気候危機の誤情報を国連事務総長が流布する

2023年01月06日 06:40
アバター画像
キヤノングローバル戦略研究所研究主幹

runeer/iStock

最近、自然災害を何でも気候変動のせいにするますます政治家が増えているが、これが一番深刻だ。

国連トップのグテーレス事務総長が述べている(筆者訳):

洪水、干ばつ、熱波、暴風雨、山火事は悪化の一途で、驚くべき頻度で記録を破っている。ヨーロッパの熱波。パキスタンの大洪水。中国、ソマリア、米国で長く深刻な干ばつ。

これら災害の新たな規模は、全く、自然現象ではない。これは人類の化石燃料中毒の対価だ。異常気象による災害は、過去50年間で5倍になった。

原文も引用しておこう

Our climate is heating rapidly.  Floods, droughts, heatwaves, extreme storms and wildfires are going from bad to worse, breaking records with ever alarming frequency.  Heatwaves in Europe.  Colossal floods in Pakistan.  Prolonged and severe droughts in China, the Horn of Africa and the United States.

There is nothing natural about the new scale of these disasters.  They are the price of humanity’s fossil fuel addiction.  The number of weather, climate and water-related disasters has increased by a factor of five over the past 50 years.

国連グテーレス事務総長
Wikipediaより

米国のロジャー・ピールキー・ジュニア教授が、これを猛然と批判している:

完全な誤情報。公的な場で、かかる重要機関による、かくも明白で酷く間違った主張は類例が無い。なお悪いことに、この誤情報を正当化したのは世界気象機関(WMO)で、気候変動に関する政府間パネル(IPCC)を設立した機関だ。

ロジャー・ピールキー・ジュニア教授
米国の議会公聴会での証言時の写真(米国政府資料)

異常気象による災害が50年で5倍になったというのは、以前説明した下図に基づく言説だ。この「災害の報告件数増加」は気候変動によるものではなく、この間の世界の経済成長に伴って災害の報告件数が増えたためであることは、以前詳しくのべた通りだ。

このグテーレス事務総長の発言は、国連の「科学の下の団結(United in Science)」という報告書のリリースに当たってのもの。何という皮肉か、とピールキーは嘆いている。筆者も完全に同意する。

いま、公の場で気候危機説に少しでも疑いを挟むと弾圧の対象になる。ロジャー・ピールキー・ジュニア氏は何度も酷い目に逢っている。

だがその一方で、気候危機説を唱えてさえいれば、このような重要人物が明白な誤情報を流布することが許されるというのは、深刻な事態だ。

日本の政治家やメディアが同じことをしないよう、せいぜい目を光らせるとしよう。

キヤノングローバル戦略研究所_杉山 大志』のチャンネル登録をお願いします。

This page as PDF
アバター画像
キヤノングローバル戦略研究所研究主幹

関連記事

  • 前回に続き、最近日本語では滅多にお目にかからない、エネルギー問題を真正面から直視した論文「燃焼やエンジン燃焼の研究は終わりなのか?終わらせるべきなのか?」を紹介する。 (前回:「ネットゼロなど不可能だぜ」と主張する真っ当
  • 3月12日、愛知県の渥美半島沖の海底で、「燃える氷」と呼ばれる「メタンハイドレート」からメタンガスを取り出すことに世界で初めて成功したことが報じられた。翌13日の朝日新聞の朝刊にも、待望の「国産燃料」に大きな期待が膨らんだとして、この国産エネルギー資源の開発技術の概要が紹介されていた。
  • 米国の元下院議長であった保守党の大物ギングリッチ議員が身の毛がよだつ不吉な予言をしている。 ロシアがウクライナへの侵略を強めているのは「第二次世界大戦後の体制の終わり」を意味し、我々はさらに「暴力的な世界」に住むことにな
  • (上)より続く 受け入れられた遺伝子組み換え作物 イリノイ州の農家のダン・ケリーさん(68)の農場も訪れた。 よく手入れされた美しい農園だった。大学卒業後に会社務めをした後で、父親の農場を手伝いながら金を貯め、土地を自分
  • 6月27日から30日にかけて、東京電力管内では広域ブロック予備率が5%を切る時間帯が生じると見込まれ、政府より「需給ひっ迫注意報」が発出された。SNS上では「かつてはこのようなことは起きなかった」「日本の電力の安定供給体
  • 環境税の導入の是非が政府審議会で議論されている。この夏には中間報告が出る予定だ。 もしも導入されるとなると、産業部門は国際競争にさらされているから、家庭部門の負担が大きくならざるを得ないだろう。実際に欧州諸国ではそのよう
  • 菅直人元首相は2013年4月30日付の北海道新聞の取材に原発再稼働について問われ、次のように語っている。「たとえ政権が代わっても、トントントンと元に戻るかといえば、戻りません。10基も20基も再稼働するなんてあり得ない。そう簡単に戻らない仕組みを民主党は残した。その象徴が原子力安全・保安院をつぶして原子力規制委員会をつくったことです」と、自信満々に回答している。
  • 菅首相が「2050年にカーボンニュートラル」(CO2排出実質ゼロ)という目標を打ち出したのを受けて、自動車についても「脱ガソリン車」の流れが強まってきた。政府は年内に「2030年代なかばまでに電動車以外の新車販売禁止」と

アクセスランキング

  • 24時間
  • 週間
  • 月間

過去の記事

ページの先頭に戻る↑