原子力は再エネの敵なのか? 電力需給データが示す出力抑制の真実

2026年04月04日 07:00
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J-POWER 執行役員/京都大学経営管理大学院 特命教授

vencavolrab/iStock

2012年の固定価格買取制度(FIT)導入以来、太陽光発電の増加が続いており、2019年に初めて九州電力エリアで太陽光発電の発電出力制御(以下「再エネ出力抑制」)が行われ、その後他のエリアにも波及して、2025年には東京電力エリア以外の全てのエリアで再エネ出力抑制が行われた。

そして本年3月1日に、東京電力エリアで最初の再エネ出力抑制が行われ、その後も出力抑制が毎週起きるようになり、日経新聞に「再エネ発電抑制、東電エリアで3週連続 柏崎刈羽原発稼働で増加も」という記事が掲載された。

九州電力エリアで再エネ出力抑制が頻発した頃から、「原子力発電が再エネ電力の出力抑制を増加させて再エネ導入促進を阻害している」といった意見が散見されるようになった。「現行の優先給電ルールを見直して、再エネを最優先すべき」という大胆な主張までも見られた。

CO2を排出しないクリーン電力という意味では、太陽光や風力などの再生可能エネルギーと原子力は同じはずである。しかし、原子力を再エネの敵と見なすような意見は、何を根拠としているのだろうか。

まず、「優先給電ルール」について説明すると、2012年の固定価格買取制度の導入に合わせて定められたルール※1)である。導入された太陽光や風力発電設備の発電電力が最大限活用されるように、電力需要を供給が上回った場合に必要な出力制御(=発電電力を減らす)を行う順番が定められている。

以下に示す資源エネルギー庁HP※2)に記載の説明では、太陽光と風力の出力制御は4番目で、その前に①~③の順番に出力制御、揚水・蓄電池の活用、他電力への送電などを行うことが定められている。そして、④太陽光・風力の出力制御の次に、⑤原子力の出力制御という優先順位となっている。

つまり、前述の大胆な主張は「現行制度を改めて、原子力を先に出力制御して、太陽光や風力の出力制御を最後にすべき」というものである。

では、実際にはどのように電力需給がどのように行われているのかを、発電設備の電源構成で太陽光の割合が1/3を超える九州エリア(日本の10系統で最大)の実データで見てみよう。

最も太陽光の出力制御が起きやすい春先の電力需給データ(2025年5月1日~14日の実績※3))を図1に示す。縦軸でゼロより下側の黄色と赤のハッチング部分が、太陽光発電の出力抑制を示している。

5月は暖房も冷房も不要な気温のため、1年のうちで最も電力需要が低く、太陽光発電の出力抑制が起こりやすい時期であり、このグラフでは晴天の日の昼間は例外なく太陽光発電の出力抑制が行われていることが示されている。

図1 九州の電力需給実績(2025年5月1~14日)

CO2を排出する火力発電は発電量を自由に制御できるのに対して、CO2を排出しない再生可能エネルギーと原子力は自由に制御することはできない。

電気の特徴として需要と供給を秒単位で合わせなければならず、「一定の発電電力量を維持する原子力発電」と「天候に左右されて制御できない再生可能電力」だけでは、需要に合わせた電力供給は不可能である。そのため、前掲の優先給電ルールに沿って、需要に対する過不足を制御可能な火力発電で補正(いわゆる「シワとり運転」)することで供給を需要にぴったり合わせる(=需給をバランスさせる)ことで、安定的な電力需給を維持している※4)というのが実態である。

電気を完全にCO2フリーにするのは難しい、ということは、図1に示した同じ期間のエリア電力需要に対するCO2フリー電力(=再エネおよび原子力)による電力供給を見れば、容易に理解できる(図2)。原子力(図中のオレンジ)が一定なのに対して、太陽光発電量(図中の黄色)は、日中のみ発電して昼に最大となり、その発電量は天候によって変化している。

図2 エリア需要とCO2フリー電源の発電電力量(九州、2025年5月1~14日)

