破綻する緑の党の政策:再エネ幻想が招くドイツの自滅と自然破壊

2025年08月26日 07:00
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作家・独ライプツィヒ在住

Maoriphotography/iStock

2019年にEUの欧州委員会の委員長に就任したフォン・デア・ライエン氏が、自身の中枢プロジェクトとして始めたのが「欧州グリーン・ディール」。これによってヨーロッパは世界初の“気候中立”の大陸となり、EU市民にはより良く、より健康で、より豊かな未来が約束され、ヨーロッパはさらに統一を進め、強大になるというのが触れ込みだった。しかし、氏の予言は全て、これ以上の大外れはないほど、ことごとく外れた。

ただ、驚いたのは、この夢見るプロジェクトを鉦や太鼓で盛り立ててきたシュピーゲル誌が、8月18日のオンライン版で、「グリーンディールは引き戻すべきか?」というタイトルの記事を掲載していたことだ。

グリーンディールがどう考えても科学的に破綻したシナリオであることは、普通の常識と理性の持ち主なら、これが発表された当日からわかっていたはずだ。それにもかかわらず、これまで主要メディアはEUの思想に忠実で、国民は懐疑の心を捨てよと言わんばかりに煽ってきたくせに、今さら「グリーンディールは引き戻すべきか?」とは何事か?

ちなみに同誌によれば、グリーンディールはすでに「クリーン・インダストリアル・ディール」にすり替わっているという。知らなかった…。

一方、この欧州グリーンディールに乗っかって、気候中立というそもそも意味不明の目標に向かって突進したのがドイツ政府だ。特に、2021年12月からは、政権に入った緑の党がここぞとばかりミスリードの先頭に立った。

現在、ドイツには、陸海合わせて風車が3万本以上立っている。それを10万本にし、ドイツの電力需要を100%再エネで賄い、経済を発展させるというのが、ハーベック経済・気候保護省(以下・経済省)の挙げた公式目標だった。

ドイツの風車の様子
筆者撮影

ただ実際には3万本の風車がすでに電気代を高騰させ、国民を苦しめている。そして、大企業は高い電気で高い製品を作っても売れず、次々に国外に脱出し始めた。ドイツ経済は23年よりマイナス成長にはまり込み、抜け出せる見込みもない。

風力電気の買取制度が整備されたのが1990年。20年間、一定価格で、全量を買い取り、投資に弾みをつけることが目的だった。ただ、本当に拍車がかかったのは、メルケル政権の時だ。この頃すでに、「人間が過去100年の間に出したCO2が原因で温暖化が進行しており、今、それをくい止めなければ世界は破滅する」というストーリーが一人歩きしていた。2015年のパリ協定では、将来、CO2フリーの世界を作ることが人類の義務となり、厳しい削減目標が立てられた。

2018年には、スウェーデンで始まったFridays for Future運動が、あっという間にドイツを席巻。少女の“教祖”、グレタ・トゥンベリ氏が国連で、「すでに家は燃えている」「How dare you?」と絶叫したのもこの頃だ。その後、彼女はバチカンで、普段着姿で教皇と会見するまでに至ったのだから、CO2騒動はすでに常軌を逸していた。

メルケル首相は、「気候問題は人類の運命」と謎めいたことを言い、国連のグテレス総長が「このままでは地球が沸騰する」と暴言を吐いても、主要メディアはその非科学性を追求することもなく、正当な“警告”として報道しただけだった。

ただ、ドイツでは、ハーベック経済相の10万本計画にもかかわらず、風力電気は3万本からなかなか伸びなかった。というのも、設置が容易で、しかも風況の良い場所はすでに立ち終わっていたからだ。

そこでハーベック氏は23年1月、すでに高かった陸上風力電気の買取値段をさらに引き上げた。そして、各州を回って、州首相にもっと風車を立てろとプレッシャーをかけ、さらに、設置の妨げと思われる法律をどんどん廃止、あるいは改正した。

これにより、住民は抗議活動も反対訴訟もできなくなり、また、自然保護地域で木を切り、森を潰すことが許されるようになった。国家の権力で国民の権利を縮小、自然も犠牲にしたわけだが、「他に選択肢がない」というのがハーベック氏の言い分だった。

今では、陸上の風力発電への投資は絶対に損のない商売だ(ただし、海上風力の投資は進まず、ほぼ止まっている)。投資家は風車さえ立てれば必ず儲かる。それどころか、風がない時でも保証がつく。こんな良い商売はない。

ただ、風力電気は、送電線敷設や、供給の増減の膨大な調整コストを考慮すると、火力よりもずっと高くつき、自由市場で採算は取れない。つまり、投資家の利益もその他のすべてのコストも、製品(電気)を売ったお金でカバーされているわけではなく、税金の持ち出しとなる。

要するに、ドイツ自慢の「エネルギー転換」は技術革新でも何でもなく、巨大な分配システムだ。投資家、政治家、風力ロビイ、環境NGOなどが万全のネットワークを形成し、それをメディアが後押しする。そして、皆が税金からセルフサービスにように、膨大なお金を持っていくのだから、まさにぼったくり連合。

ちなみに23年6月までは、再エネのコストは再エネ賦課金として電気代に乗せられていたが、将来、それがますます高額になることがわかっていたため、国民を刺激しないよう、税金の中に “隠した”。バカを見ているのは国民だ。

なお、ウクライナ戦争の只中、エネルギーの高騰と逼迫を尻目に、唯一安価で安定した電源であった原発を全て止めたのも、ハーベック氏だった。

脱原発というのは、緑の党と社民党の40年来の夢だ。ただし、夢であるから収支は合わない。だからこそ、与党である間にこれを達成しなければ、機会は永遠に失われることを彼らは承知だった。そこで、23年4月に脱原発を強行し、今年の2月の総選挙で敗北した。しかし、ドイツにとって不幸なことに、彼らの破滅的なエネルギー政策は残った。

現在のメルツ政権(CDU・キリスト教民主同盟)はというと、この暴走に歯止めをかけられない。なぜか? メルツ首相は第2党(現在のアンケートではすでに第1党)であるAfD(ドイツのための選択肢)を極右として排除しているため、社民党と連立し、さらに緑の党の協力がない限り、政権を維持できないからだ。だから、メルツ氏は国民の支持率13%の社民党と11%の緑の党にしっかりと首根っこを抑えられたままで、選挙前に主張していた「原発の再稼働」も雲散霧消。エネルギー政策の改善は望めない。

さて、日本。風力ではなく太陽光で、ドイツと同じく自然破壊と経済破壊が起こっている。

私は数年前から日本での講演の際、テーマが何であろうが、最後に必ず釧路湿原の太陽光パネルの写真(新日本文化チャンネル桜撮影)を示し、なるべく多くの人にこの実態を知ってもらおうとしていた。

釧路湿原国立公園を取り巻くメガソーラーの様子

エネルギー供給の改善にも、国力の増強にも、経済発展にも、どう考えても何の役にも立たないことのために、なぜ、かけがえのない自然を壊さなければならないのか? 怒りは大きい。これを止められない政治家が、他の場面で国民のための政治をしているとは想像できない。そんな政治家なら、いない方がいいと思う。

釧路湿原、その他あちこちの太陽光パネルの現状に、共に怒ってくれる人が増えることを、心から願っている。

海岸段丘に無造作に敷き詰められたソーラーパネルの様子(紀伊半島の南南西部)

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