2028年蛍光灯禁止の不平等条約が一人暮らし老人を憂鬱にする

kazuma seki/iStock
前回、2028年に蛍光灯が禁止されることになり、一人暮らし老人世帯は10万円規模の出費を強いられることについて書いた。今回はその続き。
なぜ蛍光灯禁止などというご無体な規制ができてしまったのか。
確かに、「2027年末までに蛍光管の製造と輸出入が禁止」ということは、2024年12月に閣議決定されている。そしてこれに先立ち、水銀汚染を規制する国際的な枠組みである水俣条約において、「2027年末までに蛍光管の製造と輸出入禁止」ということが2023年11月の締約国会議で合意されている。
全ての一般照明用蛍光ランプ(蛍光灯)について製造・輸出入の禁止が決定(一般社団法人日本照明工業会)
なんだ、この不平等条約は?
これは欧米にとっては、全然、大した問題ではない。というのは、天井の真ん中に蛍光灯がついて部屋全体を明るく照らすというのは、日本独特の習慣だからだ。
欧米ではライトスタンドが壁際に立っていて、ランプの光が直接に目に入らないようにフードを付けた間接照明が普通であり、たいてい、部屋の中は薄暗い。これは海外旅行をすればみな体験するし、最近では、ちょっと小洒落た国内のホテルでも、欧米風に、薄暗い照明しかない部屋もよくある。
欧米人はよくサングラスをかけて歩いているけれども、あれは眩しいからで、蛍光灯で照らされた日本の部屋も、彼らにとっては、明るすぎる、眩しい、と感じるらしい。単なる習慣の違いなのかもしれないが、そもそも目のつくりが違うのかもしれない。
これに対して、日本人はどうも薄暗い部屋を好まない。特に、仕事をするときには、上から明るく照らしてもらう方がいい。何でもよく見えるし、目も覚める。
日本で天井に据える蛍光灯が普及した理由は、同じワット数でその方がはるかに明るいからである。省エネの観点からは、蛍光管の方が白熱電灯よりも効率がいい、という言い方もできるが、それ以上に、同じワット数でより明るくなること、これが日本で蛍光灯が普及した最大の理由である。
蛍光灯禁止というと、日本では、天井についている蛍光灯器具を取り替えなければならないから、非常にお金がかかる。このことを前回見てきた。だがこの一方で、欧米ではこの蛍光灯禁止というのは大したことではない。というのは、もともと天井の蛍光灯器具など無いからだ。
欧米では、最初にあったのは白熱電灯である。そしてその白熱電灯のソケットをそのまま使って、コンパクト型の蛍光灯、いわゆるCFLにある程度移行が進んだ。今度はそこにLED型のランプをつけるだけで済む。だから、欧米にとってはこの蛍光灯禁止というものは、大したものではない。単につける電球が変わるだけのことである。
このように、照明事情が全く違うのだから、日本政府はもっと真剣に交渉して、ご無体な蛍光灯禁止という合意に反対すべきであった。少なくとも例外的な措置を求めるべきであった。だが残念ながら、そうはなっていない。
この禁止は、環境問題の観点から見ても、バランスを欠いている。
水銀を規制するためだというが、蛍光管を廃止するという、そんなことまでしなければいけないのかは甚だ疑問である。蛍光灯のせいで亡くなった人だとか、病気になった人など聞いたことがない。
水銀を使っているといってもごく微量であるし、無機水銀であって、水俣病を起こした有機水銀とは全く毒性の性質が異なる。
現に過去何十年も、日本中で蛍光灯を使ってきた。それで何ら問題は発生しなかった。これを禁止しようというのは、欧州式の極端なゼロリスク信仰である。
水銀に、ある程度の毒性があるのは確かである。だがそれはきちんと管理すれば何の問題もない。実際にそのようにして蛍光灯を使い続けてきたのだ。蛍光灯を禁止するなどというばかげたことをする必要はない。これまで使い続けてきた蛍光灯器具を、まだまだ十分使えるのに捨ててしまうことの方が、よほど環境に悪いのではないか。
日本政府は「2027年末の蛍光管の製造と輸出入の禁止」を延期すべきだ。併せて、水俣条約においてもスケジュールの繰り延べについて交渉すべきである。少なくとも今ある蛍光灯器具が十分に製品寿命を終えるまで、蛍光管を供給し続けることは、政府、そしてメーカーの責務なのではないか。
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