送電線「から押さえ」がもたらす機能不全:蓄電池急増の裏で起きていること

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系統用蓄電池が参入ラッシュ
2022年度以降、系統用蓄電池の参入が急速に拡大している。図1は資源エネルギー庁の「次世代電力・ガス事業基盤構築小委員会」資料からの抜粋だが、送電線への接続検討申込み数、ならびに送電系統への接続契約数がともに急増していることがわかる。
特に、実際の契約申込みよりも、その前段階である接続検討の伸びが著しい点に注目したい。2024年度には9,544件もの接続検討申込みがあった。日本全国を集計した値とはいえ、あまりにも多すぎるのではないか。これはいわゆる「から押さえ」と呼ばれるもので、いまやデータセンターの進出を制約する要因にもなっており、大きな問題となっている。

図1 電源種別の接続検討・契約申込み推移
次世代電力・ガス事業基盤構築小委員会資料から一部筆者が加工
系統用蓄電池の導入目的
太陽光発電や風力発電は、電気の使用量にあわせて発電するのではなく、太陽光まかせ、風まかせで発電する。特に太陽光は1日の太陽の動きにあわせて発電するため、日本中の太陽光発電所はほぼ同じような出力カーブを描く。そのため、春先など電気の消費量が少ない時期には、日中帯に発電量が消費量を上回ってしまい、一部の太陽光発電や風力発電を停止させて対応している。

図2 2025年5月5日九州電力 太陽光発電、揚水式発電実績グラフ
図2は2025年5月5日の九州電力管内における太陽光発電の発電実績グラフである。薄い黄色で示した部分が実際の発電実績の電力量、濃いオレンジ色の部分が発電を抑制したため発電できなかった電力量を表している。
また参考として、揚水式発電の実績を赤い折れ線グラフで示した。値がマイナスになっている部分は電力を消費して水を上池にくみ上げている時間帯、値がプラスになっている部分は、くみ上げた水を落水させて発電している時間帯である。
重ねてみるとよくわかるが、太陽光発電の出力が上がる7時30分ごろになると、揚水式発電のポンプを動かして電力を消費し、水をくみ上げている。夕方、太陽光発電の出力が下がる16時30分ごろにポンプを停止させ、今度は発電機を動かして発電していることがわかる。すなわち、揚水式発電を最大限活用して、太陽光発電の抑制量を減らしているのである。
しかし、現状では揚水式発電を最大限活用しても、なお太陽光発電を抑制している。すなわち、揚水式発電で電力を消費させても、まだ太陽光発電が余っているのである。
太陽光や風力発電の発電抑制を減らし、さらに導入を進めるためには、揚水式発電所を大量に新設することが必要になる。しかし、それには莫大な費用がかかるし、仮に資金の問題が解決したとしても、地形などの制約から揚水式発電所を建設できる地点は限られている。そこで出てくるのが大容量の蓄電池である。
蓄電池は揚水式発電と同様に、電気を貯めたり、充電した電気を放電したりすることができる。すなわち、蓄電池を大量に導入すれば、水力発電に適した川や渓谷がなくても、揚水式発電所を増設したのと同様の効果が得られるとの目論みから、経済産業省も蓄電池の導入に積極的なのである。
系統用蓄電池は電力系統への悪影響が大きい
経済産業省だけでなく東京都まで独自の補助金を出して導入に熱心な蓄電池だが、まだ導入がほとんど進んでいない段階で大きな問題が発生している。
それは蓄電池事業者による送電線の「から押さえ」によって、工場や大型ショッピングモール、さらには将来の日本の発展に不可欠なデータセンターなどが電気の供給を申し込んでも、10年以上も待たされる事態が発生していることである(日経クロステック「東京電力PG・岡本副社長に聞く、データセンター急増で電力供給はどうなる」より)。
この「から押さえ」について説明していく。
送変電設備と発電所、需要家(負荷)の関係は複雑で、一般論で説明するのは難しいため、ここでは単純化したイメージで説明する。すべての再エネ発電所や蓄電池設備の連系がこのようになるわけではないことを、あらかじめ断っておく。

図3 変電所から工場や家庭に送電しているイメージ図
図3は、一般的な変電所から工場や家庭に電気を送電しているイメージである。工場で50、家庭で20の電気を消費した場合、変電所の変圧器および出口部分の送電線には70の電気が流れる。トランスや送電線の容量が100だとすると、余力は30ということになる。データセンターなど新たな供給申込みがあれば、30まではアクセス線の工事のみで供給が可能になる。

図4 図3に太陽光・風力発電が連系した場合のイメージ図
次に、太陽光発電や風力発電が電力系統に連系してきた場合を考える。図4は最大出力が30の太陽光・風力発電が連系した場合のイメージである。変電所の出口の電力は、太陽光・風力発電の出力によって40~70の間で変動することになる。太陽光・風力発電は出力が不安定であてにならないため、空き容量が増えることはない。しかし、太陽光・風力発電は発電するだけで電力を消費しないため、空き容量が減ることもない。

図5 図3に蓄電池が連系した場合のイメージ図
次に、図5に系統用蓄電池が連系した場合を示す。蓄電池は充電することもあれば、放電することもある。図5の上側は充電時であり、電力系統から見れば電気を使う方向、すなわち負荷になる(充電方向を順潮流、放電方向を逆潮流と定義している)。
蓄電池を運用する会社が充電時に最大40を希望してきた場合、変電所を流れる電力は110となり、容量オーバーとなる。さらに空き容量が0になるため、データセンターや工場などが受電を希望しても応じられない。変電所の容量増強や、送電線全体を張り替えて容量増強を行わなければならない。
トランスの増設であればどんなに急いでも4~5年はかかり、送電線の張替えであれば10年以上かかる(しかも、専用のアクセス線ではない、いわゆる共用部分の増強費用は電気を使っている国民全員の負担になる)。このように、蓄電池が増えると送電線の空き容量はどんどん減っていく。
横行している「から押さえ」とは?

