グローバルサウスが主役になったCOPはゆるやかに死んでゆく
ドバイで行われていたCOP28が先週終わったが、今回のCOPはほとんど話題にならなかった。合意文書にも特筆すべきものがなく、何も決まらなかったからだ。
今年は「化石燃料の段階的廃止(phase out)」という文言を合意文書に入れるかどうかが焦点だったが、中国やインドや途上国が反対し、段階的削減(phase down)という言葉になり、さらに化石燃料からの脱却(transition away)という玉虫色の表現に落ち着いた。これには具体的な意味がない。
COPは科学ではなく政治で決まる
COPの歴史は、科学ではなく政治が気候変動対策を決める歴史だった。その正式名称は国連気候変動枠組条約(UNFCCC)の締約国会議。発効したのは1994年だが、最初に合意文書がまとまったのは1997年のCOP3の京都議定書だった。
日本は温室効果ガスの6%削減という義務を国会で全会一致で承認した。これは不可能な約束だったが、議長国の日本は1兆円近いコストをかけて中国などから削減枠を買い、目標を名目的に達成した。
次の大きな区切りは2015年のパリ協定だった。このときは京都議定書にこりた日本が削減義務を拒否し、NDC(各国の削減目標)の集計として工業化前より2℃上昇で抑えるという目標と、できれば1.5℃上昇に抑えるという努力目標が設定されたが、2016年にアメリカがパリ協定を脱退した。
その後のCOPでは毎年、この1.5℃目標を正式の目標に昇格させようとするEU諸国と、それに反対するグローバルサウスの対立が繰り返されてきた。そのピークが2021年のCOP26(グラスゴー)だったが、目標設定にインドが強硬に反対し、パリ協定の努力目標の確認に終わった。
いま思えば、これがヨーロッパが主役になってCOPを運営した最後だった。昨年のCOP27(エジプト)では、逆にグローバルサウスが先進国に気候変動の損害を賠償するよう求める損害と賠償の枠組が決まった。1.5℃目標は放棄され、その後は問題になっていない。
その後は「ガソリン車の禁止」や「石炭火力の禁止」などに一部の国が合意しただけで、全締約国の合意としては化石燃料の廃止が最後の争点だったが、これも今回、失敗に終わった。
グローバルサウスがCOPの主役になった
実はそんなことはどうでもいい。COPの合意文書には法的拘束力がなく、罰則もないからだ。これは年に1回、各国の「環境貴族」が集まって紳士協定を書き直す儀式だが、今年は議長国のUAEが大量の代表団を送り込み、参加者は11万人になった。
これまで1.5℃目標や化石燃料などをめぐって、EUとグローバルサウスの対立が繰り返されてきたが、今年は両者の力関係が逆転した。世界のCO₂の半分以上をグローバルサウスが排出している現状では、彼らが協力しないと合意は実現できない。

全国地球温暖化防止活動推進センター(JCCCA)
そしてグローバルサウスが求めているのは、100年後の温暖化防止ではなく今の経済発展である。再エネだけで工業化はできず、化石燃料は不可欠である。いま熱帯で起こっている洪水などの被害を防ぐには、脱炭素化より堤防などのインフラ整備のほうがはるかに効果的だ。
こういう認識はCOPに集まるエリートには共有されており、今後のCOPでは全締約国の目標設定が放棄されるだろう。その代わりグローバル・ストックテイクと称して、各国のNDC実施状況を監視することになった。
こうしてゆるやかにCOPは死んでゆく。それは社会主義インターナショナルが失敗に終わり、消えていった歴史の再現をみるようだ。脱炭素化は社会主義であり、それを理想とする国では実現できるが、それを認めない国は協力しない。
そもそもこんな法的根拠のないサロンを毎年開く必要はない。来年はCOP開催を引き受ける国がなく、次は東欧の番だということでアゼルバイジャンになったが、紛争当事国でCOPを開くのは初めてだ。
気候変動をゼロにしようという理想は美しいが、世界にはまだ電力のない生活をしている人が7.6億人もいるのだ。100年後のCO₂濃度を心配するのは、衣食住の足りる生活ができてからで十分である。

関連記事
-
東北電力についでBWR2例目の原発再稼動 2024年12月23日、中国電力の唯一の原子力発電所である島根原子力発電所2号機(82万kW)が発電を再開しました(再稼働)。その後、2025年1月10日に営業運転を開始しました
-
IPCCの報告がこの8月に出た。これは第1部会報告と呼ばれるもので、地球温暖化の科学的知見についてまとめたものだ。何度かに分けて、気になった論点をまとめてゆこう。 前回の論点⑳に続いて「政策決定者向け要約」の続き。前回と
-
福島における原発事故の発生以来、世界中で原発の是非についての議論が盛んになっている。その中で、実は「原発と金融セクターとの関係性」についても活発に議論がなされているのだが、我が国では紹介される機会は少ない。
-
BLOGOS 3月10日記事。前衆議院議員/前横浜市長の中田宏氏のコラムです。原子力関係の企業や機関に就職を希望する大学生が激減している実態について、世界最高水準の安全性を求める原発があるからこそ技術は維持されるとの観点から、政治家が”原発ゼロ”を掲げることは無責任であると提言しています。
-
1月31日公開。 アメリカのトランプ大統領は、就任早々にTPP離脱、メキシコ国境の壁、移民の入国制限などの大統領令を矢継ぎ早に出し、世界を驚かせました。日本に対しても通商交渉を求め、保護主義と石油資本を中心としたエネルギ
-
政策として重要なのは、脱原子力ではなくて、脱原子力の方法である。産業政策的に必要だからこそ国策として行われてきた原子力発電である。脱原子力は、産業政策全般における電気事業政策の抜本的転換を意味する。その大きな構想抜きでは、脱原子力は空疎である。
-
エネルギーは、国、都市、そして私たちの生活と社会の形を決めていく重要な要素です。さらに国の安全保障にも関わります。日本の皆さんは第二次世界大戦のきっかけが、アメリカと連合国による石油の禁輸がきっかけであったことを思い出すでしょう。
-
東京電力福島第一原子力発電所の1号機から4号機においては東日本大震災により、①外部電源および非常用電源が全て失われたこと、②炉心の燃料の冷却および除熱ができなくなったことが大きな要因となり、燃料が損傷し、その結果として放射性物質が外部に放出され、周辺に甚大な影響を与える事態に至った。
動画
アクセスランキング
- 24時間
- 週間
- 月間