「ネットゼロなど不可能だぜ」と主張する真っ当な論文④

2023年01月21日 06:50
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元静岡大学工学部化学バイオ工学科

Kolonko/iStock

前回に続き、最近日本語では滅多にお目にかからない、エネルギー問題を真正面から直視した論文「燃焼やエンジン燃焼の研究は終わりなのか?終わらせるべきなのか?」を紹介する。

(前回:「ネットゼロなど不可能だぜ」と主張する真っ当な論文③

3.1. 電気自動車(BEVs)の環境負荷

一般に、BEVs(電気自動車)はCO2や排気ガスを出さずに走るので「ゼロエミッション」と呼ばれ、実際、市販のBEVsにはそのようなロゴが付されているし、CO2排出削減に役立つと信じられている。

しかし実際には、もしも、製造や走行に使われる電力がCO2フリー(CO2を出さずに得られる、の意味)でない場合には、BEVsは、ICEVs(従来型のエンジン=内燃機関で走る車)と比べて、CO2排出削減の意味はさほど大きくない。なぜなら、バッテリー製造には同サイズのICEVsと比べて遙かに大きなエネルギーを要するからだ。

この場合に役立つのは、LCA(life cycle analysis)である。LCAとは、ある製品(この場合は自動車やバッテリー)の「揺りかごから墓場まで」、つまり資源採掘から原料製造、製品組み立て、使用から廃棄(中間処理、リサイクル、最終処分)までの全過程を対象に、エネルギー消費量や環境汚染物質排出量などをできるだけ正確に見積もる手法である。

概念的には極めて有用な考え方であるが、実際に正確に定量的に見積もろうとすると、対象範囲をどのように取るかや、採掘などに要するエネルギーをどう計測するかなどで難しい問題に遭遇する。本論文でも「honest assessment」(正直、公正な見積もり)の必要性に言及しているのは、そのためである。

実際、BEVsを使用する際のCO2排出量は、その電源がどの程度の「CO2強度」を持つかで変わる。CO2強度は、むろん石炭火力なら最も大きく、風力・水力など再エネ系なら小さい(ただしゼロではない)。バッテリー製造に関しても、資源採掘法や加工方法、製造工程などによってLCAの見積もり結果は異なる。

従って数多くの研究結果があるが、まとめると、バッテリー製造におけるCO2排出量は、61〜106kg-CO2/kWh(バッテリー出力1kWh当り、製造工程で61〜106kgのCO2が排出される、の意味)の範囲にある。

しかしながら、世界の70%以上を占める中国製の場合は、この値が125kg-CO2/kWhになる。従って、60kWhのバッテリーを積むBEVsは、走る前のバッテリ−製造だけで7.5tのCO2を出している(125kg/kWh×60kWh=7500kg)。

※ 筆者注:前稿で紹介したをテスラのSタイプBEVのバッテリーは100kWhなので、12.5t CO2になる。

英国では(電源のCO2強度が低いので)、小型BEVsのCO2排出量はICEVsより少ないだろうが、ゼロではない。重機や長距離輸送用などバッテリーサイズが大きい機種では、この値が大きくなることは自明である。

もう一つ、バッテリー製造用の資源採掘で重要なのは、人体の健康への影響(HTP:human toxicity potential)であり、水や生態系への毒性が評価される。ある研究結果では、BEVs用バッテリー製造において、排出される環境汚染物質のため、HTPがICEVsの場合より3〜5倍悪いとなっている。つまり、BEVsの環境影響は、バッテリー用資源の採掘国にまで輸出されることになる(例えば、コバルトを産するコンゴ共和国やリチウムを産するチリなど)。

また、鉱物資源を採掘する際には、目的資源以外の土砂や不要鉱石などが必ず出る。これを表す指標として「エコリュックサック(Ecological Rucksack)」の概念がある。例えば1トンの銅を得るには鉱石・土砂などの自然資源500トンを移動する必要があり、この場合のエコリュックサック値は500と表される。この値はもちろん目的鉱物の含有率で変わり、銅なら500で済むが、銀では7500、金や白金ともなると35万にも達する。

本論文では、バッテリー全体としてこの値を500としている。そして一例として日産リーフを挙げ、40kWh、300kgのバッテリーを積んでいるので、150tの土砂や鉱石を移動させたことに相当するとしている(これまで見てきたように、40kWhのバッテリーなど、まだ可愛いものであるが)。

これらの事項は現時点ではほぼ無視されているが、今後バッテリー製造量を100倍も増やさなければならないとすると、無視できない問題になると著者は指摘する。当然である。

3.2. インフラ及び物資の必要量

英国では、ガレージを有する車は22%しかない。その他は屋外駐車になるから、BEVsの場合は駐車場所の近くに充電ポイントが必要で、その数は200万箇所以上になると言う。2030年までにそれらを設置する場合、英国では80〜180億ポンド(160円/ポンドとして1兆2800億円〜2兆8800億円)かかるとされる。

また、BEVsは一般に高価である。一番安い日産リーフでも英国では2万9千ポンドする。同サイズの日産ミクラ(と言う名のICEVがあるらしい)は1万4千ポンド(約半額)である。最近の研究でトヨタは最も楽天的なシナリオでも、2030年までにBEVsをICEVsと同じ値段で売るのは困難だと結論しているらしい。実際のところ、バッテリー需要量が増えてその価格が上昇すると、BEVsの価格を下げるのはさらに難しくなる。