電力の需給バランスを取るためには、図中のエリア電力需要(黒線)に合わせた電力供給が必要であるが、CO2フリー電源の発電量合計は晴れた日の昼間はエリア需要を上回り、日が差さない日と夜間はエリア需要を下回っている。黒線からはみ出た部分は「余剰」、黒線より下の白い部分は「供給力不足」である。

そこで、系統運用者は需給をバランスさせるために、優先給電ルールに従って出力抑制を行う。「余剰の太陽光発電量」を減らすための運用を示したのが図3である。

具体的には、CO2フリー電力供給が需要を上回る時間帯に、系統連系線経由でエリア外への送電量(図中の薄紫色)を増加させ、揚水発電所の揚水運用(=電動ポンプで下池の水を上池に汲み上げる、図中の濃紺色)を行うことで電力需要を増加させる(図中の赤線)。それによって太陽光発電の余剰(赤線より上にはみ出た部分)が図2に比べて減っていることがわかる。

図3 優先給電ルール運用:太陽光発電の出力制御の前(九州、2025年5月1~14日)

それでもなお需要を上回る太陽光発電に対しては、優先給電ルールに従って系統運用者が「出力制御」を行い、図4のようになる。この図の需要曲線の下の色の白い部分は、CO2フリー電源だけでは電力供給が不足していることを示している。需要と供給をバランスさせることができるのは、この部分を埋めるように火力発電が電力供給するからである。

図4 優先給電ルールの運用:太陽光発電の出力制御まで(九州、2023年5月1~12日)

それでは、原子力発電「抜き」で、再エネ電力のみで発電するとどうなるだろうか。同じ期間の再エネ電力による電力供給に優先給電ルール運用を行う場合を図5に示している。

再エネ電力合計が需要曲線を上回るところはないので、太陽光発電の出力制御は不要である。これを、原子力が一定の電力量で発電している場合(図2)と比較すると、確かに原子力発電の稼働により太陽光の出力抑制が増加するという関係があることがわかる。

図5 再エネ電源のみの発電電力量と優先給電ルール運用(九州、2025年5月1~14日)

一方で供給不足の量(需要曲線の下の白い部分)に注目すると、図5では供給不足の量が多く、その総量(白い部分の総面積)は原子力発電が稼働している図4の約3倍である。この供給不足量に対して火力発電が電力供給を行うことになるので、再エネ電力のみの場合は、火力発電による電力量は原子力稼働時の約3倍、従ってCO2排出量も原子力稼働時の3倍となる。

つまり、固定価格買取制度の目的であるCO2排出量を低下させるという点からは、「再エネ電力のみ」より「原子力+優先給電ルールに基づいた太陽光発電の出力制御」の方が、断然効果が大きい(この例では3倍)ということである。

このように、実際の電力需給データに基づいた分析により「原子力発電+優先給電ルールに基づいた太陽光発電の出力制御が、CO2排出量削減量を最大にする」ということを定量的に示すことができる。電力の低炭素化という点では、決して原子力は再エネと敵対するという構図ではなく、双方を活用することが低炭素化には最も有効なのである。

それでもなお、「原子力より再エネを優先すべき」と主張するのであれば、それはCO2排出量低下という再エネ導入促進の本来の目的を見失った「再エネ電力の出力制御さえ減らせればよい」という再エネ至上主義と呼ぶほかない。

※1)正式には、電力広域的運営推進機関が送配電等業務指針において定めている出力制御を行う順番のこと
※2)資源エネルギー庁のHPに記載されている出力制御の説明より引用
※3)九州電力送配電のHPに2016年度以降の電源別発電実績(1時間値)のCSVファイルが掲載されている。
※4)需給バランスに加えて、変動と調整力(変動を吸収する能力)のバランスを取ることも必要。従来は需要の変動に対して調整力のバランスを取ってきたが、近年では太陽光と風力の変動を加味してより大きな調整力を確保する必要がある。図4で需要カーブと太陽光の間に空白があるのは、調整力を加味しているため。

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