GXの足枷になる原発再稼働問題の根っこ

2022年12月01日 06:50
澤田 哲生
東京工業大学原子炉工学研究所助教 工学博士

y-studio/iStock

全原発を止めて電力料金の高騰を招いた田中私案

電力料金は高騰し続けている。その一方でかつて9電力と言われた大手電力会社は軒並み大赤字である。

わが国のエネルギー安定供給の要は原子力発電所であることは、大規模停電と常に隣り合わせの現状とロシアのウクライナ侵攻によって化石燃料価格が高騰していることも併せて、誰の目にも明らかになった。しかし、原子力発電所の再稼働は遅々として進んでいない。

諸悪の根源は、2013年4月に発出された〝田中私案〟にある。この「田中」とは、初代原子力規制委員長の田中俊一氏のことだ。本来ならば、運転しながら追加的安全対策やテロ対策といわれる特定重大事故対処施設を建造すればよかったのである。ところがこの私案によって、全国の原子力発電所は有無を言わせず停止に追い込まれた。そして長くて険しい安全審査の道を歩むことを強いられたのである。

当初、再稼働への適合性審査に要する時間は半年程度と田中氏は公言していたが、3.11から10年経っても再稼働していない原子力発電所が全国には沢山ある。田中私案の重大な問題点はかつて原子力ムラでもしばしば議論された。

しかし約10年経った今はほとんど忘れ去られている。その忘却の構造はかつての安全神話と同じである。恐ろしいことである。

このような状況下の11月25日、島根原子力発電所を視察する機会を得た。

ピカピカの島根3号機

島根原子力発電所は島根県の県庁所在地である松江市にある。日本では県庁所在地にある唯一の原子力発電所である。ここには1号機から3号機まである。

島根原子力発電所1号機(右)と2号機(左)
出典:Wikipedia

1号機はすでに廃炉にすることが決まっている。2号機(BWR、82万kW)は昨年2021年9月に適合性審査に合格したが、それから1年以上たったいまも再稼働していない。審査を申請したのは2013年のことである。最近の報道では2024年の1月ごろの再稼働を目指しているという。早くてもまだこれから1年以上かかるということである。実に馬鹿げた話である。

そして、3号機はABWR(改良型沸騰水型軽水炉、137.3万kW)である。この原子炉は、完成度90%以上で燃料棒さえ挿荷すればいつでも運転できる。3.11前に燃料棒挿入直前まで行っていたが、そこでフリーズしてしまった。自動車でいえば新車を納車したがガソリンを一滴も入れないままエンジンもかけずにピカピカのまま11年以上が過ぎている。

その為体を招いたのはもちろん田中私案であり、それを継承し続けている現行の規制委員会であり、そのことを放置ないしは無視し続けている政治である。

私は3.11後に島根原子力発電所を3回訪れている。その度に目の当たりにするピッカピカの3号機が哀れでならないと同時に、そのことを放置している政治の無様に腹が立つのである。3号機は稼働に向けて適合性審査の申請はしているが、実際の稼働がはたしていつになるのかは杳(よう)としてしれないのである。

3号機は未だかつて稼働していない。つまり放射化していないので単なる巨大建造物——放射線防護や核物質防護の必要がないのでどこまでも入っていける。3.11の際、炉心溶融によって燃料が溶け落ちたとされる圧力容器の下部にも入っていけるのである。制御棒案内菅が林立する様はスケールが大きいだけでなく、どこかしら感無量である。

島根原子力発電所は、自民党の電力安定供給推進議員連盟の会長である細田博之衆議院議長のお膝元にある。

島根原発3号機の原子炉格納容器の真下
産経新聞より

再稼働の大きな問題

再稼働の重大な問題点は2つある。

  • 適合性審査(安全審査)を通過しても全く動きそうにもない原発がある
  • 審査にもかかっていない原発がある

東電の柏崎刈羽6、7号機、そして東海第二発電所は適合審査を通過してからもう何年も経っている。しかしいずれも再稼働の兆候が全く見られない。どちらも地元の根強い反対がある。そしてその解決のためには、事業者は手詰まりであるから、政治が出て行くほかないのである。

次にこの図を見ていただきたい。適合性審査に〝未申請〟の原子力発電所が8基もあるのである。何故なのか? とりわけ柏崎刈羽の1号機から5号機が未申請とは——異常という他ない。

首都圏は慢性的な電力危機の状態に置かれているが、それは福島県に置かれた原子力発電所とここ柏崎・刈羽の原子力発電所がごっそりと脱落しているからである。その穴埋めを福島県広野町の火力発電所(6基、440万kW)がはたしているが、いずれも石炭火力である。

わが国の電力の安定供給のためにはこの8基の原子力発電所の再稼働に向けた申請を一刻も早く行うべきである。事業者だけでは乗り越えられない問題があるならば、そこは政治の出番なのである。

国内の原子力発電所の新規制基準適合性審査等の対応状況
電気事業連合会より

GX(グリーントランスフォーメーション)に向けた提言

11月24日、自民党の電力安定供給推進議員連盟(会長は細田博之氏)はエネルギー安全保障の確保とGX推進に向けた提言書を政府の西村経産大臣に手渡した。

原子力発電所の持続的な活用が、わが国のエネルギーの安定供給ひいては2050年カーボンニュートラルに欠かせないとして、以下の5項目を提言している。

  1. 「原子力発電の最大限の活用」および「安全性を高めた新型炉のリプレース・新増設」を、国のエネルギー政策の基本方針として明確に位置付ける
  2. 国が前面に立って、設置変更許可を受けた既設炉の再稼働を迅速に進める
  3. 安全性の確保を大前提に、現在最長60年とされている既設炉の運転期間の延長を行う
  4. 再処理や廃炉、最終処分など、バックエンド対策の加速に向けた取組を早急に具体化していく
  5. 原子力発電所に対する武力攻撃等を想定し、必要な措置を講じる

第2提言は、〝国が前面に立って、設置変更許可を受けた既設炉の再稼働を迅速に進める〟である。

私は2019年に、東海第二原発から半径30km圏内のとある自治体の議会に呼ばれて適合性審査を通過(2018年9月26日)した原子力発電所の安全性について解説を求められた。議員の趨勢は、再稼働反対8:容認2。反対派の言論を誘導しているのは共産党議員であった。

本来は中間派と思える議員たちもこの共産党議員の強い主張と理論武装の元にだんまりを続け忖度を決め込んでいる。かたや容認派は多勢に無勢、言いたいことも封殺される雰囲気が蔓延していた。あれから3年以上が経過したが今もって国が前面に立っている姿は見えない。

言うだけの政治、受けたフリだけの国(行政)では、わが国はますます昏(くら)い道をあゆむしかないのではないか。

このままではGXは掛け声だけで何も実を結ばないことになる。

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澤田 哲生
東京工業大学原子炉工学研究所助教 工学博士

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