最も低い部類に属し、100年以上前から続いている、現在の年間平均2〜3 mm程度の上昇率は、かなり小さい値であるらしい。
だから、縄文海進のように「関東平野が広く水浸し」というのは自然現象として現実に十分あり得るのであり、CO2排出とは無関係に起こり得る。サンゴに関しては、最近は大騒ぎが減ってきた。CO2排出とともにサンゴが減少する、などはあり得ないから。
漁獲高の変動もしばしば温暖化のせいにされているが、科学的根拠は薄い。魚の豊漁・不漁は昔から周期的に起きているし、海流その他の影響も強く受けているはずであり、一概に「温暖化のせい」と断定するのは科学的な態度ではない。そもそも、海が一様に「温暖化」しているわけではない(海水温は日射量のほかに海流や地形・風等の影響を受けて、場所による温度差がかなりある)。
【ウソ7】地球の気温は、大気のCO2濃度が決めてきた。
【事実】気温とCO2の因果関係は、まだよくわかっていない。長い地球史のうち、CO2濃度が気温を決めた時代はほとんどない。
この章では、過去の気温変動を過去170年間、同およそ2000年間、同42万年などの異なるスパンで見た後、これらとCO2濃度変化との関係を見ている。結果的に、どのスパンで見ても気温変動とCO2濃度変化に関しては、相関関係で見ると逆相関の時期があったり、時間関係で言えば前者が先、後者が後の例が多く、大気中CO2濃度が気温を左右してきたとする根拠は薄い。
ここまでで前半の「気候変動」編は終わる。科学的な基本事項は、これでほぼ尽くされていると言える。実は、ここまで書かれてきた内容は、クーンの著書とも杉山大志氏の諸著書(例えば「温暖化のファクトフルネス」その他多数)などともほとんど共通で、その点では筆者などには特に新味はない。
これはある意味当然で、地球環境の真実を科学的に正確なデータで眺めれば、見えてくる風景は同一である他はないからである。地球環境を議論するのであれば、まずはこれらの内容を、前提条件的な共通理解として用いるべきだと思う。
◇
前半部の解説だけで規定の文字数に近づいたので、後半の「脱炭素」編は次回をお楽しみに。
(続く)
【関連記事】
・「気候変動の真実」から何を学ぶか①
・「気候変動の真実」から何を学ぶか②
・「気候変動の真実」から何を学ぶか③
・「気候変動の真実」から何を学ぶか④
・「気候変動の真実」から何を学ぶか⑤
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