COP30最大のリスクは気候でも森林でもなく宿泊問題だ

Md Zakir Mahmud/iStock
COP30議長国ブラジルは11月にベレンで開催されるCOP30を実行力(Implementation)、包摂(Inclusion)、イノベーション(Innovation)を合言葉に、アクション中心の会議にすることを目指しており、グローバル共同作業(Global Mutirão)と呼ばれるイニシアティブを提案している。
「Mutirão」とはブラジルのポルトガル語で「地域住民が自主的に協力し合って行う共同作業」を意味する言葉である。「グローバル共同作業」はこれを地球規模に拡張したものであり、気候変動への対応を政府だけでなく都市、企業、NGO、先住民族、若者、市民社会等、多様な主体の「共同作業」として位置付け、それぞれの役割で協力するプラットフォーム形成を目的としている。
政府が主体となる国別貢献(NDC:Nationally Determined Contribution)に対し、多様な主体が参加するグローバル貢献(Globally Determined Contribution)による国境を超えた協力を提唱している。
またベレンはアマゾン森林を有するため、COP30では森林保全を中心テーマに据えている。年間40億ドル規模の「Tropical Forests Forever Facility(TFFF)」という基金構想(1ヘクタール4ドル)による熱帯林の保全を軸に、途上国や地域社会・先住民族への資金還元を目指している。
さらにCOP29で掲げられた「2035年までに年間1.3兆ドルの気候資金を動員する」目標に向けた「1.3兆ドルに向けたバクー・ベレムロードマップ(Baku to Belem Roadmap to 1.3 T)の実行も議論される予定だ。
グローバル共同作業やグローバル貢献はアイデアとしては理解できるものの、その実現に向けたイメージが不明確であり、TFFFにせよロードマップにせよ、先進国も経済情勢が厳しく、途上国支援の拡大に向けた納税者の理解を得にくいことを考えれば、COP30の見通しは決して明るいものではない。
しかしこうした中身の問題とは別にCOP30を失敗に終わらせる最大のリスクは宿舎問題だ。COP期間中に開催地のホテルの値段が高騰することは決して珍しいことではない。ただ、COP30では5万人人近くの参加が見込まれる一方、開催地ベレンのホテルインフラは圧倒的に不足している。
この点については今年初めから各国政府が強い懸念を表明しており、一時は首脳セッション等の象徴的なイベントはベレンで開催するも、その他の会議はリオデジャネイロやサンパウロ等の大都市で開催するとの希望的観測も流れたが、ブラジルはベレン開催にあくまでこだわった。
6月の準備会合ではブラジル政府によるロジ(運営・宿泊計画)の説明会が開催され、「早急に政府によるホテル予約サイトを立ち上げる。現在、ホテルの建設を進めており、クルーズ船を宿泊用に利用することも検討している」とのことであったが、公式ホテル予約サイトの立ち上げは8月までずれ込んだ。
さらにベレンのホテルがこれまでのCOPと比較しても法外な価格を請求していることが各国の強い怒りを買っている。筆者は11月16日~22日まで7泊するが、その代金が約100万円(!)である(ちなみに9月の1週間の滞在費用は6万円くらいである)。
このような「ぼったくり」がベレン中のホテルで生じており、一部の途上国政府は会議への不参加、代表団規模の縮小を検討している。各国政府からはブラジルに対し、より宿泊施設の充実しているリオデジャネイロ、サンパウロ等の大都市に移すことを求めているが、ブラジルは頑としてこれに応じていない。
世界最大の熱帯雨林を有するアマゾン川の河口であるベレンの開催という象徴的意義にこだわっているのだろう。
8月22日のブラジル政府と気候変動枠組み条約事務局の打ち合わせの際、国連側は発展途上国の代表団に1日当たり100ドル、先進国の代表団に同50ドルの宿泊代補助を求めたが、ブラジル側は「ブラジル政府はすでにCOP30開催のために多大な費用を負担しており、ブラジルよりはるかに豊かな国々を含む他国の代表団を補助する余裕はない」との理由でこれを拒否している。途上国の中には本当に参加見合わせ、代表団縮小を強いられる国も出てくるだろう。
筆者のこれまでの経験に照らせば、開催地の宿泊事情、会場との交通、会場の設備(トイレ、飲食物の値段等)等のロジ面で参加者に強い不満を感じさせるCOPが成功したためしはない。
その典型的な事例は会場のキャパシティを大幅に超える人数を参加登録し、多くの人を雪のふりしきる戸外で行列させたコペンハーゲンのCOP15(2009年)であり、会議運営の拙劣さもあり、「デンマークに2度と大きな会議の主催をやらせるな」とさえ言われるようになった。
今回のCOP30の宿泊をめぐるトラブルがこのまま続けば、会議の成否そのものも危うくなろう。疑いなく宿泊問題はCOP30最大のリスクだ。
関連記事
-
けさの「朝まで生テレビ!」は、3・11から7年だったが、議論がまるで進歩していない、というより事故直後に比べてレベルが落ちて、話が堂々めぐりになっている。特に最近「原発ゼロ」業界に参入してきた城南信金の吉原毅氏は、エネル
-
2026年8月、ビル・ゲイツ氏が韓国を訪れ、自ら創業した米テラパワー社と韓国のSK、HD現代、斗山エナビリティーとの間で、新型の小型原子炉「SMR」をめぐる協力が次々とまとまった。 この出来事は、単なる一企業の商談ではな
-
福島では原子力事故の後で、放射線量を年間被曝線量1ミリシーベルトにする目標を定めました。しかし、この結果、除染は遅々として進まず、復興が遅れています。現状を整理し、その見直しを訴える寄稿を、アゴラ研究所フェローのジャーナリスト、石井孝明氏が行いました。
-
トリチウムを大気や海に放出する場合の安全性については、処理水取り扱いに関する小委員会報告書で、仮にタンクに貯蔵中の全量相当のトリチウムを毎年放出し続けた場合でも、公衆の被ばくは日本人の自然界からの年間被ばくの千分の一以下
-
「気候変動の真実 科学は何を語り、何を語っていないか」については分厚い本を通読する人は少ないと思うので、多少ネタバラシの感は拭えないが、敢えて内容紹介と論評を試みたい。1回では紹介しきれないので、複数回にわたることをお許
-
太陽光発電でナイターって。。 JERAとセ・リーグ、太陽光発電で照明「脱炭素ナイター」開催へ…阿部慎之助監督「ファンの皆さんと一緒に取り組んでいきたい」 : 読売新聞 発電大手JERAとプロ野球セントラル・リーグ6球団は
-
「原発、国民的合意を作れるか? — 学生シンポジウムから見たエネルギーの可能性」を GEPR編集部は提供します。日本エネルギー会議が主催した大学生によるシンポジウムの報告です。
-
2019年にEUの欧州委員会の委員長に就任したフォン・デア・ライエン氏が、自身の中枢プロジェクトとして始めたのが「欧州グリーン・ディール」。これによってヨーロッパは世界初の“気候中立”の大陸となり、EU市民にはより良く、
動画
アクセスランキング
- 24時間
- 週間
- 月間














