縄文時代は北極圏にブリがいてサンゴ礁もあった

2024年05月26日 06:50
アバター画像
キヤノングローバル戦略研究所研究主幹

日本でも縄文時代は今より暖かかったけれども、貝塚で出土する骨を見ている限り、食べている魚の種類は今とそれほど変わらなかったようだ。

けれども北極圏ではもっと極端に暖かくて、なんとブリや造礁サンゴまであったという。現在では、ブリといえば温帯から熱帯にかけての魚だし、造礁サンゴは千葉県館山あたりが日本の太平洋側での北限だ。

科学的手法の進歩で、この発見があった(解説記事)。これまでは、洞穴や貝塚で出土した魚の骨の形から魚種を判断していた。そうすると、粉々になった骨からは何の魚か分からなかった。ところがそのDNAを分析することによって、多くの魚が同定できるようになった。同様にして動物も多くが同定できるようになった。

新しい論文(Boilard et al, 2024)によると、北緯82度にあるノルウェイ北部の洞穴のDNAを分析したところ、ブリ、造礁サンゴ、カブトガニに加えて、ヤマネコ、イエネコ、イヌ(ないしオオカミ。遺伝的には同じなので区別できない)、ヒグマ、アヒル、カモメ、カエルなどが確認されたという。

このうちのいくつかは、これまで知られていた生息の北限記録を大きく更新するものだった。日本だと瀬戸内海に生息するカブトガニは、現在、世界での北限は北緯45度で、北極圏からは遥か遠くに離れている。

2年前に発表された先駆的なDNA分析研究では、グリーンランドの北端においても、360万年前から80万年前にかけては年平均気温が今より11℃から19℃も暖かく、造礁サンゴやカブトガニが生息していたことが分かっている(Kjaer et al.2022)。アヒル、トナカイ、ウサギにマストドンまで居たとのことで、いまでは不毛の地であるが、当時はずいぶん豊かな風景だったようだ。

このようにして、北極域では、かなりの温暖化と動物相の北方への移動が、過去に自然に何度も繰り返されてきたことが分かる。

自然環境中のDNAの分析はまだ始まったばかりの分野だが、これから多くの研究が出てくるだろう。そうすると、過去の地球の自然変動がかなり大きく、それに追随して動物も北へいったり南にいったり移動を繰り返してきたことが、より克明に分かってくるだろう。

This page as PDF
アバター画像
キヤノングローバル戦略研究所研究主幹

関連記事

  • ウクライナ戦争の帰趨は未だ予断を許さないが、世界がウクライナ戦争前の状態には戻らないという点は確実と思われる。中国、ロシア等の権威主義国家と欧米、日本等の自由民主主義国家の間の新冷戦ともいうべき状態が現出しつつあり、国際
  • 長期停止により批判に直面してきた日本原子力研究開発機構(JAEA)の高速増殖炉の原型炉「もんじゅ」が、事業の存続か断念かの瀬戸際に立っている。原子力規制委員会は11月13日、JAEAが、「実施主体として不適当」として、今後半年をめどに、所管官庁である文部科学省が代わりの運営主体を決めるよう勧告した。
  • 2月24日、ロシア軍がウクライナ侵攻を始めてからエネルギーの世界は一転した。ロシアによる軍事侵攻に対して強力な経済制裁を科すということをいち早く決めた欧米諸国は、世界の生産シェアの17%を占めるロシアの天然ガスについて、
  • 日本の2020年以降の削減目標の「基準年」はいつになるのか。一般の方にはそれほど関心のない地味な事柄だが、しかし、基準年をいつにするかで目標の見え方は全く異なる。
  • 今年8月、EUは米国と結んだ共同声明で炭素国境調整メカニズム(CBAM)を事実上骨抜きにすると約束しました。 日本企業を苦しめてきたEU脱炭素規制の潮目が変わるか https://agora-web.jp/archive
  • 9月25日、NHK日曜討論に出演する機会を得た。テーマは「1.5℃の約束―脱炭素社会をどう実現?」である。 その10日ほど前、NHKの担当ディレクターから電話でバックグラウンド取材を受け、出演依頼が来たのは木曜日である。
  • 米最高裁、発電所温暖化ガス排出の米政府規制制限       6月30日、米連邦最高裁は、「発電所の温暖化ガス排出について連邦政府による規制を制限する」判断を示した。 南部ウェストバージニア州など共和党の支持者が多い州の司
  • 本原稿は2012年5月の日本原子力産業協会の年次総会でバーバラ・ジャッジ氏が行った基調講演要旨の日本語訳である。ジャッジ氏、ならびに同協会の御厚意でGEPRに掲載する。

アクセスランキング

  • 24時間
  • 週間
  • 月間

過去の記事

ページの先頭に戻る↑