LCA的見積もりによれば、日産リーフ(BEV)は、英国ではICEVsより30%ほど温室効果ガス排出量が少ない。しかし一般のドライバーには目に見えては分からない。従って現状、平均的な消費者にとってBEVsは特に魅力的ではない。燃料価格が高くなれば、BEVsの総コスト(購入時+使用時)はICEVsより低くなるとの議論もあるが、それはBEVsを走らす電気代が変わらないとした場合であって、燃料価格が上がる時には電気代も上がるのが通例である。

先にも述べたように、英国には約3600万台のLDVsがあり、一方2021年末現在のBEVsは36万台(=1%)に過ぎない。これを(あり得ない話だが)2030年までに1000万台に増やすとする(LDVsの28%になる)。この中の10%(100万台)が仕事の終わりの夕方に充電するとしてみよう。

それぞれがレベル1(最低)の7kWで充電するとしても、100万台では7GW(=700万 kW)の追加電力が必要になる。ヒンクリーポイント原発が2箇所以上必要になる。

※ 筆者注:同原発は2014年に英仏共同で作られることになったもので「世界で最も高価な原発」として有名。

実際には、英国政府は22年5月末に、EV用充電器はピーク負荷時間帯には充電できないように設定すべしとの規約を設けた。BEVsドライバーたちには、ますます不便になる。

私事で恐縮だが、筆者は最近、車を買い換えた。16年間乗った25年モノの愛車(中古で買った時に既に9年ものだった)を遂に諦めたから。交換部品はとうに製造中止、空調を修理すると35万かかると言われ、ドアミラーが時々閉まらなくなるシロモノだった。

もはや長距離は乗らないが地方都市では日常の足としての車は必需品である。老夫婦二人きりだし、軽で良いよな。軽にハイブリッドは未だないから、今流行の電気自動車はどうかな?・・でも価格がまだ高い。それに集合住宅の駐車場に充電施設はないので、自前で作らないと。その工事費を含めると補助金55万円でもまだ高くて手が出ない(筆者はエコ住宅や車を買うのに税金で補助する制度自体に不賛成なのだが)。

カー・リースも検討したが、条件的に満足できず。結局「普通の」軽自動車(ICEV)を買った。この論文で指摘されている電気自動車の問題点に、いちいち思い当たった。

またついでながら、最近発表されたソニー・ホンダモビリティの新しいコンセプトEVには大いに失望したことも書いておこう。彼らが富裕層しか見ていないことに失望したのである。

ソニー・ホンダモビリティの「AFEELA」
AFEELA公式ウェブサイトより

多くのユーザーは、車に「劇場空間のようなエンターテインメント性」など求めていない。下駄代わりの足として、購入時に安くて燃費が良く、運転しやすく安全性の高いクルマを求めているのであって、それ以外は些事に過ぎない。あの発表されたEVの豪華な仕様・装備では、たぶん500万円以下で買うのは困難だろう。筆者のような一般庶民には、手が届きそうにない。

3.3. 英国で2030年までにBEVsに転換するための現実的なCO2インパクト(影響)

英国では、自動車やバン(比較的軽量な車両:LDVs)が交通分野のエネルギー消費の約70%を占める(ちなみに航空分野は12%)。上記のように、BEVsはLCA的に見て「CO2ゼロ」の車ではないが、欧州基準では、同規模のICEVs(内燃機関を積む車)より25%ほど温室効果ガス排出量が少ないとされる(IEAの最新研究による)。

故に、上記のごとく、英国で2030年までにBEVsを1000万台に増やす(LDVsの28%になる)として、削減できる温室効果ガス排出量は、交通分野全体の4.9%しかない(LDVsが交通全体の70%、その28%がBEVs、BEVsのCO2削減率が25%:0.7×0.28×0.25=0.049)。

21年末で36万台しかないBEVsを30年までに1000万台まで増やすとしても、そうなのである。この状態でもICEVsが70%以上を占めるので、仕方ないと言えばそうなのだが。

結論として、CO2を4.9%減らすためにBEVsを36万台から1000万台に増やすことは、バッテリー製造の環境負荷やこれらのBEVsが一斉に充電するときの電力負荷を考慮すると、トクにはならない。むしろ、LDVsの大きな部分を占めるICEVsの効率(=燃費)を向上させ、排気ガスをきれいにする方が効果的である。

また、トヨタプリウスのような部分的な電動車(HEVs:ガソリンエンジンで発電しモーターとエンジン両方で走る)は、BEVsよりもバッテリーがずっと小さくて済むので有利であり、温室効果ガス削減の意味でもBEVsよりお勧めの選択肢だと、本論文の著者は述べている。

欧州では、将来的にHEVsの販売も禁止しBEVsだけにしようとしているが、それに真っ向から反対する立場である。筆者もこれに賛成する。現実を直視すれば当然そうなる。

(次回に続く)

【関連記事】
「ネットゼロなど不可能だぜ」と主張する真っ当な論文①
「ネットゼロなど不可能だぜ」と主張する真っ当な論文②
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元静岡大学工学部化学バイオ工学科

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