マスコミ等の気候変動煽動には「気候ファシズム」の香りがする
「気候変動についての発信を目指す」気象予報士ら44人が共同声明との記事が出た。
マスコミ報道では、しばしば「物事の単純化」が行われる。この記事自体が「地球温暖化による異常気象が深刻化する中」との前振りで始まっており、正確に言えば論理の飛躍がある。「地球温暖化」という全球的かつ100年オーダーの時間規模で進行する現象と、「異常気象」という局地的かつ短期的な現象がどのように関連しているのか、科学的には何一つ解明されているわけではないのに、全く無条件に結びつけているからである。
もっとも、この記事では「度重なる豪雨や、去年夏の地球温暖化がなければ起こりえなかったとされる猛暑など、極端な気象現象は今後一層頻発化し、激甚化する可能性が指摘されています。」との断り書きは入れている。しかし具体的なデータは一切示されず、誰が何を根拠に「可能性を指摘した」のかも書かれていない。昨年6月に出た環境白書の記事などと同様である。杉山大志氏の同白書批判記事を参照されたい。
つい最近も、気候変動科学の政治利用を科学雑誌ネイチャーの論文が批判している。著者ウルフ・ビュントゲンの言葉は、一つ一つ説得的で、味読すべき内容に満ちている。
私は、気候科学者が気候活動家になることを懸念している。同様に、科学者のふりをする活動家についても心配している。
・・・自己批判と多様な視点がなければ、科学者たちは最終的に自分たちの研究の信頼性を損ない、より広範な社会的、政治的、経済的反発を引き起こす可能性がある。同様に、科学者のふりをする活動家についても心配だ。
・・・科学は探索されるものではなく科学者によって説明されればよいという考え方は、愚かな過大評価であり、地球の気候変動という複雑な分野を、多くの人々にとっての独断的な偽宗教としてしまう。科学が示す方向性など一つも定まっていないのに、活動家が「科学に従え」と言うのは、まったく非合理的である。
この言葉は、私にはいちいち頷ける内容で、全くその通りだと思う。しかし現実には、この言葉が危惧している方向に、日本の世の中は進みつつあるように見える。
話を気象予報士らが「天気予報で気候変動問題も伝えよう」との声明を発した件に戻す。気象予報士は、気象業務法に基づき実施される試験に合格し、気象庁長官の登録を受けて初めてなれる。今年3月末現在で約12000名が登録されており、その約4割の3000名以上が日本気象予報士会に入っている。
TVに出てくる「お天気キャスター」は大半、この会から派遣されるとのことだ。つまり彼らは気象の専門家である。気象の専門家なら、海の熱容量が圧倒的に大きくて海水温の変動こそが気温変動の原因であることくらい、分かっているだろうに。
また、日々の天気予報の経験から、偏西風の蛇行や台風の発生や進路などの予測が実に困難で、1週間先の予報さえも正確性に欠けることを実感しているはずだ。だから彼らはしばしば言う、「直近の予報をご参照ください」と。長い先のことなど、予報できてはいないことを実質的に白状している。まして何年も先の気温や気候の変化などは。実際、昨年の猛暑を2年も前から予想できていた人がいただろうか?