図6 送電線に連系する場合の手続きの流れ
図6は、発電会社やデータセンターなどが送電線を利用しようとした場合の手続きの流れである。「接続検討申込・受付および接続検討回答」という聞きなれないステップがある。
接続検討とは、「電気を使用する場所」と「容量」を指定して申込みを行うと、電力会社から提供可能かどうか、および提供する場合のアクセス線など必要な費用の概算が回答されるものである。提供可能かどうかを判断する材料としては、図3~5に登場する「空き容量」の数字をもとに算出される。
もし、同じ送電線に2件以上の「接続検討申込み」があった場合は、先着順に検討を行う。すなわち、先に申し込んだ会社が空き容量を確保し、空き容量がゼロになった場合は、後から申込みをした会社には「提供不可能」という回答になる。
今のルールでは、「提供可能」という回答をもらった会社が、「契約申込みをする権利」を確保したまま、何年も放置することが可能である。権利を保有する会社から放棄の申し出がない限り、電力会社の側から回答の結果に期限を設けたり、契約を急がせたり、複数の会社間の調整をしたりすることはできない。
今のルールは、新規参入の発電会社に対しては架空の検討申込みなどはしないというまじめな性善説でできており、電力会社に対しては独占的な地位を乱用する意地悪な性悪説でできているからである。
接続検討を申し込む側にも事情がある。発電所を新設する候補地をいくつか定めて、その場所が実際に送電線の提供が可能なのか、アクセス線の負担はいくらくらいなのかは、実際に「接続検討申込み」をしてみないと正確な回答は得られない。
さらに、空き容量の確保は「早い者勝ち」である。一度確保した「契約申込みの権利」を放棄してしまえば、他の会社が確保してしまうかもしれない。その後、改めて最初から申込みをしても、もう「提供可能」の回答は得られないかもしれない。
そういった事情があるため、我先にと多くの「接続検討申込み」が殺到し、一度確保した「送電線に接続をする権利」はなかなか放棄されないことになる。このように、接続検討申込みの回答をもらっても、いつまでも契約されない申込みのことを「から押さえ」と呼び、から押さえの横行によって、本当に電気の供給を望んでいる会社が何年も待たされる事態が生じている。
また、一部の会社であろうと信じたいが、電力会社から安く提供可能という接続検討申込みの回答を受けたら、その先の契約申込みを行う権利を他社に転売する動きもある。最初から転売で利益を上げることを目的に、大量に「接続検討申込み」をしている会社もあるとされている。
図1に示したとおり、2024年度は1万件近い「接続検討申込み」があることを踏まえると、会社は一部でも、転売目的の申込みの件数は一定数あるのではないだろうか。
性悪説ルールによってがんじがらめにされている電力会社としては、変電所や送電線など共用部分の容量を拡大することくらいしか対策がない。しかし、これは短期間にはできないし、共用部分のコストは私たちに請求される託送料金に跳ね返る。さらには、「契約申込みの権利」を行使しないでいつまでも権利だけを確保されてしまうと、容量の拡大を行った設備は有効に活用されず、容量の一部しか利用されない設備が全国で大量に発生してしまう。
今のルールでは、性善説に守られた転売業者が収益を上げることはできるが、日本の将来に本当に必要なデータセンターへの電力の供給が後回しになってしまうのだ。
系統用蓄電池は役に立っているのか?
こんなに問題の多い系統用蓄電池だが、すでにいくつか導入が進んでいる。役所の目論見どおり進んでいるのか、実績をグラフ化してみた。

図7 2025年5月5日九州電力 太陽光発電 蓄電池実績グラフ
図7は、図1と同じ日である2025年5月5日の九州電力管内の太陽光発電実績に、蓄電池の充放電実績を重ねたものである。水色の線が蓄電池の充放電実績だが、悲しいかな、ほぼゼロに張り付いている。そこで、わかりやすいように図8に蓄電池の折れ線グラフのみ目盛を200倍に拡大したグラフを示す。

図8 2025年5月5日九州電力 太陽光発電 蓄電池実績グラフ
蓄電池の発電量目盛を200倍に拡大して記載
グラフの形をよく見てもらいたい。揚水式発電所のグラフとは異なり、充電と放電が小刻みに行われていることがわかる。太陽光発電が余剰になる8時から14時ごろまで充電し、その後放電しているのかと思ったが、実際にはそうなっていない。
これにはいくつかの理由が考えられる。
「蓄電池の容量は6時間程度の太陽光発電の余剰分を吸収するには全然足りない」
「蓄電池の運転は電力の需給事情ではなく、短期市場での単価の高低によって決められている」
「最近導入された需給調整市場での売買に基づいて運転している」
など、様々な理由が考えられるが、基本的には系統用蓄電池の運転は各発電所で個別に勝手に行われている。蓄電池が揚水式発電の代わりや補完となるには、かなり高い壁が多くあるように思う。
経済産業省はここにきて「から押さえ」対策の検討を進めているが、いずれも小手先の対策であって、大した効果は見込めないだろう。それよりも、図7で示したように蓄電池が電力の供給に貢献している割合は微々たるものである。
最近導入された需給調整市場での調整力として収益を上げているという話もあるが、これも原資は私たちが納めている託送料金である。蓄電池の導入は電気代を値上げする効果しかない。直ちに導入をやめて、安価な大型石炭火力の供給力および調整力を活用すべきである。
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