ガソリン補助金を実施する日本政府は脱炭素も排出量取引も廃止せよ

中東情勢に関する関係閣僚会議に出席する高市首相
首相官邸HPより
補助金で値下げし節約を要請する高市政権の迷走するエネルギー政策
イラン情勢の緊迫化による原油の供給不安を受け、5月の大型連休明けにも国民にガソリンなどの節約や節電を要請する案が政府内で浮上している。ホルムズ海峡の事実上の封鎖が長期化する懸念が強まる中での対応だが、ガソリン補助金で値下げしながら節約を求めるという政策の矛盾も浮き彫りになっている。
今の政府は、ガソリン補助金と国民へのエネルギー節約要請の矛盾(ジレンマ)に加えて、脱炭素との整合もとれない三すくみ状態(トリレンマ)に陥っています。
ガソリンを補助金で値下げするのは、日本政府の2050年脱炭素目標やその手段とされるカーボンプライシングとは真逆の行為であり、筆者はその矛盾点について4年前からたびたび指摘してきました。
もしも本気で政府が脱炭素をめざすのであれば、補助金(=これも国民の血税です)を出して価格を抑制するのではなく、必要なコストを説明した上で国民に納得してもらわなければなりません。さらに言えば、今後も原油や電力等の価格が高騰することを国民へ説明するとともに、原発再稼働や石炭火力発電の利用拡大といったエネルギーコスト上昇の回避策もきちんと示して政策の選択肢を与えるべきです。
GX実行会議や経産省、環境省の審議会などでは、脱炭素を進めるためにはエネルギー使用量を減らす必要がある、CO2排出量に応じて税金やペナルティを課すのだ、という方向で議論が進んできたはずです。つまり、ガソリンや電気を問わずあらゆるエネルギー価格を上げることで使用量を抑制すると言ってきたわけです。
地球環境や将来世代のために脱炭素が必要です、と根拠なく言うだけなら誰も反対しませんが、多大なコスト負担や生活への影響を示されれば国民が反発し国の脱炭素目標が後退するのは当然の帰結です。
脱炭素のためには炭素税やカーボンプライシングによる化石燃料の使用量抑制が必要だと言いながら、化石燃料そのものであるガソリン価格に補助金を投じるのは完全に矛盾します。
そして、脱炭素の震源地だった欧州も同じ矛盾を抱え始めました。
脱炭素主導の欧州、苦肉の燃料減税 米イラン攻撃でガソリン高騰
欧州でガソリンや軽油にかかる税金を一時的に削減する動きが広がってきた。米国とイスラエルによるイラン攻撃を受けたエネルギー価格高騰の影響を和らげる。他国・地域より重い燃料税を課して脱炭素を主導してきた欧州にとって苦肉の策となる。
スペインは50億ユーロ規模の緊急対策を決定した。ガソリンや軽油などエネルギーの付加価値税(VAT)を6月まで21%から10%に、物品税はEUが規定する最低水準まで引き下げる。給油1リットルにつき最大0.3ユーロ安くなる計算だ。
ポーランドでもガソリンと軽油にかかる付加価値税の税率を23%から8%に引き下げる法律が成立した。物品税はスペイン同様、EUの最低水準に下げる。
イタリアやアイルランドなども含め少なくとも10カ国程度が燃料減税を打ち出している。減税の期間は数週から数カ月と国によって幅がある。
これ、米国に続き欧州も事実上の脱炭素撤回です。2050年はまだ24年も先なので知らん顔して据え置くのかもしれませんが、直近の2030年55%削減目標は絶望的です。
昨年末にCSRD、CSDDD、CBAMが骨抜きとなり、今年に入ってからはEU-ETS(欧州排出権取引)の無償枠削減についても延期の議論が出はじめました。青息吐息で昨年末に国連へ提出した2040年90%削減(実態は85%削減なのでグリーンウォッシュ目標)も達成の見込みはありません。
翻って、我が国はこの4月からGX-ETS(国内排出量取引制度)、ならびにSSBJ基準導入によるスコープ3排出量を含むサステナビリティ情報開示の義務化が始まりました。これも繰り返し述べているとおり、欧州CBAM、CSDDDなどの影響がほとんどなくなったため日本で義務化する大義名分がなくなりました。
排出量取引を義務化された対象企業は炭素クレジットの購入を課されます。米国でSEC規則案が廃止され、欧州でCSRD、CSDDDが縮小されたことからも明らかなように、世界で唯一義務化した日本のSSBJもコスト負担でしかありません。GX-ETS、SSBJいずれも価格転嫁されて物価上昇につながるため、ここでもガソリン補助金との矛盾が生じます。
政府はGX-ETSもSSBJも一旦停止するか、義務化をやめて自由化すればよいのです。GX-ETSやSSBJに取り組むことが企業価値向上につながるのであれば、放っておいても企業は自主的に取り組みます。
ガソリン補助金(ならびに1年限定ながら石炭火力発電フル活用)と、国民へのエネルギー節約要請、そして脱炭素目標は完全に三すくみ状態です。2030年46%削減、2035年60%削減、2040年73%削減、2050年脱炭素の各目標をすべて撤回すれば、即座にトリレンマは解消されます。
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