また、大気中CO2濃度の変化が長年にわたりほぼ一定なのに、気温は短期間に大きく変動している事実から、CO2が気象に与える影響は小さいと言わなければならないのに、彼らはその種の話を決してTVの前では言わない。もっとも、気象予報士会の裏話として、この種のことで「本当のことを言う」とTVに出してもらえないそうだとの話を聞いた。全く、科学が腐りきっている。
米国でも似た事情にあるらしい。MITのR. Lindzen教授は、昨年の動画で次のように言っている。
今の米国では、温暖化懐疑論者は、論文が通らない、研究費が止まる、学生指導ができない。NASA、NOAA、EPAの所長で懐疑派はみなクビになった。若手が懐疑論を口にすると職がない。お天気キャスターは気候危機に同調しないとクビになる。
米国がそうであるなら、日本もほぼ同じ状況になるのは何ら不思議でない。
そして、朝日新聞には最近、「科学者ら「黙っていられない」気候変動対策求め市民とキャンペーン」なる記事も出た。
温室ガス削減へ「科学の声に耳を傾けたまっとうな政策を」と科学者が市民や政治家に呼びかける、のだとか。呼びかけ人の言によれば「科学の示す唯一の道筋は、温室効果ガス削減の深掘りしかない」とのことだ。
また、市民365人が「気候変動は人権侵害」だと言うことで日本政府や裁判所に訴えるとの記事も出た。その賛同人の一人、気候科学者の江守正多氏も「人間活動による温室効果ガスの排出により地球が温暖化していることには疑う余地がありません(IPCC第6次報告書)。」と述べている。
これらの人々には共通点がある。それはIPCC報告書を間違いのない聖典として崇め、その内容に対する疑問や批判を一切受け付けないことである。まさに「IPCC真理教」信者たちと呼ぶべき事態である。
実際には第1次以来、IPCC報告書の内容は数多くの科学者たちから様々な疑問や批判を投げかけられている一方で、彼らは温暖化の科学をまともに語ってこなかったというのが実情である。例えばアゴラの読者ならば杉山氏が掲げた最新のIPCC報告書の論点整理(1〜63)を読んで、その実情の一端を御存知のはずだ。
さらに付け加えると、大気中CO2濃度は、測定開始以来50年以上もの間ずっと、年間約2ppmずつ増加し、現在は410ppmを越えている。大気への毎年のCO2蓄積量は、炭素換算で3〜4ギガ(109)トンに相当する。
しかしこの値は、毎年200ギガトン以上に上る地表と大気間のCO2交換の差であって、なぜ毎年200ギガトン以上も出入りしながら、その差が計ったように3〜4ギガトンに収まるのか、分かっていない。
つまり人類は、大気〜地表間CO2の挙動メカニズムを十分に解明したとはとても言えない。言い換えると、人類発のCO2だけが大気中CO2濃度増加の原因だとも科学的には確定していないのだ。それなのに、なぜ彼らは「CO2排出削減だけが解決策だ」と言い張れるのだろう?
そもそも、IPCCとその信者の言う「科学」とは何だろうか? 彼ら自身が語っていないので推測になるが、信頼に足る実際の測定データやそれに基づく計算結果などではなく、彼ら自身作のシナリオに基づいたコンピューター・シミュレーションの結果を重んじるのが「科学」であるらしい。しかし現在までに開発された気候モデルは数多いが、過去の気候さえも十分正確に再現できていないことは、すでに広く知られている(以前紹介したクーンらの著書を参照されたい)。
似非科学は都合の良い発見だけを選び、批判を陰謀と見なすのに対し、真正科学ならば、全ての新発見を考慮に入れ、正確な測定を心掛け、批判を歓迎するものだ。もし上記の「黙っていられない」人たちが真正科学を希求するなら、ぜひ以下の点をあれこれ議論したいものだ。
例えば、大気中CO2濃度を何ppmまで下げたら気候変動が制御できるとお考えですか? それには何トンのCO2を大気から除去しなければなりませんか? それはどうやって実現できますか? 日本は世界の3%しかCO2を出していないのですが、それでも有効ですか? 等々。
なぜなら、上記のようにこの人たちは「まっとうな政策は温室効果ガス削減の深掘りしかない」と言っているからだ。
今の日本では、こと地球温暖化や脱炭素に関して、自由で開かれた意見の交換などは行われていない。圧倒的な政府権力と学会その他の「権威」が、温暖化説に懐疑的なライターや学者・研究者を牽制し、メディアを萎縮させているように見える。
つまり国と「権威」が手を組んで情報操作と言論統制を行っており、教科書の記述さえも「温暖化は人類起源のCO2が原因」(→上記のように、科学的には断言できないはずの内容)を強制してきた。
これは「気候ファシズム」というべき状況なのではないのか? ここ日本は、イデオロギーを国家統制している全体主義国家ではなく、憲法21条で言論の自由が保障されている「民主主義国家」であるはずなのに。
これら政府その他の「問答無用」ともいうべき態度は、戦前の大政翼賛会的状況を連想させ、私は非常に大きな危機感を覚える。言論弾圧で国民の声を圧殺し、暴走した末に、日本は敗れた。戦後わずか79年で、日本人は過去の悲惨な歴史の教訓を忘れてしまうのだろうか? 私としては、日本にはまだ「言論の自由」が存在すると信じたいのであるが。
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